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アカメの悪魔  作者: 海蛙


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8話 楽しいひと時

「…遅いなぁ二人とも、もしかして僕が場所間違えてるとか?」

 

葵くんと過ごすようになったその週の土曜日、僕らは遊ぶ約束をしていた。

 

ここは老若男女誰にでも人気な大型のモールであり、中では買い物もできるしゲームセンターやスポーツができる場所まである。これで屋上にまで遊園地的なものがあったら役満なんだろうが、流石に望みすぎというものだ。

 

人の多い場所だとそれだけ人の目に晒されるということにもなるため、きちんと魔力を隠蔽できているのかと心配になってくる。

 

あれからも魔力操作の訓練は続けており、隠蔽に関しては割と見れる程度の練度にはなってきているのでそこまで心配はいらないはず。

 

陽さんと葵くんは後で一緒に来るということで僕が先に着いて暇を持て余しているわけだが、かれこれ約束の時間から三十分近くが過ぎようとしている。

 

ここまで遅いと何かあったのかと心配になってくる。葵くんが知って欲しいことがあると言っていたが…なんだろうか。


「アカメお待たせ!」


「ご、ごめん遅くなって」


「あぁ、よかった。何かあった…の?」

 

聞き馴染みのある声が聞こえて振り向くと二人の女の子が僕に…のところで違和感を覚える。

 

あれ?葵く…さん?

 

そこに現れた葵くんは学校で噂になっていた女の子〝みたい“ではなく女の子そのものである。

 

白いワンピースで身を包み、華奢で白い肌も相まってとても映えている。髪も一部三つ編みにしていたりと非常に可愛らしいアレンジが為されている。

 

道行く人にどちらに見えるかを聞いたら満場一致で女の子と答える、それが今の葵くんの姿だった。


「どう?びっくりした?」


「いや…違和感がなさすぎるでしょ…」

 

陽さんがニマニマしながらそう言ってきたので素直に返す。

 

何がどういうことなんだ…と困惑している間にも状況は進んでいく。


「あ、アカメくん…どう、かな?」


「え、あ、うん…似合ってる、凄く…」


「そっか…えへへ」

 

な、なんだ?どういう状況だ……?

 

熱暴走を起こしそうな僕の頭の状況を知ってか知らずか、陽さんが僕の右腕を引いてくる。


「ほら、早く行くよ。涼しいところで説明するから」


「あ、うん…」


「あ……んっ!」


「あ、葵くん⁉」


「あ、アカメくん…行こ?」


「は、はい…」

 

陽さんと葵くんに手を引かれ、両手に花の状態になった僕は頭から煙が出る寸前である。

 

その後、最初にどこに行くかを決めるときに季節でもないのに無意識にかき氷屋さんを挙げたのだった。




「ふんっ!」


「惜しいよ葵くーん」


僕の要望でかき氷屋さんでひとしきり過ごした後、僕らはスポーツ施設のバッティングセンターに来ていた。

 

一度もやったことがないと目をキラキラさせながら入っていった葵くんを二人で見守っている最中である。

 

バットを振る度にふわりと舞うスカートやそのキラキラした笑顔に周りの有象無象がチラチラ視線を送ってくるので僕と陽さんで目を光らせながら撃退している。


「…それにしても、心は女の子か」

 

僕は先ほど聞いた話を胸の内で反芻する。

 

葵くんはどうやら心と体が乖離しているらしい。

 

幼少の頃から違和感は抱えており、それは成長するたびに大きくなっていった。

 

心は女の子で身体は男の子、今まで聞いたことがないがそんなことがあり得るのだろうか。

 

いや、実際本人がそう語っているのだから疑う余地はない。葵くんがわざわざそんな嘘を言うなんて思えないし。

 

先に陽さんには打ち明けておいて服やアクセサリーを貸してもらったり、化粧の仕方なんかを教えてもらい、今日の準備をしていたらしい。少々不服だが、いきなり打ち明けても大丈夫という信頼の証として受け取っておこう。

 

かなりデリケートな秘密なだけに打ち明けるのに相当な勇気が必要であったろうに、何か力になってあげたいが…ベルなら何か知っているだろうか。


「うぅ…一発も当たらなかった…」

 

程なくして何の成果も上げられなかった葵くんが戻ってくる。


「まぁまぁ、初めはそんなもんだよ」


「そうだよ、アカメも最初は一発も当たらなかったし」


「それは陽さんね」

 

葵くんにないことを吹き込むのは止めていただきたい、代わりにあることを吹き込もう。

 

バラされた陽さんは軽く頬を膨らませて今まで葵くんが居たスタンドを指差す。


「じゃあ出来るよね、葵くんと私にかっこいいとこ見せてよ」


「打ったらかっこいいになるのもよく分からないけど…」


「ぼ、僕も見てみたいかな…」


「…葵くんがそう言うなら」

 

渋々スタンドに入って僕はヘルメットを被る。

 

だが、考えようによってはいいかもしれない。僕は今どのくらい力があるのか分かっていないのだ。

 

厨二病的なものではなく、魔力が関係している。

 

