111,やんちゃな子猫にたとえられることとお湯を揺らしながら淫らな行為にふけること
全身に月の光を浴びている伸の裸体がまぶしくて、有希は急いでお湯に入った。そういうことをするために、露天風呂に入るわけじゃないんだから……。
有希の横に入った伸が、お湯の中で手足を伸ばしながら言った。
「あぁ……気持ちいいね」
「うん。ここなら、月を見ながらずっと入っていられそう」
有希は、ふと思い出して言った。
「仲居さん、僕たちのこと、雰囲気が似てるって言っていたね」
伸は、ちゃぷんちゃぷんとお湯をもてあそびながら言う。
「ほかに言いようがないから、とりあえずそう言っただけなんじゃないの?」
「そうかな……。でも、ずっと一緒にいると似て来るって言うじゃない」
「あぁ。夫婦とか、ペットと飼い主とか」
「ペットかぁ……」
伸が、有希の顔を見ながら言った。
「ユウは、うぅん……チワワか、トイプードルかな」
「えぇっ、犬なの? どうせなら猫のほうがいいなぁ」
「猫? じゃあ、生後2、3ヶ月くらいの子猫だな」
「子猫? 大人じゃないの?」
「まだ大人になり切らない、やんちゃであどけなくて、一番かわいい盛りの子猫だよ」
「伸くん、猫飼ったことあるの?」
「ないけど」
「なんだぁ」
有希はふざけて、伸にお湯をかける。伸が、手でよけながら言う。
「わっ、やめろよ」
「お仕置きだよ。人のことをペットだなんて言うから」
有希は、さらにバシャバシャとお湯をかける。
「ごめんごめん。もう許して」
そう言いながら、伸が有希の肩をつかんだ。その瞬間、有希の体から力が抜ける。
伸が両肩を持って、有希の体を自分のほうに向かせながら言う。
「もちろん、ユウのことをペットだなんて思っていないよ。すごくかわいいけど、頼もしいところもあるし、ユウのおかげで、とても幸せだ。
こんなふうに旅行に来て、一緒に露天風呂に浸かっているなんて、夢みたいだ」
「伸くん……」
有希は、穏やかな微笑みを浮かべている伸の顔を見つめる。
「夢じゃないよ。全部本当。僕も、すごく幸せ」
そういうつもりではなかったのに、妖しい気持ちになって、伸にキスをする。伸も、それに答えてくれる。
濃厚なキスのせいで、早くも体が反応している。それは、どうやら伸も同じらしい。
露天風呂の中でするなんて、不謹慎な……。そう思いながら、有希は伸にしがみつく。
ちゃぷちゃぷとお湯を揺らしながら淫らな行為にふける二人を、月の光が照らしている。
秋になったある夜、伸の部屋のベッドでふと目を覚ますと、伸が隣で上体を起こしていた。
「伸くん?」
「あ、ごめん。起こしちゃったね」
「うぅん。どうかした?」
そう言いながら、有希も起き上がる。伸がため息混じりに言った。
「この頃、よく眠れなくて……。年のせいかな」
後から付け足した言葉は、有希に心配させないように、わざと冗談めかしているのだとわかる。最近、あまり食欲がないようで、少し痩せたように見える。
有希は、伸の手に自分の手を重ねながら言った。
「何か悩んでるなら、僕にも話して」
伸が、有希の髪に頬を寄せる。
「悩みってほどじゃないんだ。ただ……」
「うん」
「もうすぐ出会って一年になるだろう?」
「そうだね」
有希には、しばらく後からの記憶しかないが。
「あのとき、立て続けにいろいろなことがあって」
「うん」
「結局、こうして二人でいるから、別にいいんだ。でも……」
「でも?」
「取り越し苦労だってわかっている」
伸は、なかなか本題に入らない。
「でも、こうなるまでは、とても辛かった。ユウもそうだろう?」
「うん。そうだね」
記憶を失ったことにも、伸に聞いた事実にも混乱したし、何より有希には、伸に拒絶されたことが辛かった。
伸は続ける。
「なんの根拠もないけど、一年経って、また何かとんでもないことが起こるんじゃないかって、不安なんだ。あのときも、常識では考えられないことが次々に起こったし」




