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アカメの悪魔  作者: 海蛙
2巻(想定)

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54/97

ss:山羊と茶菓子

「いい匂いがするな」


「あ、ベル様!」

 

私がいつものようにレイ様のためにお菓子を作っているとそこにベル様が訪ねていらっしゃった。

 

いつもベル様は忙しそうにしており屋敷を留守にしていることも多いため、まさかこうしてやってくるとは思っておらず慌ててしまう。


「シアか。済まない、邪魔をしたな」


「い、いえいえそんな!」

 

全力で頭を横に振って否定する。

 

ここはベル様の屋敷であり、私は拾って頂いた側だ。邪魔だなんてそんなことはあり得ない。


「今日は屋敷にいるのですか?」


「あぁ、レイに休めと引き留められてしまってな…」


「ふふっ、そうでしたか」

 

流石のベル様もレイ様相手ではやりにくいらしい。

 

普段は見られない様子もレイ様が絡むと見られるのでちょっと面白く感じてしまう。


「あ、そうです!良かったら焼き立てを食べていかれませんか?」

 

私はせっかくなら食べて貰いたいとベル様に提案をした。

 

レイ様用に作っているものだが、毎回作り過ぎてしまうのだ。

 

いつもなら他の使用人の方々に配っているのだが、ベル様が居るのなら食べて貰いたい。

 

普段碌に恩返しが出来ていないのだ。今こそ少しでも返すチャンスというものだ。


「私が食べて大丈夫なものか?」


「はい!沢山作っておりますので!」


「そうか、なら貰おう」

 

ベル様は厨房に入り、そのまま近くにある椅子に腰を下ろした。


「あ、もっと良い椅子をお持ちしましょうか?」


「いい、これが普段お前たちが見ている景色なのだろう。ならこれが好きだ」

 

そう言うベル様は何処か上機嫌そうであった。


「ではこのまま。今お飲み物を淹れますね、珈琲と紅茶どちらがよろしいでしょうか?」


「そうだな…紅茶を貰えるか?」


「はい、美味しく淹れますね」

 

私はいつもより弾んだ気持ちで紅茶を淹れる。

 

焼き菓子の焼ける音と香ばしい匂い、紅茶の華やかな香りにそれを眼を閉じて楽しむベル様。

 

何だか時間がゆっくりと流れているような気がしてとても居心地が良かった。


「あ、もうそろそろですね」

 

ベル様に紅茶を出して少しお喋りした頃、時計を見て頃合いだと思った私は竈の前にトコトコ走って行く。


「……うん!上手く出来てる」


「凄いなシア。こんなに綺麗に出来るものなのか」

 

後ろから覗くベル様に褒められて私も鼻が高いです。

 

ミトンをしてクッキーを取り出し、一つずつお皿に盛っていく。

 

ある程度レイ様用のクッキーをとっておき、残りはベル様に差し出す。


「どうぞ、ベル様」


「…いい香りだ」

 

ベル様はプレーンのクッキーを一枚手に取り、香りを確かめて眼を細める。

 

そのまま口に運び、サクサクと小気味の良い音を立てて食べてホッとほっと一息ついた。


「屋敷の管理も任せているのにレイにこんな良いものまで作ってくれているのか。とても嬉しく思うが、私から何も返せていないと思うと申し訳なくなってくるな」


「そ、そんなことありません‼」

 

思わず机に手をどんっとつきながら抗議してしまう。


「べ、ベル様は私達にとても良くして下さっております!それは使用人一同思っていることです!寧ろ私達の方が日頃何も返せていないと苦心する毎日でっ!だから、えっと…そのっ…」

 

段々と言葉がまとまらなくなり、言葉に詰まる私の頭をベル様が優しく撫でる。


「すまない、そんな風に考えてくれていたのだな。失言を詫びよう」


「……そんな、ベル様は何も悪く…」


「しかしあれだな。主従揃って同じことを考えていたとは、我々は似た者同士なのかもしれぬな」


「似た者同士…」

 

そう言われただけで嬉しくなって露骨に顔が明るくなるのを感じ、我ながら単純であると心の中で苦笑する。


「そうかもしれませんね!いいことです!」


「そうか、良いことか。私も嬉しく思うぞ」


「はい!ありがとうございます!」

 

にへへぇ、と笑う私の頭をもう二、三度撫でたベル様は時計を確認して立ち上がる。


「そろそろ用事だ」


「どこかに出かけるのですか?」


「いや、訓練場だ。たまにはアカメを鍛えてやろうと思ってな」

 

アカメくん、最近この屋敷でアルマに鍛えて貰っているあの子か。

 

ベル様の命令であの子が見つけ出すまで会ってはならないことになっているけれど、どんな子なんだろうか。


「気になるか?」


「え、いや…はい、少し」

 

正直に答えるとベル様は少し考えるような素振りを見せ、そして意地悪な笑みを浮かべた。


「アカメの成長は目覚しい。見つかるのはまだ先のことだと考えていては足を掬われるぞ?」

 

そしてベル様はせっかくだからと何枚かクッキーを包んで懐にしまい、お礼を言って立ち去って行った。

 

アカメくんはまだ悪魔になって一か月ぐらいだったよね?

 

いやいやまさかまさか……会うのはまだ先の話でしょう。

 

見つかってしまう日はもう目の前まで来ていることを知らないこの時の私は暢気に洗い物を始めるのだった。


たまにはこういうのも投稿していきたい。

何だか心がポカポカするもの。

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