77話 覚悟
「ッ‼」
来るッ!
「見せてみろッ!お前の生き様をよぉッ‼」
超高速で飛来した拳は僕の交差した腕にぶち当たり、周囲に衝撃波が広がる。
今の一瞬だけで腕にヒビが入った感覚がある。だが諦める気などサラサラない。
ギリギリ膠着状態が成り立っているが、僕の身体はみるみるうちに軋みをあげていく。
身体中に全力で魔力を供給し、闇影の理も同時並行で全力で行使しているため魔力が凄まじい速度で消費されていく。
全力で踏ん張っているせいか視界が真っ赤に染まる。鼻から、眼から血が溢れる。
耳がどんどん遠くなり、身体の感覚がなくなっていく。
それでも、諦める気など毛頭なかった。
「そんなもんかアカメぇッ!これが絶望だぁッ!」
アヴァリスはさらに魔力の出力を上げ、ギリギリ耐える僕に止めを刺そうとする。
その声すらも僕には届かず、されど僕の中では別の事が思い返されていた。
アヴァリスに吹き飛ばされたあの時、思い返す度に絶望と同時にやってくる光景。
「リ…あ…」
助けると誓ったはずだ、あの子の笑顔を守りたいと心から願ったはずだ。
何故守れなかった、何故あの時立ち上がれなかった、何故手を伸ばさなかった。
何故…あの子にあんな顔をさせたんだッ‼
「グッ…あ…あァッ!」
交差させた前の方の腕がひしゃげる。もう片方も時間の問題だ。
だけど、諦める気など断じてない。
もう少しで手が届くのだ。あの時裏切った誓いをやり直すチャンスを貰えるのだ。
己を賭すと誓ったはずだ。だったらやり遂げて見せろ柊アカメッ!
「終わりだぁッ!」
アヴァリスが本気で仕留めようとさらに魔力出力を上げる。
もう片方の腕もひしゃげる。折れた腕など対して使い物にならないが、それでも支えるのを止めない。
何が絶望だ、あの時の方がよほど絶望だった。
邪魔をするな、お前程度に打ち砕かれる覚悟など持ち合わせていないッ!
「あぁぁぁあぁッ‼」
拳が振り抜かれる。
僕の身体を支えていた闇から創った障壁が耐えかねて崩壊する。
左足のふくらはぎ当たりの骨が叩き折れ、踏ん張りも碌に出来ない。
それでも、諦めるという選択肢は頭に一片たりとも存在していなかった。
振り抜かれた拳の衝撃で後ろに大きく後退する。
それでも踏ん張った体勢から一切動じず、闘技場の壁に着く手前で勢いは落ちた。
二の腕は上がっているがひしゃげてあらぬ方向に曲がった両の腕、仮面の下から滴り続ける血、左足が叩き折られ何故立っていられるのか分からぬ程の満身創痍と呼ぶに相応しい様相。
それでも残った足を支えに立ち続け、その様相になったとしても衰えぬ…いや、なお強く、暗く、深く輝き続ける覚悟の宿った眼でアヴァリスを睨み続けている。
「……審判は?」
アヴァリスは何処か打ち震えたように全身を滾らせ、マイクを使わず全力の声でもって宣言をする。
「あぁッ文句ねぇ‼お前の勝ちだ小僧!」
一瞬の静寂、だがその数瞬後爆発的な歓声が感情を包み込んだ。
本来ならあり得ない話、悪魔となって間もない者がかのアヴァリスの攻撃を受け止めきるなど。
だが、目の前の少年はやり遂げた。
そんな奇跡を成し遂げた少年に、割れんばかりの賞賛を送りたくなるのは必然と言うものだった。
赤く掠れた視界、少しずつであるが回復しつつある聴力でアカメは何となく理解し始める。
あ…勝てたんだ…。
正直、歓声などどうでもよかった。
またリアと過ごせる、今度こそまた皆と一緒に…。
安堵で膝をつきそうになるが、あまりに格好がつかないため気合で立ち続ける。
あ、でもアルマくんやレイ姉さんには褒めて欲しいかもな。屋敷で待っている皆にも顔向けできそうで良かった。
ベルは…分からないけど、今日は認めてくれそうな気がした。
段々と回復しつつある視界で上を見上げると、会場の人たちが立ち上がって僕に声をあげている。
その中で、アルマくんやレイ姉さんも立ち上がって何か言っているようだ。
全く、そこからじゃ聞こえないよ…何て言っていたのか聞きに帰らなきゃ。
アヴァリスは何とか立ち続けている僕に近づき、折れた腕を掴んで上に上げる。
「いッたぁッ⁉」
「我慢しろ、勝鬨だ。気張れよアカメぇ」
いや嘘だろこいつ…。
アルマくんと姉さんは何て言ってるのか聞こえないけど、僕たちの様子を見てなんかブチ切れてるのは分かる。
もっと言ってやってくれ…聞こえないけど。
「さて、これから閉会をするが、引き渡しはその後だ。剣闘試合に参加した以上最後まで協力して貰うぞ」
「…分かってるよ、約束だからね。その代わりそっちも約束守れよ」
「誰に言ってんだ」
さっきよりも掴む腕に力を込められ軽く悲鳴を上げる。
それを見て気を良くするアヴァリス。
…こいつ、いつか覚えておけよ。
最後に恨みを増やしつつも、剣闘試合はつつがなく終わりそうだった。
そのはずだった。
「アヴァリス様ッ!」
慌てた様子のアヴァリスの部下らしき人間が闘技場内に入ってくる。
気分を良くしていたアヴァリスは少し水を差された気分となる。
「何だ?今良いところなんだからよ」
「そ、それが…どうしてもお耳に入れて貰いたいことが…」
「なんだ?言え」
「あ、アヴァリス様にだけお話と通したく…」
「俺が良いと言ったんだ、言え」
その部下は数瞬躊躇ったようにするも、意を決して発言する。
「ボルドーがアヴァリス様を裏切り…あ、あの赤い眼の少女を奪い逃走してしまいました!突然のことで対応が間に合わず…今はファング様が全力で捜索しております」
「……は?」
なんて言ったこいつ…リアが…は?
PHPがうんたらかんたらで大変なことになってますね。
それでも読みにきてくれたそこの貴方、凄く好き。
関係なく読みに来てくれた未来のそこの貴方、勿論好き。




