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144/186

144,生野の苦しげな表情と同居するに至った経緯と驚愕の表情を浮かべる有希

「たまたま高校の同級生とSNSで再会して、そいつから事件のことを聞いたんです。俺、そんなことがあったなんて全然知らなくて」


 伸はうなずく。

 

「被害者も加害者も未成年だということで、あまり報道もされなかったらしいね」


「その同級生は大学でも西原と付き合いがあるみたいだけど、事件以来、西原は学校に来ないし、連絡がつかなくなっているって。俺もあわてて西原にメッセージを送ったけど、既読にもならないし、電話もつながらないし……」


 生野は、コーヒーカップから離した手を握りしめる。伸は言う。

 

「事件以来、スマホの電源を切ったままなんだよ。ずいぶん経ってから、一度電源を入れたら、通知音が連続して鳴り出して、有希は怖いって言って、俺に電源を切らせて、それきりスマホには触れていない」


「そうだったんですか……」


 しばらく考え込むようにした後、生野は、再び話し出した。

 

「俺、西原のことが心配でたまらなくて、でも、誰に聞いても、西原がどうしているのか誰も知らないし……。その同級生が、昔、西原の家に行ったことがあるって言うもんだから、そいつに場所を聞いて、いきなり訪ねるのは失礼だと思ったけど、ほかにどうすればいいかわからなくて、今朝、新幹線に乗って……」


 あぁ、彼はまだ有希のことを……。生野の苦しげな表情を見て、伸はそう思った。

 

 じっと見つめていると、生野が顔を上げた。

 

「さっきの女の人、西原のお母さんですよね。若くてきれいでびっくりしたけど、西原によく似ている」


「そうだね」


「それで……」


 上目遣いにこちらを見ながら、生野は口ごもる。伸は言った。

 

「俺がどうしてここにいるかっていうこと?」

「はぁ……」



 確かに、こんな状況は、普通ではあり得ない。いくら不測の事態が起こったからといって、同性の恋人が、母親の住む家で一緒に暮らすなど。

 

 生野が不審に思うのも無理はない。そう思い、伸は、同居するに至った経緯をかいつまんで説明した。

 

 話を聞き終えた生野は、まだ呆然としたまま言った。

 

「じゃあ、今は安藤さんが主夫ってことですか?」


「まぁ、そういうことになるのかな」



 そのとき、階段の上で物音がした。はっとした次の瞬間、階段を下りて来る足音とともに有希の声。

 

「伸くん、どこ?」


 目を覚ましたとき、部屋に伸がいなかったので、不安になって探しに来たのだろう。伸がソファから立ち上がったときには、有希は、あと数段を残すところまで下りて来ていた。

 

「西原!」


 立ち上がりながら声を上げる生野。彼に気づいた途端、有希は驚愕の表情を浮かべて頬を押さえ、階段を駆け上がって行った。

 

「ちょっとごめん」


 生野にそう言い置いて、伸は有希の後を追う。急いで部屋に戻ると、有希は頬を押さえたまま床に座り込んでいた。

 

「ユウ」


 そばに駆け寄り、両腕で肩を抱く。

 

「生野くんは、ユウのことを心配して来てくれたんだよ。最近になってあのことを知って、連絡がつかないから、高校の同級生にこの家の場所を教えてもらって、新幹線に乗って来たそうだよ」


「あぁ……」


 有希が声を漏らす。

 

「こんな姿、見られたくなかった」


「ユウ。ごめんよ。麗衣さんは出かけるところだったし、ユウは眠っていたから」


「生野には、元気だった頃の僕だけを覚えていてほしかったよ……」


 声が震えている。

 

「ごめん。俺のせいだね。ユウを起こして、ちゃんと事情を話せばよかった」


「そんなこと……」


 有希は、目元をぬぐいながら言った。

 

「伸くんは、いつだって僕のことを一番に考えてくれる。起こしたらかわいそうだって思ったんだってわかっている。


 伸くんは悪くないよ……」

 

 そう言うそばから涙がこぼれる。

 

「生野くんには帰ってもらうよ。彼ならわかってくれるだろう。


 話して来るから、ユウはベッドで休んでいて」

 

 抱えるようにして有希を立ち上がらせ、ベッドまで連れて行く。なんと軽率なことをしてしまったのかと、伸は自分に呆れる。

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