75話 剣闘試合3
「…これ、邪霊も出てくるの?」
びっくりして思わず素の喋り方になってしまった。
だが、そんなことお構いなしに邪霊は次々に砲撃してくる。
「ッ!連射できるのか!」
先程のナイフ使い同様読みやすくはあるが威力が桁違いだ。当たったら受け流すも何もなく普通に吹き飛ばされて終わる。
闘技場を旋回し、飛ばされ続ける魔力波を何とか躱し続ける。
そもそもどうやってこんな化け物使役してるんだ⁉邪霊って飼えるものなのか⁉
屋敷にいる想像をしたが駄目だな、ルビーと上手くやっていける気がしない。
十数発撃ったところでようやくガス欠したのか、口から煙を吐いて動きが止まる。
チャンス!と思い、一気に距離を詰め攻撃を仕掛けるが……
「グギャウゥッ‼」
「なッ!近接もできるのか⁉」
近づいたところを前足で迎撃され、刃のようになっている尻尾で危うく切り裂かれそうになる。
攻めあぐねる僕に、邪霊は複数ある目をぎょろぎょろさせて愉快そうに嗤っている。
「…つくづく化け物だな、あんなものどこで発生するんだ」
市街地では精霊教会がいるから発生しないだろうし、となると森の奥とか?
何にせよ、娯楽としてあんなものを使役できるアヴァリスとその部下の強さが伺えるな。
アヴァリスの方をちらっと見ると「さぁ?どうするんだ?」と言わんばかりに豪胆な笑みを浮かべている。
掌の上にいるようで非常に癪だが、攻略しないことには仕方がない。
先程までよりも強く魔力を循環させ、身体能力を底上げする。
クールタイムの終わった邪霊がまた魔力波による砲撃を開始してきた。
避け続けながら相手を観察する。
さて、どんなものかな。
試しに創り出したナイフを一本投擲すると、砲撃を止めて尻尾で弾き返した。
「…なるほど」
口から魔力波を放射する都合上どんな体勢からでもこちらに放てるというわけではないのか。
攻撃を中断され不快になったのか、先程よりも気持ち威力の上がった魔力波が飛んでくる。
よく見るとやつの足元、どんどん後退しており、地面に重いものを引きずったような跡が出来ている。
遠距離攻撃型のように見えて足や尻尾が発達していると思ったが、あれは奴の砲撃に耐えられるために発達したものなのか。
ともすれば…と段々と頭の中で勝利への道筋ができ始める。
疲労とは裏腹に自然と口角が段々上がっていく。
アヴァリス…吠え面かかせてやる。
・・・
「ほう?何か分かったようだな?」
アカメの様子を愉快に観戦していたアヴァリスが、アカメに釣られて笑みを浮かべる。
まさかここまで成長してくるとは思わなかった。
勿論ベルのとこで鍛えて貰ったのだろうが、それにしたって目を見張るほどだ。
一か月前のあの眼よりも強い眼をするようになっていた。
あの時は身体はあんなビビり散らかしていた癖に、今となってはこの俺にガンを飛ばすようになりやがった。
面白れぇなぁ、まだまだ雑魚の癖によぉ…。
アヴァリスがここまで格下相手に興味を持ったのは久しぶりのことだった。
雑魚相手に嫌悪も侮蔑もない、ただ単に本当に興味がなかった。
自分の元に訪れる奴、奴隷として売り払われる奴、剣闘士として闘技場で剣闘試合に出る奴。その全てが自分より弱く、媚びへつらうか無謀な行為を行うか、失意の目を以って項垂れているだけかだった。
それもそうだ、自分は強すぎるのだ。
ベルのような上澄みはいれど、この世の中でも指折りの実力者である己を前にして誇りや尊厳、意地を保ったままで居られる奴などどれだけいるだろう。
そもそも自分より強い奴など剣闘試合になど出ないし奴隷にもならない。よって自分より弱くて興味を持てる奴など稀も稀だった。
そしてその稀が、今目の前で戦いを繰り広げている雑魚だった。
しかもその雑魚は、あろうことが己の為ではなく対して知りもしない餓鬼の為に命を賭すと言うではないか。
アヴァリスにとってこれほど道化なことがあろうか。
己の力のみを信じ、望むものを己の力で手に入れ続けてきたのだ。
それは全て自分の為、他人など気に掛けたことなど欠片ほどもない。
これまで見てきた雑魚にも他者を守ろうとする奴はいた。
だが、そいつらも最後には奪われるか諦めるかして絶望したり憤慨したり…皆似たような末路を辿っていった。
所詮他者を当てにした力などその程度、やはり己のみを信じ振るう力こそが至高。
それがアヴァリスの理解であった。
だが、目の前の雑魚はアヴァリスに初めて別の答えを示そうとしていた。
餓鬼を助けたいという戯言を本気でぬかし、この俺を前にして一歩も引かぬ覚悟を示した。
そして、今目の前で予想を超える成長を見せ、望みに手を届かそうとしている。
興味を示さないと言う方が難しい話というものだ。
「さぁ…どうするんだアカメぇ」
その邪霊は魔力波を次々飛ばしてきて鬱陶しい限りだが、魔力保有量はそこまで多いわけではない。
だから結局のところバテるまでの持久戦が正攻法という形になるが…。
アカメは闘技場を旋回しながら様子を伺っている。
だが何もしていないわけではない、虎視眈々と機を伺っている。
そして、その時はきた。
「ッガッ⁉ギャアァアッ⁉」
邪霊が次の連射態勢を整え打ち出そうとした時、自身の魔力波の衝撃に耐えかねたように後方に吹っ飛んでいった。
「気づいたかぁ!」
あの邪霊は自身の放つ魔力波の衝撃に耐えられるように足や尾、身体が装甲のように発達しているが、何も全身ガチガチというわけではない。
身体を動かす構造上どうしても脆くなる部分は存在してしまう。
アカメはその部分を魔力波が発射される直前で影から創った槍で貫き、衝撃に耐えられないようにしたのだ。
好機と見てアカメが周辺に散らばる武器を回収しながら高速で接近する。
邪霊は何とか迎撃しようと試みるが、自身の衝撃で吹き飛ばされた傷が残り上手く動くことが出来ない。
それでも無理やり砲撃を放とうとする邪霊の口に、アカメが拾った武器を突っ込み斬り裂く。
堪らず悲鳴を上げる邪霊とすぐさまその場を離脱するアカメ。
体内の発射機構をズタズタにされ、制御を失った魔力が行き場を失くして邪霊の体内で臨界点にまで達する。
「あっけなかったな」
「ギャアァアァッ‼」
邪霊は衝撃波をまき散らしながら爆散し、原形を留めず息絶えた。
周囲の観客から歓声が沸く。
本当に、やるじゃねぇかアカメよぉ…。
ちらりと来賓席の方を見やると、アルマやレイが歓声を上げるでもなく固唾を飲んで見守っている。
…ったく、少しは信用してやったらどうなんだ?お前らが鍛えたんだろうが。
ただまぁ…本当に愉快な気持ちだ。
…試したくなっちまったな。
アヴァリスは高揚した感情を隠すことなく笑みとして全面に表情に出すのだった。




