121,カレーライスとミートスパゲティと閉園当日とやっぱり酔った伸はかわいいと思うこと
そこで、有希は聞いた。
「安藤さんの得意料理って、どれですか?」
沙也加は首をひねる。
「主任は、どれも得意だと思いますけど……」
「じゃあ、沙也加さんのおすすめは?」
「私? 私が好きなのは、カレーライスとミートスパゲティかな」
「じゃあ、僕はミートスパゲティにする。ママは?」
「それじゃ、私はカレーライスをいただくわ」
「飲み物は……」
結局、母とシェアして、カレーもスパゲティも食べた。当たり前だが、どちらも、とてもおいしかった。
帰りがけに、レジ前で、再び沙也加と話をした。沙也加も中本も、すでに次の職場が決まっているという。
「みなさん離れ離れになるのは寂しいですね」
母がそう言うと、沙也加は微笑んだ。
「私、清川町の駅の近くのファミレスで働くことになっているんです。機会があったら、是非いらしてください」
有希は、思わず母と顔を見合わせる。
「僕たち、清川町に住んでるんだよ」
沙也加が働くというファミリーレストランは、いつか生野とともに明け方まで過ごした店舗だ。
その日の夜、伸と電話で話した。沙也加の話をすると、伸が言った。
「離れ離れになると言っても、狭い町だからね。中本は、川鍋町の居酒屋で働くそうだよ」
「へぇ。じゃあ、みんな会おうと思えばいつでも会えるね」
「そうだね」
「まぁ、中本さんはどうでもいいけど」
電話の向こうで、伸があははと笑った。有希は、ベッドの上で、ごろりとあお向けになって言う。
「明日は日曜日だね」
「うん」
「伸くんの部屋に泊まるの、楽しみ。早く明日にならないかな」
明日もまた、たくさん話をして、たくさん伸に甘えて、たくさん愛し合いたい。伸が言った。
「俺も、早くユウに会いたいな」
そして、ついにフォレストランドが閉園する日が来た。その日、有希は一人でフォレストランドに行った。
最終日ということで、いつになく園内はにぎわっている。伸のことが心配で、レストランに行ってみたのだが、店内は、とても混み合っていたので、店の外から、ガラス越しにのぞくだけにした。
沙也加たちウェイトレスが忙しそうに行き来するのに混じって、客席に料理を運ぶ伸の姿も見えた。その姿を見たのを潮に、有希はフォレストランドを後にした。
有希は、そのまま伸のマンションへと向かう。有希には今、プラチナのチェーンとともに、もう一つの宝物がある。
伸の部屋の合鍵だ。去年のクリスマスに、手作りのクリスマスケーキとともに伸が贈ってくれたのだ。
今日は閉園後に、この町にある唯一のホテルで、フォレストランドの全従業員が参加する打ち上げがあるので、帰りは遅くなると言っていた。だが今夜は、どうしても、部屋で伸の帰りを待ちたいと思ったのだ。
日付が変わった頃、玄関の鍵を開ける音がした。有希は、玄関へと急ぐ。
「おかえり」
ドアを開けた伸は、有希の顔を見て微笑んだ。
「ただいま」
コートの前を開けた伸の頬が、ほんのり赤らんでいる。
「伸くん、お酒飲んだの?」
「あぁ。乾杯のシャンパンを一杯だけ」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
そう言うなり、しなだれかかるように有希を抱きすくめる。いつもと立場が逆だ。
「やっぱり酔ってる。伸くん。ほら、靴脱いで」
伸は、有希の肩につかまったまま、ふらつきながら靴を脱ぐ。
「ユウ。喉が渇いたよ」
「もう。今お水をあげるから、ちゃんと歩いて」
口では小言のように言いながら、やっぱり、酔った伸はかわいいと思う。だが、喜んでばかりはいられない。
フォレストランドが閉園し、伸にとって特別な場所である、洋館の跡地に建っているレストランも閉店してしまった今、辛い思いをしているに違いない。
コートを脱がせると、伸は、どかりと椅子に腰を下ろした。奥の部屋に持って行ってハンガーに掛けてから、急いで戻って、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出し、キャップを取って伸に手渡す。
「はい」
「ありがとう」




