44話 仲間割れ
危なかった…もう少し遅ければ死人が出ていたかもしれない。
邪霊を掃討しながら僕こと柊アカメはそんなことを考えて冷や汗を流す。
この深淵の条件はとりあえず
①内から外には出られないこと
②下級の狂暴化した邪霊を生み出し続けること
ということは分かった。
そして通常の場合、深淵の使用者の存在によって能力の発動が行われている。
僕は中心に座す毛色の違う人型の邪霊を見据える。
かなり不気味な雰囲気を放っている。深淵を形成できるような邪霊は全員こうなのか?
恐らくだが、あいつを討伐しない限りこの深淵は解けないだろう。
まだ魔力に余裕はあるが、先程の広範囲殲滅攻撃で大分魔力を持っていかれた。
新しい闇影の理の使い方を考えている時に作った技だけど、リヒトさん曰く「雑魚にしか効かない技だね。話にならない」とのことだ。
そりゃ、貴方達にはそうでしょうけど…まぁこうして日の目を浴びて良かった技である。
欠点としては燃費がすこぶる悪いこと。
深淵内は利用できそうな影もなく、自分の服を広げて作った影から攻撃を伸ばしたのでさらに効率が悪い。
出来ることなら長期戦は避けたいが…。
僕はちらりと弘人くん達の方を見た。
陽さんが驚いたように口をパクパクさせている。
……よかった、無事だったんだね。
他の生徒もちらほら血を流している子は居るが死人はいないらしい。
弘人くん達が邪霊の手から守ってくれているし、僕も少しずつ相手をしながらならあの人型を……。
そう考えていた矢先、後ろから殺意が飛ばされ反射的に避けるように跳んだ。
その後すぐに、僕のいた場所を光の斬撃が通り過ぎる。
「京香ッ!何をやっているんだ⁉」
どうやら京香さんが僕に攻撃を放ったらしい。
ちらりと様子を確認したがどうやらそのようで、興奮したように僕を睨んでいる。
「何をやっているかですって⁉悪魔の討伐よ!」
「あの悪魔狩りが僕らを助けてくれている状況だぞ!何故そんなことをするんだ!」
「悪魔に助けて貰うくらいなら死んだ方がマシよ!」
あまりに思慮が浅く、視野が狭い発言に露骨に顔をしかめてしまう。
馬鹿なのか…状況が見えていないのか……?
「おい、そこの男。その女をどうにかしろ」
「ま、待ってくれ悪魔狩り。そもそも君の目的は…」
「助けて貰っている分際で随分と図々しいな。いいから何とかしろ」
「図々しいのはアンタよ!悪魔の分際でよくもまぁ顔を出せたわね‼討伐してやるッ!」
「待て京香!落ち着け!」
弘人くんは僕と京香さんに板挟みにされてとても苦しそうである。
だが、京香さんの御守は僕の仕事ではない。
仮に悪魔である僕が言っても聞かないであろうし、この場合は弘人くんが何とかするしかない。
過去に何があったのかは知らないが、ここで成長できなければ死ぬだけだ。
僕は人型への攻撃プランを一旦捨て、周囲の邪霊を殲滅しながら後ろから飛んでくる味方撃ちを避け続ける。
いや、京香さんにとっては僕も敵か。
「あいつッまたッ!」
「京香!いい加減にしろ!」
いくら言っても攻撃の手を止めない京香に弘人は我慢ならないとばかりに手を掴む。
「離して!」
「離したら共闘する気になるのか!」
「あいつは殺す!人類の敵!」
あまりに折れない思想に弘人は露骨に顔をしかめた。
「……今一度考えろ。悪魔狩りに協力して貰わなければ俺たち含めここに居る人間は全員死ぬんだぞ」
「ッ……でも!」
京香は弘人の手を振り払い、その狭窄した視野と思考のまま今度は斬撃だけでなくアカメに斬りかかる。
「ッお前!」
「死ねッ!死ねぇッ!」
アカメも流石にこの展開は予想しておらず、邪霊の相手を止めて何とか傷つけぬように京香の相手をする。
それが出来るぐらいの実力差があるのだ、それすら分からず斬りかかってくるとは…。
かつての情けない、視野が狭まり切った自分の姿が重なり嫌気が差す。
僕は、仕方がない…と今一度広範囲殲滅を行い邪霊のほとんどを一掃する。
そして大きく後退し、弘人の近くに着地する。
「少しの間邪霊の相手を頼む」
「何を…」
「すぐに終わる」
「悪魔ァ!」
僕は向かってくる京香さんの剣を白刃取りし、そのまま地面に投げ捨てる。
なお向かってこようと拳を振り上げる京香さんの首を鷲掴みにし、持ち上げ宙吊りにした。
「何やって…!」
「黙っていろ」
抗議の声をあげようとする弘人くんを黙らせ、抵抗し続ける京香さんを見据える。
「いい加減にしろ馬鹿が。お前の下らぬ意志一つでどれだけの人間を危険に晒すつもりだ」
「ふざっ…けんなッ!悪魔風情に私の何が分かる!」
「知るか馬鹿が」
普段なら出ないような言葉も、この状態ならばスラスラ出てくる。
ベルのことを無意識に真似ていたようだけど、口の悪さまで移ったかな。
僕は怒っている。周囲を顧みないそのあまりの身勝手さに。
本当ならさっさと気絶させて弘人くんと共闘した方が楽なのだが、万全を期すためには京香さんの力もいる。
だから、今ここで変わって貰う。
「お前にどんな過去があろうが知ったことではない。好きに何かを志すのも結構だ。だがな、今その我儘で多くの人間が危機に瀕しているということを忘れるな」
「危機は目の前にいるお前だろう!どうせお前も私たちを殺す気なんだろう⁉そうに決まっている!いつだってお前らは!」
「対話をしようじゃないか。そうやって力で周囲の意見を振り切ろうとするな。今までもそうやって生きてきたのか?そこの男の意見もそうやって無視してきたのか?」
「だ、黙れ!」
「こうして力ずくで否が応でも話を聞かされるのは初めてか?お前の未熟さに振り回される周りも大変だな」
「黙れぇぇえ‼」
京香さんは力ずくで振りほどこうとするが僕はそれを許さない。
「怖いのだろう?今までそう信じてきたから、それを支えに生きてきたから。違うかもしれないと思うのが怖いのだろう?悪魔は敵であり、打ち倒すべき悪であると、その信念が揺らぎそうで怖いのだろう?」
「うるさい、もういい黙れよ…!」
「黙るものか、甘ったれるのもいい加減にしろ。今すぐ天秤にかけろ、お前の下らぬ信念か、この場を全員で無事に切り抜けるかをだ。心に問え、覚悟を見せろ」
「ッ~~!」
持ち上げるように上げていた手を引き寄せ、京香さんの額に僕の仮面を当てて瞳を覗かせる。
「今まで作り上げてきた盲目の価値観などではなく今のお前自身が判断しろ!今目の前にいる悪魔はこれまで見てきたような悪魔か!お前らを害しようとする悪か!」
そこまで言って僕は京香さんを地面に放る。
京香さんは深く項垂れているが、それに構うほど余裕があるわけでもない。
弘人くんが何とか抑えてくれているが邪霊の数は今もなお増え続けている。
ここで変われなければそれまでだ。僕は変われたぞ、君はどうするんだ。
項垂れる京香さんをその場に置き、弘人くんが戦う前線へと戻った。




