57話 お願い
陽さんと葵くんと別れてからも色々と見て回った。
屋敷に小さい服があまりなかったのでこれを機にリアの服を見繕ったり、ゲームセンター…は音が大きくて怖いようなので別の場所で大きめのぬいぐるみを買ったり、姉さんがまた甘いものを食べたいと言い出したので今度はパンケーキを出している店に入ったりした。
その間、楽しそうにしつつもリアはどこか上の空だった。
「いやぁ、楽しかったね。色々買えたし」
「そうだね。リアも楽しかった?」
「…うん!楽しかったよ!」
空に茜が差し込み、そろそろ帰ろうと外に出た頃。
リアは楽しかったというが、どことなく陰りがあるように思えた。
理由は分かる。それを言い出しにくいことも分かる。
だけど、これは僕が手を貸していい段階じゃない。
これはリア自身の問題だ。幼子に厳しいようだが、本当に望むなら自分から動き出さなきゃ何も変わらない。
「じゃあもうそろそろ帰ろうか」
姉さんがそう言って伸びをした時、後ろの出入り口から猫を迎え入れた幸せそうな家族が通り過ぎた。
リアの眼が見開かれ、手に力がこもった。
「ね、ねぇ!」
思ったよりも大きい声が出て自分でびっくりしたのか少し固まってしまう。
だが、レイ姉さんは冷静にリアを見つめている。
「どうしたの?」
「あ、あの、ね!あの猫さんっ、どうなるの!」
リアは少し泣きそうになりながらも、姉さんと向き合う。
「あの赤いお目々の猫さんのことだよね。…どうだろうね、もしかしたらあのまま誰にも飼われないであそこにいるのかも」
「っ…あ、あの猫さん!飼い、たい…です!」
姉さんはリアを地面に降ろし、手を握りながら眼を見て話す。
「どうして飼いたいの?」
「あの子わたしと一緒!だけどわたしはお兄ちゃんが助けてくれて…えっと…あの子も一緒がいい!」
「でも、リアにはお金がないよ。お金はいくらでも出てくるものじゃないよ」
「っ、お、お手伝いする!ふれいと頑張る!今日買ってもらったものもいらない!」
「飼い方は分かるの?ちゃんと面倒見れるの?」
「わ、からないけど…ちゃんと見れる!」
「あの子は他の猫さんよりも飼うのが大変って言ってたよ。ちゃんと面倒見なきゃあの子が可哀想だよ」
「っおべんきょうする!」
「どうやって?」
「え、えーっとえーっと…あるまとか、しあに教えてもらう!」
「頑張ってあの子を飼えたとして…リアよりも先にあの子は死んじゃうよ?辛くならない?」
「っ…」
リアは今にも声をあげて泣きそうになる。だけど、寸前で踏みとどまっている。
ここは退いたらいけないと、幼子ながら何となく理解している。
「分かんない…でも考えたらかなしい…けど!」
眼に涙を溜めながら、それでも強い眼へと変わる。
「あの子と一緒にいたい!あの子にも幸せになってほしい!お願いお姉ちゃん!」
何も持たない子どものお願い。財力も能力も、何もかも満たない。
だけどその真っすぐな心だけはとても綺麗だと、心の底から思う。
思えば出会った時もそうだ。怖いはずなのに、フレイを助けるために僕に真っすぐに助けてと言えた。
この子の心には、報いたくなってしまう。
「姉さん」
僕は姉さんに銀行のカードを差し出した。
「これは?」
「二十万円ぐらい入ってる。ちょっとでも足しにして」
僕がこれまで貰って来たお年玉や稼いだバイト代、諸々含めた全財産。
本当はおばさんや兄さんが困った時に貯めておいたものなんだけど、今使うのは惜しくない。
大変だけど、また貯めればいいから。
「勿論それだけじゃ足りないのは分かってる。お金が湯水みたいに湧いて出てくるものでもないことも痛いぐらい分かる。だけど、それでもあの猫を飼わせてあげて欲しい」
「…どうして?」
僕はリアの横に両膝をついて座る。
「リアは今、自分で決めて、その為に自分に何が出来るのかと必死に足掻いている。誰にでも出来ることじゃない。僕は、その心に報いたいんだ」
リアと同じように姉さんの眼を見て真正面から向き合う。
「リアにとっても良い勉強になると思う。ちゃんと一緒にいて、ちゃんと幸せに終わる命があるって知ることは、これから悪魔として生きる上で重要な価値観になる。足りないお金は後で僕が払う。だからお願い、リアに猫を飼わせてあげて」
リアと同じように、眼を逸らさずに真剣に向き合う。
姉さんは僕らを見つめて少しした後、はぁっとため息をつく。
「いいよ、ペットショップいこっか」
「「いいの⁉」」
リアと二人揃って同じことを叫んでしまった。思わず見合わせて笑顔になる。
それとは反対に姉さんはバツが悪そうにそっぽを向いて膨れている。
「元々リアが言い出せたら飼うつもりだったんだよ…。ただ、我儘だけじゃ通せない心はあるんだよって知って欲しくて…」
「分かってるよ、姉さんが僕らに厳しくするときはちゃんと伝えたいことがあるって」
そもそも命を飼うということは簡単なことじゃない。
それに加えリアは悪魔だ。幼いとはいえ赤い眼の持ち主だし、これから渦中に巻き込まれる可能性は大いにある。
その時に、折れず強くあるためには選択と覚悟の練習をする必要がある。
今回のキツく見えた問答も、リアのことを考えてのことだろうと分かっていた。
「じゃ、早速いこう!」
「アカメこれ」
「え、それ使わないの?」
姉さんは僕にカードを返してきた。
「いらないよ、弟からむしり取るお金なんてありません。それにあのくらい払えるよ」
「いやあのくらいって…」
凄い高かったですけど…。
制服の件もそうだし、そもそもあの屋敷を維持しているものそうだし、ベルやアルマくん達も良い物着てるし…。
やっぱひょっとしなくてもお金持ちなのか…?
「どこからそのお金は湧いてくるのさ…」
「そこも含めてアカメは勉強だね。財力も自分の望みを押し通す一つの力だよ」
姉さんはリアを抱えながらこちらにウィンクしてきた。
…まだまだ敵わないね。




