61話 格
目の前でぶっ飛んでいったアカメとリアを見てアルマは凄まじい後悔に襲われる。
何故離れた、何故一緒に居なかった、何故目を離した…。
そもそもアヴァリスの襲撃に気づけなかったのも平和ボケをしていたからだ。
この屋敷に迫りくる悪意に最も早く気づき迎撃するのが俺の役目のはずだ。それがこのザマ、聞いて呆れる。
だがまだ間に合う、空中で受け止めれば…。
そう考え全力で追いすがろうとする、が
「おぉっと、行かせるわけねぇだろ」
「ッアヴァリス!」
戦うことではなく、向かわせないことに重きを置いているであろう動きをしてくるアヴァリスに行く手を阻まれる。
「どけぇ!貴様の相手をしている暇はないッ!」
「だから行かせるわけねぇって話してるだろうが。それにいいのか?俺という脅威を残して屋敷を出てよぉ?」
「ッ…!」
頭に血が上ってそんなことも失念していたが、それでもアカメとリアの元に向かいたい気持ちは変わらない。
「アルマっ!何があったの!」
「り、リアは?アカメさんは?」
遅れて屋敷の中からリナとフレイも出てくる。あとはどこかにリヒトとババアも機を見計らっているか。
だがそのメンツでは自分が居なければ誰もアヴァリスと真正面から戦えない。勝てはするだろうが被害が広がってしまう。
これだけ残して屋敷を離れるのは万全とは言い難い。
今はベル様もレイ様も出払ってる。あのジジイもいねぇ。
…あぁ、うざってぇな。
アルマは全身に黒い稲妻を走らせ、魔力を全身に余すことなく回らせる。
態勢を低くし、本気の殺意をアヴァリスにぶつける。
邪魔なら排除するまでだ、最短でアカメとリアのところに行くために目の前のこいつを瞬殺してやる。
「どかねぇならぶっ殺してやるよ」
「ッ!おぉ!本気のお前とやり合えるなんて何時ぶりだ⁉こいアルマぁ!」
もう関係あるか、アカメとリアを助けにいくことだけを考える。
そうして本気でアヴァリスとぶつかり合おうと動き出そうとする。が、
「やめろお前ら。屋敷を更地にするつもりか」
「…ッベル様!」
すぐ横から主の声が聞こえ一気に冷静になる。
だが、ベル様が来たとて状況は変わらない。依然としてアカメとリアは危険な状態だ。
「説明しろアルマ。これはどういう状況だ」
「はっ、突然アヴァリスが来襲し、アカメとリアが攻撃を受けました。まだ生きているはずです、向かう許可をください」
ベル様はそこまで聞いてアヴァリスに眼を向ける。
「よぉベル、息災なようでなによりだ」
「言いたいことはそれだけか?遊び半分でこのようなことをしたのなら始末するだけなのだが」
ベルから圧が放たれるがアヴァリスは依然として余裕を崩さない。
「まぁ落ち着けよ。あいつがそんなに大事か?」
「私の領域を土足で踏み荒らすような真似をされて不快なだけだ。もういい、こいつの相手は私がする。アルマ、今すぐに」
「あいつらと取引の目途がたった」
許可が下りる、その直前にアヴァリスが放った一言によりベル様の動きが止まる。
「…なんだと」
「取引内容はあの赤い眼の餓鬼だ、お前のとこの新入りが攫って行ったな。こちらの条件を何でも飲むそうだ。随分と気前がいい」
「それを私に教えてどうするつもりだ」
アヴァリスが不敵な笑みを一層強める。
「そりゃ、俺はあいつらよりお前に恩を売っておいた方が得だと思ってるからな。この情報をどう活かすかはお前次第だ」
「…なるほどな。確かにお前から要求しているわけではないな」
「何の話だ?」
「大根役者が。暗にリア、赤い眼の少女を取り返すのに眼を瞑れと言っているのだろう」
「なっ!」
アルマは目を見開きアヴァリスを見るが、当のアヴァリスは笑みを深めることによって答える。
遅れながらアルマも理解する。
確かに、アヴァリスに引き渡した方がベル様の目的は近づくかもしれない。それにリアを引き渡すことはアヴァリスの要求ではなくこちらの判断ということになる。
これで、アヴァリスは恩を売りながら自分の利益を上げる準備をすることができる。
でも…だからって…。
「もうすぐうちのもんがあの餓鬼を引き取りに動いてるはずだ。お前のとこのも…まぁ生きてるだろ。いくら雑魚と言ってもお前らが鍛えてんだろ?たかだか餓鬼一人の命でお前の積年の目的が果たされるかもしれないんだぜ?安いだろ」
「お前ッ!」
「アルマ、黙れ」
「ッ…はい」
ベルは少し考えるように顎に手を置いて俯いた後、顔をあげる。
「いいだろう、リアを連れていくといい」
「話が早くて助かるぜ、あの餓鬼は貰ってく」
「べ、ベル様!」
「何だアルマ」
「ッい、いえ、なんで…も…いや…」
ベル様に視線を向けられ、固まってしまう。
フレイも絶望の表情を浮かべているが、ベルに意見するなど出来るはずもない。
本来ならあり得ないことだ、主に背くなど。
忠誠も忠義もある。ベル様やレイ様には返し切れない程の恩がある。
でも…それでも…。
「リアはッ」
「アルマ」
覚悟を決めて言い出そうとするが、ベル様に出鼻をくじかれる。
「話は最後まで聞け」
「え…」
ベル様はアヴァリスに向き直る。
「アヴァリス、近々お前の方に出向こう。そこで改めて話をしようじゃないか」
「あん?まだなんかあんのか?」
「あぁ、リアを返して貰おうと思ってな」
「は?」
今さっきの話と矛盾する話が飛び出てアヴァリスの目が点になる。
「よく聞けアヴァリス。餓鬼ではない、〝リア〟だ。私が、レイが、リアを一員であると、家族であると認めたのだ。ならば最早お前らのところに戻ることはない。返すのではない、預けるのだ。つまるところリアは客だ、丁重に扱え」
「何言って…」
「勿論ただとは言わない、先に手を出したのはこちらだからな。より良い儲け話を持っていってやろう。楽しみにしているといい」
ベル様は悠然とアヴァリスに歩み寄り、胸倉を掴み上げる。
自分こそが絶対的な強者であるという雰囲気を全身から放つアヴァリス。
だがそれもベル様の前では有象無象の一つであると、そう認識させられるだけの絶対的な差がそこにはあった。
「お前が私に恩を売る?馬鹿を言うな。お前から買う恩など何一つとしてない。私の家族を舐めるなよ」
アヴァリスはベル様に圧倒されていたが、その事実に自分で気づいてく悔しさと笑みを織り交ぜたような表情を浮かべる。
「相変わらずだなベル。いいだろう、楽しみにしていようじゃないか」
それだけ言い残しアヴァリスは立ち去ろうと踵を返す。
「待て」
「あ?なんだよ今度は」
ベル様は無言で砕けた地面を指差す。
「お前が壊したここ、それも後日請求するから用意しておけよ」
「細けぇ野郎だなぁ…」
「当然だ、私の庭に入ってくる方が悪いだろう」
アヴァリスは面倒そうに腕を振り、今度こそ消えていった。
「…ベル様、差し出がましい真似をしたこと、お詫び申し上げます」
「いい。お前がアカメやリアを想ってくれていること、嬉しく思う」
ベルは襟を正しながら遠くの方を見つめた。
「アルマ、悪いがあの馬鹿が壊していった地面を片付けておいてくれ」
「どちらに?」
「アカメのところだ」




