46話 時間稼ぎ
「悪魔狩りどうする!動けるのか⁉」
弘人くんが未だ修復の終わらない僕に考えがあるのか聞いてくるが、正直良いものではない。
かなりリスキーであるが、現状取れる手段がもうない。
正直あまり気は進まないが…これしかないな。
「お前たち、交代だ」
「こ、後退?でも下がる場所なんて…」
「こんな時にふざけている場合か、代われという意味だ」
いまいち要領を得ない弘人くんと京香さんが首を傾げる。
「私が邪霊を受け持つ、お前たちがあの人型の相手をしろ」
「な!そんな急に!」
弘人くんが弱気な発言をする。
だが、残念ながら僕も怪我の修復が追い付かない。
これしかないんだよ。
「勿論怪我の修復が終わるまでだ。終われば一瞬で片を付けてやろう」
「それは約束できるの?」
京香さんは僕を見据え、そう尋ねてくる。
その目は敵意に満ちたものではなく、仲間に対して問うような真摯なものであった。
それを受け、僕はベルのような尊大な態度を以って応える。
「無論だ。無理ならこの首でもなんでも持っていくがいい」
「無理なら皆死ぬだけよ。でも、分かったわ」
京香さんはそれだけ言って前に出る。
変わった…そう断定するのは早いかもしれないが、この土壇場で素直に受け入れてくれるのはありがたい。
「…悪魔狩り、この場を頼んだぞ」
「任された」
弘人くんも苦しい顔をしていたが、決意を固めて前に出る。
二人ともいい騎士になるのだろうな…と場違いにもそんなことを考えてしまう。
さて、僕は僕の仕事をしよう。そう考え、迫りくる邪霊を倒しながら虎視眈々と機会を伺った。
・・・
悪魔狩りが大分傷を負わせているはずなのに威圧感に気圧されてしまいそうになる。
弘人と共に立ち、剣を構えて対峙する私、新藤京香は悪魔狩りの言葉を反芻していた。
本当に…本当に気に食わないけれど、あいつの言っていることは真実だったのかもしれない。
今までずっと、悪魔は絶対の悪であると自分に言い聞かせて、視野を狭めて戦ってきた。
悪魔を絶対に滅ぼすというその想いは覚悟の様で、ただ過去から逃げていただけだったのかもしれない。
周囲の声を無視し、先生の声から耳を塞ぎ、孤児院からずっと一緒だった弘人の声にすらいつの日からか耳を貸さなくなった。
今思えばそれが楽だったから、盲目的に悪魔を追っていれば何も考えないでよかった。
だが、あの悪魔狩りに会ったことでそれは打ち砕かれてしまった。
勿論、悪魔は危険であるという思想は変わらない。あいつらはクソだ。
だがあの悪魔は…何処か違う、ような気がする。先生や弘人があの日感じたように。
私は変わらなければならない。私を生きていくために、時間がかかったとしても。
「…弘人、戦えそう?」
「京香が居るなら心強いよ。悪魔狩りにはさっさと復活して欲しいものだけれど」
微妙な笑顔を浮かべながらもそう宣う幼馴染に思わず笑みを零した。
こうして笑うのもいつ以来だろうか。本当に視野が狭くなっていたようだ。
人型が咆哮をあげる。どうやら私たちを敵とみなしてくれたらしい。
「行くよ…!」
「いつでも!」
「ガァァア!」
突進してくる人型を弘人が前に出て迎え撃つ。
「ガァ!」
「ぐッ‼マジ、かっ!」
弘人は攻撃を受け止めようとしたが力負けをして大きく吹っ飛ばされた。
だから悪魔狩りは避けと受け流しに徹していたのかと理解する。
力では向こうの方が上、ならこちらは技術でその差を埋める。
弘人が体勢を整えるまで私が人型のヘイトを稼ぐ。
出来る限りの技能を以って人型の放つ攻撃を回避する。
最初の一撃だけ捌こうとしたが一撃受けただけで手が痺れた。
連続で受ければきっと長くは持たないという判断に至り、何とか回避で場を持続させる。
「京香!助かった!」
弘人が後ろから人型を斬り付けながら合流する。
すぐに修復されるが、今の人型にとってはその魔力消費すら有効な一撃に成り得る。
今度は弘人がヘイトを買い、私が死角から攻撃に転じる。
そして私が狙われたら…と決して主導権を明け渡さない戦い方を展開する。
訓練兵の段階で基本的な戦闘の考え方、特に弱い悪魔や邪霊は群れるので多対多の戦い方を教わるが、護先生からは一対多、多対一、一対一の戦い方も仕込まれている。
どういう状況になるか分からないからと稽古をつけてくれた先生のおかげで今この場で戦えている。感謝しかない。
そういえば、あの悪魔狩りと先生が少々重なって見えたような気がしなくもないが…ないな。そもそも悪魔と先生を比べること自体が先生に失礼だ。
「ガァァア!」
人型が突然行動パターンを変え、突撃してくる。
だが、その動きは単調なもの。避けるのは容易い。
「甘いッ!」
「ガッ!」
すると不意に人型の態勢が崩れた。
チャンスだ、攻撃が通る。
そう思ったのがいけなかった。
「ガァァァア!」
「ッ!う、がはッ!」
人型は突然態勢を変え、攻撃をしようと隙を晒した私の腹部に振り被った拳をめり込ませた。
誘いこまれた、直観的に理解したがもう遅い。
堪らず吹っ飛ばされ、あまりの痛みにうずくまる。
「ッゲホ!ゲホッ!」
「京香ッ!」
弘人が私の様子に慌て、動きの読みやすい単調な攻撃を人型に向ける。
だが、そんなものに当たるわけもなく。
「ガァ!」
「ぐっ!ゲホッゲホッ!」
剣を弾き飛ばされ、私と同じ方向に吹き飛ばされた。
「京香ッ!弘人ッ!」
桜さんの悲鳴にも似た声が聞こえるが、それに応えるだけの余裕はもうない。
二人とも満身創痍…たった数秒の出来事であったが、それだけで詰みであった。
「…京香ッ!だい、じょ、ぶか…!」
「ひろ、と…!」
弘人が私を庇うように覆いかぶさり、人型を睨みつける。
だが、そんな様子も愉快だとばかりに人型は下卑た嗤いを向けてきた。
拳が振り被られる。魔力が集まっていくのが分かる。
…ここまでか。
「よく耐えた、お前たち」
頼もしい声が聞こえ、項垂れた顔をあげた時、闇を押し固めたような漆黒の刃が人型の胸部を後ろから貫いているのが見えた。




