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アカメの悪魔  作者: 海蛙
3巻(想定)

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67話 怯むな

 剣闘試合……いきなり聞いたことのない単語を出された挙句、そこに僕が出場するという、まるで予期していなかった事態に僕は眼を丸くする。


「べ、ベル!どういう」


「リアを助けたいのだろう、なら黙っている」


 言いたいことはあるけれど、そう言われては口を噤むしかない。


 アヴァリスは少し考えるようにした後、ベルの方を向く。


「…そこの小僧が出て何のメリットがある?無名の奴が一人加わった程度で盛り上がるとでも?」


「無名ではない、アカメはうちの代表だ」


 アヴァリスはその言葉に目を見開き、そして笑みを強める。


「と、いうことはだ…お前の名前を使っても良いと?」


「あぁ。アカメは我々の代表であり、私の名前を背負って殺し合いの場に参加する。こいつが代表になることをあの屋敷の全員が承諾しているし、こいつが負けることはすなわち我々の敗北だ。」


「な、何言って…」


 僕が、皆の代表…皆を背負って立つ…?


 話についていけず混乱するが、僕のことなどお構いなしに話は進行していく。


「何故こいつだ?お前らの中から出さないのは?」


「分かっているだろう、我々が出てはそこらの有象無象など相手になるわけないだろう。戦力的にアカメが一番適任だ。それに…」


「それに?」


 ベルは僕の方を見て笑みを浮かべたように見えた。


「剣闘試合の優勝者には叶えられる限りの要求を一つ叶えるという特権があるだろう?アカメはそれをどうしても使いたいらしくてな」


 ……なるほど、そういうことか…。


 なら、やる価値は十分にある。


「何だ小僧、何が望みだ」


 僕は前に歩み寄り、アヴァリスと正面切って対峙する。


「リアを返せ、僕の要求はそれだけだ」


 アヴァリスはそれに応えるように僕に近づき見下ろし、魔力圧を放ってくる。


 思わず、反射的に後退りしそうになってしまったが、寸前で踏みとどまる。


「小僧…お前如きに出来んのか?正真正銘の殺し合いだ、生半可な相手なんざ出てこねぇぞ?今のお前には逆立ちしたって勝てねぇ相手がわんさか出てくる。闘技場のシミになるぐらいが関の山だ。それでもやろうっつー気概がよぉ…おめぇに覚悟があんのか⁉あぁ⁉」


 先程のベルが放っていたものよりもはるかに強力な魔力。今すぐに意識を手放してしまいそうになるほどの圧力だ。


 正真正銘の殺し合いの場、怖いと言ったら大嘘になる。


 自分より格上の相手が出てくるというのも本当なのだろう。下手したら、本当に死ぬかもしれない。


 それでも…

        

「…何度でも言う。家族《リア》を返せ」


 今は叶わずとも死ぬ気で手を伸ばせ、己を賭して望む世界を創り上げろ。


 それがたとえ目の前のこいつが障害であろうとも、怯むな。



 アヴァリスは僕の様子を品定めするような目で見下ろし、内心で強い笑みを浮かべる。


(足は今にでも逃げ出しそうになっている。声だって震えてらぁ。この程度の魔力圧に気圧されちまう雑魚も雑魚、だが…)


 眼だけは退いてない。


 覚醒まだの段階、いやそれを経ても俺の前で意志を貫き通せる奴はどれほどいる…それを目の前の小僧は生意気にもこの雑魚の段階でやっている。


 こいつはただ漫然と過ごす餌なんかじゃない、紛れもない己と同じ捕食者の在り方だ。


 …気に入った。


「…なんかいい匂いすんな」


「え…あ!」


 そういえばシアさんのサンドイッチが…と思った瞬間に僕の分は既にアヴァリスの手の中にあった。


「ほー、旨そうじゃねぇか」


「か、返して!」


「やなこった、そもそもお前らが急に来るもんだからこっちは飯もまだなんだ」


 手を伸ばす頃にはもう遅い、包みを開けてバクバク食われてしまった。


 ……シアさんのご飯、美味しいから楽しみにしてたのに


「あぁ…」


「うめぇなこれ、誰が作ったんだ?」


「…シアさんだけど」


 アヴァリスが「なるほどそうか」と食べ進める。美味しそうで悔しい…。


「なぁベル、本格的にシアをこっちに貸し出して欲しいって要求は通」


「戦争がお望みなら受けて立とうじゃないか」


 冗談だろうが…とサンドイッチをあっという間に食べ終わったアヴァリスは、僕とベルを見据える。


「いいだろう、小僧。お前を剣闘試合に出させてやる。ただし舐めた試合してみろ、お前は死んであの餓鬼は一生奴隷のままだ。そこんとこ理解して腹括れ」


「…上等だよ、首を洗って待っていろ」


 「別にアヴァリスと戦うわけではないぞ」とベルがちゃちゃを入れてくる。うるさいな…。


「用が終わったならさっさと出て行け。お前らのせいでゆっくりできねぇだろうが」


「そうさせて貰おう」


 僕はベルと顔を見合わせ、アヴァリスの元を後にした。


 アヴァリスの根城を出てすぐ、ファングと呼ばれていた男に呼び止められる。


「おい、ちょっといいか」


「ん、僕?」


 ファングは僕の前に立ち、そして先程のアヴァリス同様品定めをするような目を向けてくる。


「…アヴァリス様が格下相手にあそこまで興味を持つことは稀だ。お前の何がそうさせたのかは知らんが…あそこまでアヴァリス様に啖呵切ったんだ、情けねぇ真似したらただじゃおかねぇからな」


「…勿論、そのつもりだよ」


 今更凄まれたところで僕のやることは変わらない。


 ベルが堂々とリアを取り戻せる舞台を整えてくれたんだ。なら僕は足掻くだけだ。


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