魔力は身体機能の向上にも使える。全身満遍なく強化してもいいし、特定の場所に集めて集中強化してもいい。僕はまだ魔力隠蔽しか注力していないが、もうそろそろやり始めてもいい頃だとベルが言っていた。

 

そしてこの魔力、全身を循環させているだけでも身体機能が強化される。魔力隠蔽を行うには体外へ出さずに自身の体内で魔力を循環させ続けなければならないため、僕の身体は通常時よりも強化されている状態が続いている。

 

これからの生活を行う上でも、どの程度に調整した方がいいのかを知っておいたほうがいいだろう。

 

僕はバッターボックスに立ち、射出される球を迎え撃つ。


「が、頑張れアカメくん!」


「いいとこ見せてよー!」


二人が声援を送るごとに周りから向けれる視線が鋭くなる。

 

考えてみたら、まるでラブコメの主人公のような状況だ。何か僕に負けるまいとやる気が漲っている人がちらほらいるし…。

 

これはほどほどに打ってさっさと退散するが吉だな。

 

そう考えていると早速一球目が飛んでくる。

 

あれ?おそいな。葵くんがやっていた速度っていうのもあるかもしれないが、動体視力も強化されているのか。

 

さて、力を調節しつつ…これぐらいでどうだ。

 

カキンッという気持ちのいい音を立て、割と強めの衝突音を立てながらホームランと書かれている看板にぶち当たってしまった。


「ち、違うから!まぐれだからこれ!」

 

目を丸くして「おーっ」と拍手をしてくれている二人に誇るでもなく、よく分からない言い訳をしてしまう。

 

周囲の視線も痛い…さっさと打ってここを抜け出そう…。

 

その後は何とかホームランを出さないように調整しつつ抜け出すことに成功した。

 

少々恥ずかしかったが、調整のコツは掴めた。近々学校である身体測定でもボロは出さずに済みそうだ。


「す、凄かったよアカメくん!」


「い、いや、最初の一球以外は目立ったところはなかったし…」


「でも、全部バットに当ててたじゃん!全部ちゃんと飛んでたし」

 

しまったやらかした。動体視力を測るのに夢中になっていて抜け落ちていた。


「た、たまたまかな…ほ、ほら!二人とも買いたいものがあるって話だったでしょ!そっち行こうそうしよう!」

 

無理やりではあるが僕は話を逸らして早くこのことを忘れさせようとした。

 

これからは油断の無いよう気を付けなくては…。さもなくば飛ばされるのはボールではなく僕の首になる。

 

どこに精霊教会の騎士がいて警備をしているのか分からないのだ。このぐらいならただ運動神経がいい奴で説明できそうだが、ちょっとの疑念すら向けられることも正直避けたい。

 

僕らはスポーツ施設を離れてショッピングエリアに移動した。

 

何度か来たことはあるが、開けた空間に大量の店が並ぶこの景色は相変わらず壮観である。

 

陽さんと葵くんはまず二人で服を見繕っていた。財布の中身と相談しながらお互いに似合うものをあれはどうだこれはどうだと提示し合っている。

 

僕は僕で好みの服を見繕う。…が、どうもピンとこない。

 

正直今持っている服でローテーションはもう決まっているため買う必要がないと感じてしまう。そこそこ見れる物で揃えていると思うし、どうせ学生だから平日は基本制服だし。

 

おばさんにも自分のためにもっと使えと言われてはいるのだが…貧乏性なのか性格故か、悲しきかな。

 

僕が欲しい服を見つけられず睨めっこしていると買い物を終えた二人が戻って来た。


「おかえり、良いの買えた?」


「ばっちり、女の子物の服だから私の家に置くことにはなっちゃうけど」


「ご、ごめんね陽ちゃん」


「言う言葉が違うと思うな、私」


「あ…あ、ありがとう!」

 

陽さんは望んだ言葉が聞けたのかフンっとホクホク顔をしている。

 

葵くんは家族には女の子の恰好をしているところは見られたくないらしい。

 

過去に何かあったのかどうかは分からないが、本人がそう言うなら僕らは合わせるだけである。


「よし、じゃあ次行こう!」


「あ、二人とも、荷物」


「お、ありがとう」


「え、わ、悪いよ」

 

陽さんは僕にすんなり渡したが、葵くんの方は遠慮して両手で袋の持ち手をぎゅっと握ってしまう。


「僕だけ手ぶらで女の子だけ荷物持ってちゃなんかカッコつかないんだよ。ここは僕を助けると思って」


「……うん」


我ながらクサいセリフを吐くものだと苦笑してしまったが、葵くんは納得してくれたのか下を向きながら僕に荷物を渡してくれた。


「むー…」


「な、なに?陽さん」


「アカメのそういうとこ良くないと思う」


「ど、どこ?僕酷いことした?」


「捉えようによっては」


陽さんはそう言って先を歩いていってしまう。葵くんもそれに続くように後を追って、僕だけ間抜けにポカーンとしている。

 

ひ、酷いこと…何だ分からん……。まだ僕の分かっていない重大な問題でもあるのか…難しい……。

 

頭を捻るも何も思いつかないまま、僕は二人の後を追った。

 

陽さんも葵くんも気の合う同姓同士で遊ぶのは初めてなのか久しぶりなのか、楽しくなって色々な場所を回った。雑貨屋さんにゲームセンター、休憩にカフェに寄ったり化粧品売り場になんかも寄った。

 

女の子にしか分からないような会話や場所もあって聞き専見る専になっている時間もあったが、二人の楽しそうな笑顔を見れただけでお釣りがくる。

 

現在は所々に設置してあるベンチの一つに腰かけて休憩している最中である。


「遊んだねぇ…」


「うん、僕こんなやり取りできたの初めてだよ」


「これからはいくらでも出来るから、というか付き合ってもらうから」


「よろしくね、陽ちゃん」

 

そんなやり取りをしながら笑い合う。今回で随分仲良くなれたらしい。

 

願わくばこれからも仲良くしていて欲しいものだ。僕としてもこの空間は何だか居心地がいい。

 

すると、陽さんが「あっ」といって目の前の店を指差す。


「アクセサリーショップ!なんか思い出に買おうよ」


「ほ、欲しい!アカメくんも一緒に」


「うん。流石陽さんいいこと言うね」


「褒めてもセンスしか出てこないよ」


何か鬱陶しいこと言ってるけど目を瞑ってあげようじゃないか。

 

入店し皆で見て回った末、自分のは他二人に選んでもらう形式になった。

 



まずは葵くんのを選ぶターン。


「まずは青じゃない?」


「だね。絶対似合うと思う」


「となるとこっち?」


「こっちもいいんじゃない?」

 

その間、葵くんは少しソワソワしていた。


 


続いて陽さんのを選ぶターン。


「うーん…オレンジ?」


「あ、僕もそう思ってた!」


「お、気が合うね。後は派手じゃない感じのやつを…」


「うーん、これなんかどうかな?」

 

その間、やっぱり陽さんもソワソワしていた。


 


続いて僕のを選ぶターン。

 

遠くの方で二人が選んでいるのを入り口付近の展示物を見ながら待っている。

 

…なるほど、確かにこれはソワソワするな…。

 

いつだって人が考えてくれたものを貰えるのは嬉しいものだ。

 

…でも、ちょっと長くない?と時計を確認したら五分くらいしか経ってなかった。

 

…サクッと選んでくれていいよ?


 


全員分のを選び終わったので会計をして店を出た。

 

そして元のベンチに戻り、それぞれがプレゼントされたものを開封した。


「わぁ…綺麗…」


葵くんのは青を基調にした雫をモチーフにしたようなアクセサリーである。

 

凄く綺麗だし、葵くんに似合うと思って陽さんと全会一致だった。


「うん。こっちも綺麗…」

 

陽さんのはオレンジを基調にした、ひし形の下にスティックが下がっている形のものである。

 

こっちも凄く綺麗だと思うし、葵くんとほとんど意見は一緒だった。


「…おぉ、かっこいい」

 

僕のは黒が基調のリングにスティックが二本下がっているような形のものだった。

 

あんまり似合わないかな、と思って避けてきたけれど、これを機に着けてみるのもいいかもしれない。


「二人ともありがとう!大事にするよ」


「それはこっちにも言えることだよ。提案してよかった」


「うん。今度三人で出掛ける時は着けてこようかな」


「僕も!つけてくる!」

 

葵くんは花の咲くような笑顔を輝かせる。

 

まだ問題は多いかもしれないけれど、葵くんが笑っていられるような未来になるといいなと願うばかりだ。

 

喜ぶ葵くんに微笑ましい笑みを向けていると横から陽さんがちょんちょんと突いてくる。


「ねぇねぇアカメ」


「ん?どうしたの陽さん」


「ちょっと試着。これ、つけてよ」

 

そういってイヤリングを差し出し、片側の髪を上げて耳を向けてくる。

 

突然そう言われ、心の準備もあったものではない僕は固まってしまう。


「え…えっと、その…」


「ど、どうしたの。せっかく買ってくれたんだからさ」

 

そう陽さんは言ってつけるように促すが僕の緊張と恥ずかしさを加速させるだけである。


肩の荷が下りて安定してきた心拍数がいきなり上がるのを感じた。


こういうことには耐性がないし、相手は陽さんだ。緊張するのも仕方がないだろう。


それでもと、僕は意を決し、顔が少しずつ火照るのを感じながら陽さんの横顔に近づいて…


「………や、やっぱり危ないしこれは自分でつけた方が…」


「………そ、そうだね…」

 

ヘタレが発揮されて陽さんにそのまま返却することとなった。


…だってしょうがないじゃん。

 

陽さんもすんなり受け取ってくれて助かった…、顔が熱くてしょうがない。

 

何故か葵くんはもじもじしながら僕を見ているが、イヤリングをつけて欲しいと要求されたところでもうキャパは一杯で対応できないので素知らぬふりをする。


……だってしょうがないじゃん。しょうがないじゃん!!


投稿するようになってから早一週間、読んで貰えてとても毎日がホクホクです。ありがとう、そしてもっと読んで…。

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