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141,写真と画像加工と寂しげな顔でうつむく有希

 その日以来、有希は料理だけでなく、部屋の中の小物や窓から見た空など、あらゆるものを撮るようになった。伸にも頻繁にカメラを向けて来るので、場合によっては気まずいときもあるのだが、有希の好きなようにさせている。

 

 有希は楽しそうに写真を撮っているし、以前より元気になったようなのがうれしい。そのうち有希は、パソコンに取り込んだ画像をあれこれと加工して楽しむようになった。

 

「伸くん、これ見て」


 パソコンに向かっていた有希が、振り返って伸を呼ぶ。ベッドに腰かけてネットのニュースをチェックしていた伸は、スマートフォンを置いてそばに行く。

 

「何?」


 有希がにっこり笑う。

 

「コラージュだよ」

「どれどれ。おっ……と」


 パソコンの画面を見た伸は、思わずのけぞった。あらゆる角度や表情の伸が、あらゆる加工をされて一つの画像の中に収まっている。

 

 有希が得意げに言った。

 

「力作でしょう? ほら、この伸くんとか絵画風の加工をしてみたんだ」


「いや。まぁ」


「あれ? 気に入らなかった?」


「いや。そんなことはないけど」


「ないけど?」


「ちょっとびっくりした」


 長い時間パソコンに向かっていると思ったら、こんなものを作っていたとは……。だが、有希は楽しそうに言う。

 

「これ、パソコンの壁紙にしようかなぁ。でも、壁紙にするならやっぱりドーンとアップのほうがいいかなぁ」


 伸はあわてる。

 

「勘弁してくれ。恥ずかしいよ」


 だが、有希は平気な顔で言う。

 

「いいじゃない。どうせ僕しか見ないんだから」


「麗衣さんだって見ることがあるかもしれないだろ」


「今さらママのこと気にする? 毎日一つのベッドで寝ているのに?」


「それとこれとは別だよ」


 一緒に寝ていることだって、気にしてはいるのだ。だが、伸の言葉に、有希は首を傾げた。

 

「意味わかんない……」



 その後、有希が撮った料理の写真を見せてもらった。以前は週に一、二度、伸の部屋に来たときに撮っていたのだが、今はほとんど毎日、日によっては三食撮るので、早くも膨大な数になっている。

 

「これこれ」


 画面をスクロールしていた有希が、一つの画像をクリックする。

 

「ほら、前と同じアングルで撮ったんだよ」


 それは、有希のリクエストで、この家に来てから初めてビーフシチューを作ったときのものだ。シチューの皿の向こうに、照れ笑いを浮かべた伸が写っている。

 

「なんだかだらしない顔してるな」


「そんなことない。かわいくて僕は好きだよ」


「かわいくないよ……」


 有希はときどき、親子ほども年の離れた伸のことをかわいいと言うのだが、正直なところ恥ずかしいだけで、うれしい気持ちにはなれない。それに、実際こうして見ても、少しもかわいいとは思えない。

 

 さらに有希は画面をスクロールする。

 

「あっ。苺のパンケーキ」


 あまりスイーツを作らない伸が、これも有希のリクエストで作ったものだ。たまたま麗衣が買って来た苺があったのがきっかけだった。

 

「このソースがいい感じにたれたところが好きなんだ」


「ふぅん」


 有希は説明する。

 

「何枚か撮って、これが一番よく撮れていたんだけど、横のカップの持ち手のところが少しだけ写り込んじゃってて、そこがどうしても気に入らなくて……」


 だが、この画像にそんなものは写っていない。有希が、こちらを見てにっこり笑う。

 

「でも、画像処理ソフトで消したんだよ」


「そうなんだ。すごいね」


「ソフトを使ったら簡単に出来ちゃうんだよ」


 画像処理ソフトとやらも、それを使いこなす有希もすごいものだと思って写真に見入っていると、突然、投げ出すようにしてマウスから手を離し、有希が椅子の背もたれに寄りかかった。

 

「ユウ?」


 たった今まで楽しそうに話していた有希は、寂しげな顔でうつむいている。伸は、そっと有希の肩に手を置く。

 

「どうした?」


 有希が、頬に触れながら言った。

 

「この傷も、画像を修正するみたいに消せたらいいのに……」


「ユウ」

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