104,間違いなく欲情していることと恥ずかしいことと有希の夢
「だって、いつも僕のほうからキスしたり誘ったりしてばっかりで、あんまり伸くんのほうからしてくれないから……」
だが、すねる有希を見て、伸は噴き出した。有希は、むっとして、上目遣いに伸を見る。
「……何?」
「だって……」
笑っていて、言葉が続かない。なんだか感じが悪い。
「だって何さ」
たたみかける有希に、伸は、おかしそうに言った。
「だって、いつもユウが積極的だから、俺から誘う隙がないんだよ」
「それって、やっぱり僕が淫乱ってこと?」
「まぁ、そういうことになるかな」
やっぱりそうか。自分で聞いておきながら、はっきりそう言われると、なんだか面白くない。
だが、伸が、笑顔のまま言った。
「別に俺は、それが悪いとは思っていないけど」
「……え?」
「ユウがいつも俺を求めてくれるのは、すごくうれしいし、ユウって、華奢であどけなくて、全然そういうふうに見えないのに、そのギャップが、すごく魅力的なんだよ。
天使のようなかわいい顔の下で欲情しているのかと思うと、たまらない。俺だって、淫乱だよ」
そう言う伸の表情がセクシーで、体中が熱くなる。今、自分も伸も、間違いなく欲情しているのだと思う。
「伸くん……」
伸が、有希の顎を持ち上げて言った。
「それなら、今日は俺が誘うよ。ユウと熱いキスをして、服を脱がせて、体の隅々まで確かめて、くたくたになるまで愛し合いたい」
「伸くん……」
伸が両手で有希の頬を挟み、唇が重なったかと思うと、すぐに舌が入って来る。早くも体の奥が疼き始める。
今日も、この先もずっと、何度でも、伸に疼きを鎮めてもらいたい。それが出来るのは、世界中でただ一人、伸だけだから。
伸が言った通り、くたくたになるまで愛を交わした後、そのまま有希は、気を失うように眠りに落ちた。
ふと気づくと、裸の体にタオルケットがかけられていて、すぐ横で、自分の腕を枕にした伸が見下ろしている。有希は、とっさに顔を隠した。
「恥ずかしいよ……」
伸が、ふふっと笑う。
「今さら隠しても遅いよ。もうたっぷり見たから」
「もう」
有希は、甘えて伸にしがみつく。伸も、まだ裸のままだ。
伸が、有希の背中に腕を回して抱き寄せる。肌と肌が密着して、また妖しい気分になってしまいそうだが、さすがにもう体が反応しない。
有希は、伸の顎の下に顔をうずめるようにしながらささやく。
「あのね。僕、夢があるんだ」
「うん?」
伸の声は、気だるそうだ。
「いつか、伸くんと一緒に暮らしたいな」
「そう」
「伸くんは、嫌?」
「嫌じゃないよ。うれしいけど、ユウがもっと大人になってから……」
「大人って、二十歳になってからってこと?」
返事がないので、顔を上げると、伸は眠っていた。
その日の放課後、有希は、少し緊張しながら、伸の母が経営するカフェ、アンジェールを訪ねた。
「いらっしゃいませ」
そう言いながら、こちらを見た彼女の顔が、ぱっと明るくなる。
「有希くん!」
その表情と、呼び方が「西原くん」から「有希くん」に変わっていることに気持ちの変化を感じ、内心ほっとしながら頭を下げる。
「こんにちは」
「こちらにどうぞ」
伸の母が、カウンター席をすすめる。今日は、ほかに客はいない。
そう言えば、去年、初めてここに来たときも、カウンター席に座ってオムカレーセットを食べたのだった。そう思いながら、隣の席に鞄を置いて、スツールに腰かける。
「あの、今日はビーフシチューを食べに来ました」
「あら、そうなの? うれしいわ」
優しい笑顔で言われ、有希もつられて微笑む。さっそく彼女は、てきぱきと作業を始めた。
ビーフシチューを待つ間、有希は店内を見回す。伸が小さい頃から続けているというカフェは、木のぬくもりを感じさせる落ち着いた雰囲気で、そのまま店主の雰囲気にも通じている気がする。




