↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/186

131,真っ赤に泣き腫らした目とフレンチトーストと一人になるのが怖いこと

「それじゃ、有希のことはあなたにお願いして、ちょっとお店に顔を出して来てもいいかしら」


 麗衣は普段ならば、毎晩、経営する各店舗を回っているのだ。

 

「もちろんです」



 冷蔵庫の中のものは、なんでも好きに使ってもらってかまわない。身支度を整えた麗衣は、そう言って出かけて行った。

 

 その間もずっと、有希は伸の胸から顔を上げなかった。

 

 麗衣が帰って来るのは明け方になるだろうから、夕食は伸が作って、二人で食べることになるだろう。

 

 伸は思う。有希が、ちゃんと食べてくれるといいのだが……。

 

 

 有希を胸に抱いたまま、さてどうしたものかと考えていると、おもむろに有希が体を離して言った。

 

「伸くん」


「うん?」


 うつむいたままの有希は、目を真っ赤に泣き腫らしている。

 

「迷惑かけてごめんね」


 伸は、有希の乱れた髪を直してやる。

 

「迷惑じゃないよ」


 有希が顔を上げた。

 

「本当に?」


「本当だよ」


「馬鹿みたいに泣いて困らせて、うんざりしたでしょう?」


「そんなことはないよ」


 きっと有希自身も、自分の感情を持て余しているのだろう。

 

「伸くんに嫌われたら……」


 途中で言葉を切った有希の目に、またも涙が湧き上がるのを見て、伸はあわてて言う。

 

「嫌わないよ。ユウが辛い目に遭ったせいで、動揺していることはよくわかっている。


 そんなときは、感情をコントロール出来なくなることもあるだろう。今は我慢しないで、思ったことは全部吐き出してくれてかまわないよ」

 

「伸くん……」


 なんとか泣き止ませたいと思ったのだが、やはり有希は涙をあふれさせた。今は仕方がないと諦め、伸は、静かに有希の髪を撫でる。

 

 

 いつの間にか、部屋の中は薄暗くなっている。夕暮れが迫っているのだ。

 

 伸は、ぴたりと寄り添う有希の髪に頬を近づけながら言った。

 

「お腹空かない? そろそろ夕ご飯にしようか」


「伸くんが作ってくれるの?」


「うん。冷蔵庫の中に何があるのかわからないけど」


「じゃあ、フレンチトースト作って」


「そんなものでいいの? あんまり食欲ない?」


「うん……。でも、伸くんのフレンチトーストなら食べられる」


「そう」



 有希のリクエストに応えて、フレンチトーストとスクランブルエッグとサラダという、朝食のようなメニューの食事をした。

 

 後片付けを終えて手を拭いていると、その様子を、ずっとダイニングテーブルの向こうから見ていた有希が言った。

 

「伸くん。一緒にシャワー浴びよう」


「……え? でも、傷に障るんじゃ……」


 だが有希は、平気な顔をして言う。

 

「大丈夫だよ。お医者さんはシャワーを浴びてもいいって言ったし、昨日も浴びたもん」


「いや、そういうことじゃなくて……」


 いつもそうであるように、一緒にシャワーを浴びれば、シャワーだけで済まなくなることは目に見えている。今はまだ「激しい運動」は控えたほうがいいのではないか。

 

 伸はそんなふうに思ったのだが、有希は、不安げな表情を浮かべて言った。

 

「一人でバスルームにいるの、怖いんだ」


 伸は、心の中で自分を恥じた。きっと有希は、今はセックスどころではないのだ。

 

「昨日はどうしたの?」


「昨日は、ママにドアの外にいてもらった。だけど、一人になると……」


 有希はうつむく。一人になると、事件の記憶がよみがえって辛いのだろうか。

 

「わかったよ。一緒に浴びよう」



 顔の傷にばかり気を取られていたが、服を脱ぐと、胸に張られた絆創膏も思いのほか大きく、伸は、にわかに心配になった。

 

「胸の傷も痛む?」


「少し……」


 もともと華奢な有希の体は、数日の間に、さらに痩せてしまったようだ。傷もないのに、伸の胸も痛む。

 

 表情に出ていたのか、有希が気遣うように言った。

 

「でも大丈夫だよ。痛み止めも飲んだし、絆創膏は防水だし」


「そう……」




 伸は、ドライヤーのスイッチを切って言った。

 

「いいよ」


 一緒にシャワーを浴びた後、有希を椅子に座らせ、髪を乾かしてやったのだ。肩にかけたタオルを外しながら、有希が振り向いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。