124,体が伸を欲しがることとかすかに波立つ胸とうれしくはないこと
「ユウは、お母さんによく似ているね」
「えっ、顔が?」
伸が笑う。
「顔もだけど、性格っていうか、観察眼があって、包容力があるところ」
「包容力?」
今の今まで、泣き虫で気ままな自分に、包容力があるなどとは考えたこともなかった。
「そうだよ。ユウはいつも、父親みたいな年の俺のことを優しく包み込んで安心させてくれる」
「そうかな……」
いつも、めそめそして甘えて、包み込んでもらっているのは自分のほうだと思うが。
「そうだよ。今だって、こうして」
そして伸は、さらに思いがけないことを言った。
「ユウには、そういうところを活かした仕事が合っているかもしれないね」
「へぇ……」
それは、どんな仕事だろう。クラスメイトの中には、明確に将来のビジョンを描いて、それに向けて準備している者もいたが、自分には、これと言ってやりたい仕事もないし、働いている自分の姿など想像出来ない。
大学で勉強しているうちに、何か見えて来るものがあるだろうか……。だが、以前、伸も言ってくれたように、それについては、これからゆっくり考えることにしよう。
有希は体をずらして、伸の顔を見る。
「伸くん」
「うん?」
見つめ返す伸は、本当に素敵でセクシーだと思う。
「僕のことも癒して」
「ユウも疲れてるの?」
「疲れてないよ。でも……」
伸が心配そうな顔をする。
「何かあった?」
「うぅん。何もないよ。ただ……」
有希はうつむき、ため息をついてから言う。
「僕の体が、伸くんを欲しがって、癒してほしいって言ってる」
「あ……」
「ねぇ。僕の体が、今どんなふうになっているか知りたい?」
顔を上げると、伸の熱を帯びた手のひらが頬に触れた。
「あぁ。ぜひ」
有希は、伸の手を取って、自分の胸に持って行く。
「じゃあ、服を脱がせて」
伸が、有希の目を見つめたまま、シャツのボタンに指をかける。
(第二部・終)
目じりからこぼれた涙の筋を、そっと指でぬぐってやる。伸は、泣き疲れて眠った有希の顔を見つめる。
髪が長く伸び、有希はより一層、行彦にそっくりになった。ただし、痩せた頬に斜めに走る痛々しい傷跡を除いて。
春になって、有希は大学生になった。伸も、少しずつダイニングバーでの仕事に慣れて来た。
相変わらず、二人の仲は順調だ。合鍵を渡して以来、半同棲のような状態になってはいるものの、まだ一緒に暮らしてはいない。
有希は早くそうしたがっているのだが、伸としては、有希が社会人になってからでもいいのではないかと思っている。
有希の母親であり、伸の雇用主でもある麗衣への遠慮もある。もちろん麗衣は、同性であり、年の差もある二人の関係を理解し、認めてくれているのだが。
「あのね……」
伸の部屋のベッドで愛し合った後、まだ火照りの残る伸の胸に顔をうずめながら、有希がつぶやいた。
「うん?」
「学校で、受験で外から入って来たやつなんだけど」
温かい息が胸にかかる。有希は、付属高校から大学に進学している。
「友達?」
有希が、いやいやをするように首を横に振り、甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
「違う。別のクラスだし」
なんとなく話の展開に予想がつき、伸の胸がかすかに波立つ。
「何か言われた?」
「うん」
有希は、伸の背中に腕を回して、ぎゅっとしがみつくようにしながら言った。
「友達になりたいって。でも……」
やはり、思った通りだ。伸は、有希の髪を静かに撫でながら尋ねる。
「友達にならないの?」
「だって、そいつの目的は、多分そういうことじゃないから」
つまり、有希を恋愛対象として見ているのだろう。今までにも、そういうことは何度かあったと聞いている。
有希の容姿ならば仕方ないと思うが、うれしくはない。
「でも、一人でいると寄って来て……。なるべく友達と一緒に行動するようにはしているんだけどね」
付属高校からの友達とは、今もそれなりに仲良くしているらしい。なおも有希の髪を撫で続けながら、伸は思い出す。




