118,例のごとくベッドに移動することとフレンチトーストと誰よりも愛していると言われること
その日は日曜日で、しっかり愛し合った後、二人はお揃いのセットアップを着て、夕食のビーフシチューを食べている。有希のリクエストに応えて、伸が前日から仕込んで作ってくれたものだ。
有希は、スプーンを口に運びながら話す。話は、そろそろ終盤に差しかかっている。
「温泉は、すごく楽しかったよ。初めて、酔った伸くんを見たし」
伸が、驚いたように顔を上げる。
「俺、酒を飲んだの?」
「そうだよ。伸くん、ビールを一本飲んで、酔い潰れちゃったの。アルコールに弱いところも、酔うと甘えん坊になるところも、かわいかった」
「え……。俺、甘えん坊になるの?」
どぎまぎする伸に、有希は、ついにやにやしてしまう。
「そうだよ。一人じゃ歩けないから、布団まで連れて行ってって、すごくかわいいんだから。それでね」
照れくさそうな顔をしている伸の顔を見ながら、さらに続ける。
「一緒に露天風呂に入る約束をしていたのに、伸くんが寝ちゃって、ちょっとがっかりしていたんだけど……」
「ごめん。悪かったね」
まるで、さっき起こったばかりのことのように、伸が謝る。
「だけど、夜中に起きて、約束通り露天風呂に入って、それで、お湯の中で、した」
「えっ……!」
ぎょっとしている伸を見て、有希は声を上げて笑った。
「月がきれいな夜だったんだ。月の光に照らされた伸くんの体がまぶしくて……。
お湯の中でふざけ合っているうちに、そういう気分になっちゃって、つい。ねぇ。そのときのことも、くわしく話してあげる……」
話し始めて間もなく、例のごとくベッドに移動し、再び体を重ねた後、遅くまでかかって、伸が記憶を失うまでの話をした。苦しかった日々を思い出して有希が泣くと、伸が優しく抱きしめてくれた。
伸の裸の胸に顔をうずめて泣いているうちに、いつの間にか眠ってしまった。ふと気づくと、辺りはまだ暗く、伸は、有希を抱きしめたまま眠っていた。
その安らかな寝息を聞いているうちに、いつしか有希も、再び眠りに落ちたのだった。
翌朝、伸が作ってくれたフレンチトーストに、たっぷりのはちみつをかけて頬張っていると、伸が言った。
「ちょっとだけ話をしてもいいかな」
その表情は、いつものように穏やかだ。
「何?」
「俺が忘れてしまったたくさんのこと、話してくれてありがとう」
「うぅん。まだすべてを話せたわけじゃないと思うから、これからも気がついたら話すし、伸くんも、なんでも聞いて」
「うん」
コーヒーを一口飲み、カップを置いてから、伸がおもむろに口を開いた。
「あのね、俺のユウに対する気持ちだけど」
「……え?」
有希は、にわかに緊張して、伸の顔を見つめる。
「ユウは、行彦のことを、とても気にしているようだけど」
「それは……」
有希は、フォークを皿に置く。
「でも、僕は行彦でもあるわけだから」
伸はうなずく。
「うん。ユウの気持ちは、よくわかっているよ。以前も話したかもしれないけど、改めて、今の俺の気持ちを話すよ。
ユウが行彦の生まれ変わりであることは疑いようがないし、有希と行彦が同化したのだいう自説も納得出来る。
ただ、ユウには、ユウならではの魅力がある。無邪気で率直で、いつも一生懸命で。泣き虫なところもかわいいよ」
そう言われたそばから涙が込み上げる。有希は、ぽろぽろと涙をこぼしながら言った。
「僕は伸くんに出会うまで、こんなに泣き虫じゃなかったんだよ。伸くんのことが好きでたまらなくて、僕は……」
それも以前、伸に話したことだ。伸が微笑む。
「ずっとそばにいてくれてありがとう。とても感謝している。
俺も、ユウのことが大好きだよ。愛している」
いけないと思いながら、つい聞いてしまう。
「それは、行彦よりもってこと?」
伸は、微笑みをたたえたまま言った。
「行彦のことは、過去の大切な思い出だけど、今、誰よりも愛しているのはユウだよ。ユウだけだ」
「伸くん……!」




