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アカメの悪魔  作者: 海蛙


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5話 変わらぬ日常、変わった日常

木の葉の間から零れる光ほど美しいものはこの世界には幾つ存在するのだろうか。

 

上を見上げながら僕はそんなことを思った。

 

今目の前に広がる日常も、些細ではあるがもしかしたらその内の一つに入っているのかもしれない。

 

ベルとレイ姉さんの指導の元、僕は何とかこの月曜日までに魔力の隠蔽を習得することが出来た。少々不安ではあるが、ベルからも及第点とは言われているので多分大丈夫だろう。

 

それにしても酷かった…と、この二日間のやり取りが思い出される。





『…よし、何とか形は作れるようになったな。ではその状態を維持しておけ。これから必要な知識を叩きこんでいく』


『え…この状態で?』


『当たり前だろう。息をするようにできなければ到底送り出すことなどできん。途中で問題も出す、呆けていられると思うなよ?隠蔽を維持しきれなった場合、または質問に答えられなかった場合にお前の額に強めのデコピンぐらいの魔力弾を飛ばす』


『うわぁ…分かったよ…出来るだけやってみるよ…』


『出来なければ痛い思いをするだけだ』


『ねーねーアカメ、そろそろお姉ちゃんって呼んでみる気はない?』


『ないです。今集中してるんで話しかけないでください』


『そんなこと言わずにさ、少しぐらいいいじゃーん』


『れ、レイさんくっつかない、っでぇっ‼』


『隠蔽が乱れたぞ、仕置きだ』


『そんな無体な⁉レイさん離れて!』


『じゃあお姉ちゃんと呼ぶがいい!』


『だ、だから!…いっだい‼』


『仕置きだ』





いやぁ本当に酷かった。というか絶対強めのデコピンなんて威力じゃなかった、ガクンッとなるほどノックバックするデコピンなんてあってたまるか。

 

泣き崩し的にレイさんの事も姉さん呼びすることになってしまったし、散々な二日間だった。

 

だけど、今こうしてこの場に立っているんだ。悪いことばかりじゃない。


「アカメ、こんなとこ立ってどうしたの?」


声に反応し後ろを振り向くと、そこには陽さんがいた。

 

たかだか土日を挟んだだけなのに、酷く懐かしい気持ちになる。


「な、なに?私の顔に何かついてる?…あ、眼鏡変えたの?似合ってるよ」

 

声も発さずじぃっと見続けてしまったせいだろうか、陽さんは居心地が悪そうに顔を少し赤くする。

 

…危ない危ない、帰って来た実感が湧いて少し泣きそうになっていた。

 

僕は泣きそうになるのを抑え、代わりにその嬉しさを笑顔に変えて接する。


「え、何で急にニマニマし始めたの?」


「何でもないよ、チョコレート食べる?」


「ひょっとしなくても今日様子おかしい?貰うけど」

 

こんな笑顔を浮かべている人に対して様子がおかしいなんて失礼なんじゃないかなぁ、まったく。


「いよぉっす二人とも、朝から二人で…え、何でニマニマしてんの?」


「おはよう湊くん、チョコレート食べる?」


「え…あ、おう、貰うけど」

 

僕が湊くんにチョコレートを差し出すと、それが横から掻っ攫われる。


「…アカメのチョコレートは全部私の」


「縄張り意識高めかよ」


「もう、じゃあラムネあげるね」


「お前の鞄はお菓子箱か何かか?」

 

個包装された少し大粒のラムネを代わりに差し出すとそんなことを言われた。

 

失礼な、必要だから入れているというのに。

 

それに他にはシュワシュワする飴とグミしか入っていない。段々暑くなってくるし飴は塩レモン味とかに変えておこうかな。クッキーとか忍ばせてもいいかもしれない。


「そうだ!こうしてる場合じゃねぇ!今日日直なんだよやばい!」


「寝坊したの?走って走って」


「ペアになった人に迷惑かかるよぉ、早く行った行った」


「くぅ…また学校でな!」


湊くんはラムネを口に含みながら走って行ってしまった。朝から元気で大変よろし

い。

 

僕と陽さんはそのまま会話を交わしながら学校へと到着した。

 

…そういえば、いるのかな。

 

僕は周囲をキョロキョロと見渡しあるものを探していたが、校門を右上辺りに…いた。


(悪魔の成り損ない、邪霊…)

 

ベルによると、悪魔になるのも条件がいるそうだ。

 

一つは本人の資質、もう一つは環境である。

 

資質は当人がどれほど魔力に耐性があるのかやその精神性に依存する。環境は死んだ場所に悪魔になるだけのエネルギーがあるかどうかだ。

 

このエネルギー元は世界の意志、これまでの数多散っていった人間の思念が構成しているものだ。普通はこの世界を大いなる流れとして循環しているのだが、その思念が大きいとその死んだ場所に縛られたり物や人に憑いたりする。だから、過去戦争が起きた場所なんかはこのエネルギーが他の場所と比べて高かったりする。

 

それで、この邪霊に関してだが、先程の通り成り損ないである。

 

条件が揃っていなければ悪魔は生まれない。よって悪魔が生まれないとエネルギーは

少しずつ溜まっていくことになる。その結果、思念もといエネルギーが結晶化して邪霊のような存在が生まれるのだ。

 

邪霊が行うこととしては人間への精神干渉が主だ。憤らせやすくしたり邪な考えを持たせたり、基本的に良いことはない。だが、言ってしまえばその程度。通常はこちらを攻撃してくることはない。

 

だが、悪魔に満たない弱い存在だからといって舐めてはいけない。ごく稀に強力な個体が生まれる場合もあるし、生まれてから時間が経てばその分だけ強力になっていく。一定以上力を持つと今度は人間を直接害してくるようになるため、定期的な駆除が必須となる。

 

精霊教会の騎士の仕事として邪霊の掃討が入ってくるのもそれが理由らしい。


「アカメ?何見てるの?」


「あ、あぁいや、何でもない。珍しい鳥がいたんだけど飛んでっちゃった」


「ふーん、そりゃ残念」


ちなみに人間には見えない。よほど強力な個体となるとエネルギーを持ちすぎて可視化されてしまうらしいが、そこまで強力な個体が市街地にのさばることはほとんどない。

 

放っておくのも気が引けるが…今の僕にはあれを倒す手段がない。

 

今の僕には自身の魔力の制御で手一杯であり、まだ攻撃手段なんて教えてもらえる段階にないのである。

 

今は関わらないのが正解だと思い、僕は陽さんを追って教室へと向かった。





お昼、僕は購買に並んでご飯を買おうとしていた。

 

前回のような失敗は犯さず、授業開始のチャイムとともにいち早く向かったのが功を奏して割と早めに買える位置にありつけた。

 

まぁ、魔力隠蔽で寝る暇なんてなかったから前回みたいなのは起こりようがなかっ

たわけだが。

 

僕は自分のパン二つと陽さんが好きそうなクッキーを買った後、教室に戻ろうとすると


(あれ、あの子同じクラスの…)

 

僕の眼線の先には小柄な男の子がいた。

 

その子は入学始めの頃に女の子のような見た目の容姿から学年で少し有名になっていた子だった。

 

ショートカットに整った容姿、小さな体躯、人によっては見惚れてしまうような様相をしている彼が浮かべる表情は、暗い。

 

それに僕は別のところに目がいった。


(…何で邪霊が憑いているんだ)

 

彼の肩辺りに邪霊が居座っている。

 

邪霊は人に悪さをするが、その邪霊も無差別に憑りついているわけではない。

 

世界の意志という名の精神エネルギーが存在するように、人の感情や想いにはある種の力が宿る。そして邪霊の力の源は痛い苦しい辛い等々の基本的にはマイナスに作用するものである。

 

よって、邪霊はそう言った感情を蓄えている人間に憑りつきやすい。それが、最も効率よく自身を強化する手段であると本能のような部分で分かっているかららしい。

 

ちなみに、何故強くなろうとするのかは教えて貰えなかった。いつか分かるようになるとだけ教えられたがどういうことだろうか。

 

余談は置いておいて、問題なのは目の前にいる男の子が邪霊に憑りつかれてしまう程のマイナス感情や想いを溜め込んでいるということである。

 

学校自体が人が多いだけあって感情や想いが渦巻く場所であるため、その分だけ集まりやすく憑かれやすい場所であるが…心配なことには変わりない。

 

それに、あの子の手元。明らかに一人で食べる量ではないパンや飲み物等が握られている。

 

僕は嫌な予感がしたため、良くないとは分かってはいるがバレないようにその子の後をつけることに決めた。


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