63話 準備
「アカメさん!」
屋敷に戻るとアルマくん、リナさん、シアさん、そしてフレイが出迎えてくれた。
レイ姉さんはどこかに出かけているようだけれど…帰ってきたら悲しむだろうな。
フレイが緊迫した様子で近寄ってくる。
「り、リアは!リアは何処に⁉」
「…ごめん、奪われた」
フレイはそれを聞いて愕然とする。
他のみんなも反応は様々であるが、皆一様にリアが居なくなったことに悲しみを覚えているようだ。
全ては僕が至らなかったせいであり、僕の落ち度だ。
助けたいという感情だけで動いた結果のツケが、ここで来たのだ。
「…そう、ですか…」
フレイは何とか飲み込んで引き下がるが、やはりリアが連れ去られたことは相当堪えているようだ。
「アカメ」
アルマくんは神妙な面持ちで僕の前に立ち、そのまま
「すまなか」
「待ってアルマくん、謝らないで」
頭を下げて謝罪をしようとしたので、僕はそれを止めた。
「…アカメ、これは俺の役目を全うできなかったけじめとして」
「分かるよ、僕だって謝りたいことはある。…だけど、今はそうじゃない。僕の師匠なんだから言いたいこと分かるでしょ」
そこでアルマくんは僕の眼が死んでいないことを認識し、目を軽く見開く。
そして、すぐに不敵な笑みへと変わった。
「…あぁ、そうだな。まずはリアを迎えに行く方が先だ」
「流石、分かってるね」
僕らの共通認識で何が起こっているのかは分からないまでも、何処か希望を持ってそうなやり取りにフレイは顔を上げる。
「ど、どういう…リアは?」
「奪い返しに行く。今度こそ、完膚なきまでに」
「何か策はあるのか?」
アルマくんにそう言われるが、僕は肩をすくめた。
「こんな豪語しておいて何だけど、僕個人では何も分からないんだ。ベルがどうにかしてくれるらしいんだけど」
そこで話を振るとベルは鼻を鳴らして応える。
「先ほどとは打って変わって強気じゃないか。私はいいと思うぞ」
「…悪かったよごめんって。僕一人じゃまだどうすることも出来ない。力を貸して」
ベルは僕の言葉に頷き、そしてフレイの方を向く。
「そう心配そうな顔をするな。アカメが必ず連れて帰る」
「ど、どうして…そこまで…」
主であるベルがどうしてそこまで動いてくれるのかが分からないのか、ありがたい思いはありつつも少々困惑したような声をあげる。
「お前らの身元の確認は取れている。どちらも正しくボルドーとやらの奴隷商会の商品だった。敵対者でないことも確認が取れ、レイやアカメを始めうちの者とも親しくしてくれている。お前らは最早この屋敷の住人だ」
「え……あ、ありがとうございます…」
「そして、どうしてそこまでするのかだったか?決まっている、私はこの件を些事と捉えていないからだ。奴らは私の領域を土足で荒らすような真似をしてきた。今一度、どちらが上かをはっきりさせねばと思っただけだ」
フレイはそれを聞き、困惑しつつも深々と頭を下げた。
正直僕もベルの真意は分からないんだよな…。レイ姉さんがいたら翻訳してくれそうだけど今は居ないし…。
でもまぁ、味方してくれていることには違いない。
「じゃあベル、どうすればいい?」
「まずは話をつける必要がある。奴らの本拠地がある西の禁足領域、パンデモニウムへと向かう」
パンデモニウム…名前だけ聞いたことがあるが当然行ったことはない。
危険であることは分かり切っているが、そこにリアがいるならいかない理由はない。
「よし分かった。じゃあすぐにッ」
すぐに向かおうとして、膝から崩れ落ちてしまった。
「アカメさん!大丈夫ですか!」
「やる気があるのは結構だが、今のお前の状態では完全にお荷物だ。それに幸か不幸か今すぐ向かったところでどうにかなる話でもない。今は休め」
本当に限界が来ていたのだな…我ながら情けない…。
「…分かった、じゃあ一旦帰るよ」
「その状態でか?魔力操作も覚束ないだろう。ここに泊っていけ」
「え、いやでも」
「心配されるか?あの陽やらの家に泊っていることにでもして貰ったらどうだ」
前みたいに送ってくれたり魔力隠蔽はしてくれないってか…ただ言われていることは事実だからしょうがない。
僕は陽さんに連絡をし、泊っていることにさせて貰った。
こういう時に深くは聞かずに受け入れてくれる陽さんの存在はとても助かっている。
その後、おばさんの方に一報を入れてベルの屋敷に泊ることになった。
今になって身体の節々に限界が来ていることを自覚し、立っていることすら辛いのでありがたい話ではある。
そこからは爆速で事が進んだ。
風呂に入ったらタオルやら寝巻やらが事前に用意されているし、ご飯も出来立ての状態で用意されているし、超きれいな部屋に通されるしで至れり尽くせりだった。
唖然としながらホカホカで綺麗な部屋に入った僕にリナさんがいたずら心を全面に出た笑顔を向けてくる。
「どうでしたかご主人様」
「…やっぱりからかってたんだ。普段シャワー浴びる時とかあんなことなかったもんね」
別に普段からシャワーを借りたりお腹が空いたらご飯を食べさせてくれることはあったけど、断じてこんな感じではなかったので驚いてしまった。
「別にいじわるでやったわけじゃないよ?ベル様がアカメに休めって言ったんだから私たちはアカメを全力で休息させるために動いたの」
「逆に心が休まらないって…でもありがとう」
リナさんは「ん」とだけ返事して手を振って扉を閉めた。
僕は早々に電気を消してベッドに飛び込む。
悪魔になってから例え電気を消したとしても、いやむしろ暗い方が周囲を認識できるようになってしまった。
僕は眼を瞑り、敵を見据える。
あの大男、ベルはアヴァリスと呼んでいた。
凄まじい強さだった。僕程度では測り切れないけれど、もしかしたらアルマくんと同じくらいの可能性も考えられる。
加減はされていた。それでもたった一撃であれだった。
今の僕では逆立ちしたって勝てないだろう。
そしてボルドーとかいう男に関しても、正直怪しい。
全く認めたくないが、あちらの方が場数は踏んできているだろう。
そしてあいつが僕の反抗に激怒した時魔力隠蔽が乱れたが、体感僕よりも多い。
今日見た敵、どちらにも僕は負ける。それが現時点での僕の能力。
だが関係あるか、あいつらはリアにあんな顔をさせた。
僕の力だけでは成し得ないことなので非常に悔しいが、そんなプライドなど何の役にも立たないからさっさと捨てろ。ベルを利用して僕の願いを叶えるんだ。
改めて対峙すべき敵を見据え、立ち向かう心を整えていた時、コンコンと扉がノックされた。




