66話 儲け話とやら
悪魔が蔓延っているこのパンデモニウムであるが、外を普通に歩いている分には僕らが住んでいるようなところとなんら変わらない。
途中途中路地裏のような道から外れた場所に眼を向けると、目に光がない人や逆に血走っている人、様子がおかしい者が見受けられたので治安がいいとはお世辞にも言えないけれど。
ベルと共にしばらく歩くと、大きく、そして豪華であると第一印象でそう思ってしまえるほどの建物の前で止まった。
惜しみなく施された絢爛な装飾が施こされ、周囲には屈強な見張りが何人もいる。
そして周囲には誰も寄り付いていない。
…ここか。
ベルは入り口から堂々と入ろうとするが、当たり前のように門番には止められる。
「誰だ、あんた」
「アヴァリスの客だ。通してもらう」
そうベルは言うが当然通しては貰えない。
より門番の表情は険しくなり、携帯している刀のようなものに手をかける。
「適当なこと言ってんじゃねぇよ。それに呼び捨てたぁ、うちの頭への無礼を許すわけにはいかねぇな…」
「ほう、阿呆なことを除いては中々忠義の見える部下ではないか。アヴァリスも恵まれている」
「…もういい、ここで」
そこまで言いかけた門番を手で制す。
「まぁ待て。もう私から向かうことは止めにしよう」
「あ?何言ってんだ」
「いやぁ何、向こうから来て貰おうと思ってな」
門番がどういうことか分からず困惑したのも束の間、ベルが高密度の魔力の奔流を辺りに解き放った。
自分に…いや、別に誰に対しても向けられているものではない。そう分かっていても冷や汗が止まらない。
僕は何とか耐えられているが、門番の方は圧力に耐えきれず泡を吹いて倒れてしまった。
離れた位置で見張りをしていた人達もベルの圧力を感じ取り、一気に臨戦態勢となる。
当然だ、こんな化け物放置できるわけがない。
ここからどうするつもりなんだ?
「どうか矛を収めて貰えませんか、うちのもんが失礼致しました」
ベルの圧力に耐えていると、建物の中から一人の隻眼の男が出てきた。
この魔力圧の中でも涼しい顔していることからも相当な実力者であることが伺える。
「いい、面倒な過程を飛ばそうと礼を欠いたのはこちらだからな。この者を責めてやるな」
「寛大な御心に感謝します。して、今回はどういったご用件で?」
「アヴァリスはもう帰っているだろう、聞いていないか?話をつける約束をしている」
「約束、ですか?」
「あぁ、約束だ」
隻眼の男は「ふむ…」と少々考える素振りを見せた後、僕らを招き入れるように広く扉を開けた。
「アヴァリス様は今しがた戻られたばかりでして、少々お時間を頂きますがそれでもよければ」
「あぁ、問題ない」
分かって貰えたのだろうか…そうじゃなくてもベルとここで争うのは得策でないと判断したのか。
僕らはそのまま中に通され、エレベーターで上へ昇って豪華な客室らしき場所へ通された。
「ここでお待ちいただいても?間もなく来ると思うのですが…」
隻眼の男がそう言ったのも束の間、奥の扉が開く。
「……ファング、追い返せって言ったよな?」
屈強な体躯に絶対的な自信の見える出で立ち、アヴァリスはこちらを見るなり隻眼の男に文句を言う。
「できるわけないでしょう。それにこの人がわざわざ嘘をつく理由がありません。約束したなら自分の責任でしょう」
「そうは言ってもなぁ……」
アヴァリスはベルの姿を認めると心底ダルそうにため息をついた。
「おめぇはよぉ…後日ってのは昨日今日の話じゃねぇんだぞ?」
身体から若干湯気が上がっているのを見るにお風呂に入っていたのだろうか。
ベルはその様子を見て鼻を鳴らす。
「本当はすぐに向かってもよかったのだがな。気を遣って今まで待ってやったのだ、ありがたく思え」
「今戻って来たばっかだっての…。シアの転移か、ホントお前んとこのは粒ぞろいだよな。俺に預けてみる気はねぇか?」
「戯言を抜かすな」
「そう言うと思ったぜ」とアヴァリスはベルを軽く流すと僕に視線を移す。
「よう、生きてたか小僧」
「…おかげさまで」
生きていることを確信していたのか、それともまるで関心がなかったのか…いずれかは分からないが、まるで気にした様子はない。
「あの餓鬼も目立った外傷はなかったな、一人で受けきったってことだろ?やるじゃねぇか見くびってたぜ」
「お世辞はいいよ、リアはどこにいる?」
僕の吐き捨てるようなもの言いに、アヴァリスは邪悪な笑みを強める。
「さて、どうなったかな?ボルドーに預けて俺もどうなったかは分からねぇんだ。また奴隷として過ごしてんじゃねぇのか?」
アヴァリスの発言に怒気を隠さずぶつけそうになるが、ベルに片手で制される。
「ほう、私は客として扱うよう言ったはずだが?私の忠言を無視してぞんざいな扱いをしたということか?いい度胸じゃないか」
ベルは威嚇するように眼を細め、反対にアヴァリスはやりづらそうに顔をしかめた。
「…ったく、からかっただけだろうが。この屋敷に置いてる。約束は違えてねぇよ」
「当然だ」
すぐさまリアの魔力を探るが、全く気配を感じない。
疑いそうになるが…わざわざベルの前で嘘を言う理由がない。
「それで、本題に入ろうぜ。お前の持ってきた儲け話とやらを聞かせろよ」
儲け話?と首を傾げているとベルが「あぁ」と言って僕の背中をポンと押す。
「一月後、お前の管理する闘技場で大規模な剣闘試合があるだろう。そこにこいつを貸し出してやろう」
「…え?」
剣闘……え?




