81話 器の違い
「リアぁ!アカメぇ!大丈夫かぁ!」
アルマくんの心配する声が聞こえそちらを振り向くと、それよりも早く姉さんが僕ら目掛けて突っ込んできた。
「ふだりどもよがっだぁぁ!お姉ちゃんがぎだよぉぉお!」
「いっだぁ⁉傷が開くって⁉」
思いっきり突っ込んできて僕らごと地面に倒れ伏した。
さっきのボルドーを殴り飛ばしたのは自業自得だが…こんなんでまた激痛を味わうのは流石にしょうもなさ過ぎる…。
だが僕に構うことなく二人を抱えたまま泣き始める姉さんに、リアは笑顔を向ける。
「お姉ちゃん!ただいま!」
「おがえりぇ…」
全く…この姉は…。
でも今日一日、ずっと気を張っていたのだろう。そう考えると甘んじて受け入れる気にもなる。
「れ、レイ様…落ち着いてくださ…」
でもアルマくんが困ってる、姉さん流石に離れようよ。
何とか説得し、一旦離れて貰うことで落ち着いた。
「一旦ね!一旦仕方なくだからね!」
「はいはい、屋敷に帰ったらいくらでもいいから…」
まだ不満そうな姉に呆れを覚えつつ横を見ると、這いつくばるボルドーをアヴァリスが見下ろしていた。
「…二人とも、リアをお願い」
「お兄ちゃん⁉いや!」
離れて危険なところに向かおうとする僕に、リアは悲痛な声をあげる。
僕は安心させるように、振り向いて笑いかける。
「大丈夫、ちょっと行ってくるだけだから」
「でも、でも!」
「大丈夫だリア」
アルマくんがリアの頭に手を置きつつ、僕の師匠然とした笑みを向ける。
「アカメなら大丈夫だ、だろ?」
「うん、行ってくるね」
流石師匠だね、本当に僕の意志を汲んでくれる。
緩んだ心を引き締め、魔力を循環させながらアヴァリスの元へ向かう。
「おう、再会は済んだか?」
「おかげさまで、こっちの再会は?」
「これからだ」
アヴァリスに倣い視線を落とすと、すっかり怯え切った様子のボルドーが訳が分からない様子でこちらを交互に見ている。
「な、何でお前が居るんだ⁉し、試合は⁉死んだはずだろ⁉」
「何だ、はずって。勝ったからここにいるに決まってるだろ」
「う、嘘つけ!お前みたいな雑魚が出来るわけねぇだろ!」
余程僕の事を見下していたのか、あり得るわけないとか不正したに決まってるとか…そんなことばかり言われる。
こいつに認められたからどうというわけでもないので、無風の心で見下げていたのだが、アヴァリスが足元の地面を踏み砕く。
「ひぃッ⁉」
「おいボルドーよぉ、この俺がそんなつまんねぇことしたって言いてぇのか?」
「い、いいいえそんなことは…」
「アカメは確かに雑魚だがいい根性見せたぜぇ?お前はずっと俺に媚びへつらうだけで意見すらしたことねぇよなぁ?」
「…そ、それは!アヴァリス様のお考えが素晴らしかったが故に」
「心にもねぇこと言うなや。お前が部下に当たり散らしていたことは知ってんだよ。雑魚共の話なんて興味もなかったからほっといたがな」
「……い、いえ、あの…」
ボルドーは必死に言葉を探すが、何を言っても墓穴を掘りかねないため何も言い出せない
何だこいつ、クソ野郎だとは思っていたがここまで小物だったのか。
ついには僕にまで見下されたことを感じたのか、低い沸点に到達し冷静な判断が出来なくなったボルドーが叫び声をあげる。
「何やってんだ⁉早く俺を助けろぉ!餓鬼もここに居るぞ⁉」
ボルドーの願いが闇夜に木霊する。
醜く、汚く、己のことしか考えていない心の底から吐き出した願い。
自分に味方してくれるのではなかったのか、この俺の優秀さを買って声をかけたのではなかったのか。
一体どこで何をしている⁉
その疑問は、思いもよらない形で知ることになる。
「お前が呼んでいるのはこいつらのことか?」
「なッ⁉」
「ベル!何でここに」
ボルドーの願いが消えた闇夜の中から、それよりもなお深く暗い闇が現れた。
その手にはおそらく死体であろう顔を隠した二名が引きずられている。
「当てが外れたな。こいつらを味方にするということは私を敵に回すということだ。最も、お前など最初から助ける気などなかったようだが」
最後の頼みの綱を断たれ絶望するボルドーなど気にも留めず、ベルはアカメを見据える。
「勝ったのだろうな」
「勿論、どうせ勝つって思ってたんでしょ?」
「当然だ。よくやった」
全くこいつは…素直に褒められんのか。
でもまぁ、よくやった…か。
いつかの日にかけられた言葉と同じ言葉、そっけないのにどうしても嬉しくなってしまうのは仕方ないだろう。
「う、うう嘘だ。ふざけるなふざけるな!」
受け入れがたい八方塞がりな現実を前に、ボルドーは錯乱し出す。
そして僕を指差し激昂する。
「お前らが!お前らが居なければこんなことにはならなかったんだ‼俺はこんなところで終わる男じゃない!俺はもっと…上に立つ大悪魔のはずなんだ‼」
「……何を望んだのかは知らないけど、お前の在り方で辿り着けるわけないだろう。お前の敗因はたった一つだ…よくもリアに手を出したな、クソ野郎が」
「うわぁぁぁぁあ‼」
見下していた僕に偉そうな口を叩かれついに限界に達したのか、錯乱したまま僕に向かって突撃してくる。
受け流すことも出来たが、振るわれた拳を受け止める。
「おいボルドーてめぇ…」
「手を出すな」
恥さらしな行動をし続けるボルドーにアヴァリスが怒りを露わにするが、ベルに止められる。
「最後までみっともないな、お前は」
「うるせぇッ‼お前のせいでぇ!」
掴んだ拳を振りほどかれ、なおも攻撃はされ続けるが、どれも単調であくびが出る程だ。
いくら心が不安定な状態で、僕が成長したからと言って…一か月前に勝てないと思った相手がこれとは…。
お前はこの一か月何をしていたんだ。
「もういい、終わりにするぞ」
「なッ⁉がッ!」
今一度拳を受け止め、さらにそこから引き寄せて頭突きを顔面にブチ当てる。
視界を奪い怯んだ隙に、魔力隠蔽と体術によって姿が消えたように見せる。
「ッどこに⁉」
今更探したところでもう遅い。
後ろを振り返った瞬間、収束によって強化したアッパーで腹部を貫かんばかりの勢いでぶん殴る。
「カヒュッ」
十数メートルほど吹っ飛び近くのゴミ捨て場に突っ込む。あの時のアヴァリスにやられたものとは比べるのもおこがましいが、確実に内臓は潰れ、骨は折れるぐらいの威力で殴った。
「リアの手前だ、殺さないでおいてやる。そこで悔い改めてろ」
アヴァリスを裏切ったんだ。わざわざ僕が手に掛けずともあいつが相応の処遇をするだろう。
そうだろう?とアヴァリスの方を見ると、鼻を鳴らされる。
「雑魚のくせに、まるで主人公だな」
「お前が用意した舞台を乗り越えたんだから、お前は認めろよ」
アルマくんがジト目で突っ込むが、アヴァリスはちょっと気に入らないようだ。
そんなんどうでもいいから早く帰ろうよ…。
ため息をつきつつ今一度リアの元に戻り、改めて言う照れくささを感じながら微笑む。
「じゃあ、帰ろうか」
「…うん!」
「いやまだ剣闘試合閉会してねぇからな」
あ、そういえばそうだった。




