117,変わらない気持ちと体の奥が疼き始めることと荒い呼吸を繰り返しながら尋ねたこと
さっきまでは、とても食べられそうにないと思っていたのに、おいしそうな香りをかいだ途端、空腹を感じた。
「いただきます」
チャーハンを食べながら、伸がつぶやいた。
「そうか。二人で、お墓参りに行ったんだね」
「うん。その後しばらくしてから、僕一人でもう一度お墓に行ったんだ。そうしたら、伸くんに聞いた通り、ちゃんと桐原家のお墓があって、行彦の名前もあって、すごく不思議な気分だった。
自分が、この人の生まれ変わりなのかって……」
伸が、感慨深げに言う。
「本当に、こんなことがあるんだね」
有希は、もぐもぐとチャーハンを咀嚼しながら、伸の顔を見る。伸も、有希の顔を見つめる。
「本当に、ユウは行彦にそっくりだ」
「生まれ変わりだって信じてくれた?」
伸が笑った。
「初めから疑ってなんていないよ。ただ、あまりにも不思議で」
「それは、僕もそう思うよ」
何から何まで不思議過ぎる。だが、不思議であろうがなかろうが、有希の、伸を思う気持ちは変わらない。
有希は、伸を上目遣いに見ながら言った。
「あのさ、話すことは、まだまだたくさんあるんだ。一度には話しきれないくらい」
何しろ、伸は一年ほどの有希に関する記憶のすべてを失ってしまったのだから。伸がうなずく。
「そうだね。続きは、また次にする?」
「それでね、あの……」
「うん?」
「いつものように、伸くんと、したい」
体の奥が疼き始めている。
今日はまだ、キスさえしていない。いや、今日どころか、伸が入院して以来、ずっと伸に触れていない。
「あ……」
伸が、戸惑ったように目を伏せた。
「嫌?」
「嫌じゃないよ。でも、ちょっと恥ずかしい、かな」
「僕としたこと、覚えていないから?」
照れる伸を見て、ちょっと意地悪がしたくなった。
「でも、もう数えきれないくらいしているんだよ。僕は、全部覚えているよ。
伸くんがどんなふうにするか、そのとき、どんな顔をするか、そのほかのことも、全部」
たちまち、伸の顔が赤くなる。皿にチャーハンを残したまま、有希は、椅子を引いて立ち上がった。
「ねぇ、しよう? 伸くんも、僕が体の隅々まで全部、行彦とそっくりかどうか確かめたいでしょう?」
まだ荒い呼吸を繰り返しながら、有希は尋ねた。
「ねぇ……。行彦と、同じだったでしょう?」
伸がこちらを向き、有希の、汗で額に張りついた髪をかき上げながら言った。
「俺はいつも、ユウと行彦を比べていた?」
「そんなことは、ないけど……」
有希は、虚空を見つめたまま言う。
「僕が勝手に気にしてるだけ。もしも行彦としての記憶があったなら、こんな気持ちにはならないのかもしれない。
でも、僕は行彦の生まれ変わりなんだから、気にするのはおかしいってわかっているよ」
自分に嫉妬するなんて、本当におかしいと思う。
「そのことについては、伸くんとも話したんだ。僕も納得しているから大丈夫」
こんな話をしても、伸を悩ませるだけだと思い、有希は話題を変えた。
「ねぇ。これ見て」
そう言って、首元のチェーンを示す。
「これ、伸くんがプレゼントしてくれたんだよ。僕の宝物」
「そう」
伸が、そっと指でチェーンに触れる。
「すごく似合ってるって言ってくれた。今もそう思う?」
「もちろん」
伸が微笑んでくれたので、うれしくなって、裸の胸にしがみついた。優しく抱き寄せられ、再び体が熱くなる。
有希は、それから数日に渡り、二人の間にあったことを伸に話して聞かせた。記憶がないのに、伸のことが好きになって猛烈にアタックしたことも、生野のことで、伸が嫉妬したのを知ってうれしかったことも、潤子にカミングアウトしたときのことも。
話の途中で、こらえきれずに泣いてしまったり、妖しい気分になって伸に迫ったりして、それはしばしば中断したが、伸はいつも、真剣に耳を傾けてくれた。すべてを知ってもらいたいと思い、どんな些細なことも、思い出す限り話した。




