38話 vs.弘人
ネットを挟み、僕と弘人くんが相対する。
「上谷さんの仇は取らせてもらうよ」
「僕も、湊くんの仇は取らせてもらう」
「あれは正直、本当にすまないと思っている」
そう思うなら途中で止めて欲しかったよ、今でも端っこの方でへばっているのに。
さて…その歳で騎士になる人間の素の状態での実力、どの程度か見せて貰おうか。
周囲では皆が声援を送ってくれている。不格好な真似は出来ない。
弘人くんのサーブから始まり、まずはどう来るのかと軽めに返す。
(さて、どうっ⁉)
弘人くんはこちらの打ち出すタイミングで突然前に走り出し、自コートに入った瞬間に最速で打ち返してきた。
ギリギリ反応自体は出来たものの、フレームの部分を掠めてこちらのコートに落下する。
「眼、いいんだね。まさか反応してくるとは」
「…いきなりやってくれるね」
「遊びだからって最初油断している人多いからさ、意外とこれ刺さるよ」
弘人くんは意地の悪い笑みを浮かべてくる。
この野郎…やってくれる。
もう油断はしないと気を引き締め、弘人くんの攻撃を迎え撃つ。
どちらも探りつつ、かつ攻撃の機会を虎視眈々と狙っているようなそんな状態。
…あれ、これって。
弘人くんの打ったシャトルが高く上がる。
それに合わせてスマッシュを打とうとジャンプをした。
弘人くんはこちらの動きを見逃さぬようジッと観察している。
でも、これでどうかな。
「っな!」
弘人くんは僕が打った方向とは別の方向にラケットを出している。
やったことは単純、フェイントを入れただけ。
弘人くんはあぁ言っていたが、所詮はお遊びと高を括っていたな?
これは対人戦の駆け引きだ。命のやり取りをしているときと似通っている部分はある。
あんなに注意深く馬鹿正直に見られてはフェイントしたくなっちゃっても仕方ない。
「目、良いんだね。まさか動きの機微まで見られているとは」
「……やってくれるね。見くびっていたよ」
弘人くんは悔しそうでありながら好戦的な目で僕を見据える。
対して、僕はどんな表情をしているだろうか。
きっと、ベルやアルマくんが時々浮かべていたような意地の悪い笑みをしているに違いない。
そこからはお互いに油断も驕りもなかった。
今の状況で出せる全力を尽くして打ち合い、そして読み合った。
現在の状況は四対四、もうサーブを打ち出せば決着は訪れる。
一呼吸吐いてから僕は打ち出した。
すると弘人くんはシャトルを高く上げてきた。
…打って来いってことか、上等だね。
僕はスマッシュを振り抜くが当然見切って返してくる。
今度はネット近くに落ちるような優しい打ち方。
すぐに距離を詰めて逆に弘人くんの後方に高く打ち出した。
打ち出す方向を予測しながら、フェイントに引っかからないように注意深く観察する。
そして弘人くんがスマッシュを打ち出すと同時に走り出す。
ここだ!……あれ?シャトルの軌道が…おかし…ッ!
コートの奥目に打ち出すショットかと思ったら、急激にネット近くに落ちるような変化球を打って来た。
そういうのも出来るのかよ⁉
すぐに踵を返し、何とか拾い上げる。
だが隙は出来てしまう。
そこを見逃されるはずもなく、ダメ押しの奥目に届くスマッシュを打たれる。
コートギリギリで入るように打ち出されたショットを全力で走って打ち返す。
すると今度はまたネット近く、走らせて体力を消耗させる気か。
そうはさせるかと今度は僕がコートの奥目に届くように高くあげる。
スマッシュを打たれるが、逆に今度はネット近くに落ちるように打ち出す。
だがそれも読まれていたらしく、こちらのコートの奥目に届くように高く返される。
「たの…し…」
無意識の内に口から零れた。
こんなに全力でスポーツをして遊んだのなんていつ以来だろう。
弘人くんの方も無意識かどうかは知らないが好戦的な笑みを浮かべている。
まだまだ続けばいいのに、と思いながらスマッシュを打つが、突然終わりは訪れた。
バチンッという音とともにシャトルがあらぬ方向へと飛んでいく。
「は?」
何が起こったのか分からず一瞬固まるが手元をみてすぐに理解した。
ガットが切れてしまっていた。
そんな、まだ決着が……。
僕と弘人くんがお互いを見合わせて叫ぶのは同時だった。
「「もう一回ッ‼」」
こんな結末で終わってたまるか……。まだ、もっと……。
すると、何処からともなく拍手が飛んでくる。
「すげぇな坊主ども!よくやったよ!」
「なぁ!年甲斐にもなく声張って応援しちまったぜ!」
「お兄ちゃんたちかっこいー!」
始めは陽さん達しか見ていなかったが、いつの間にかこんなに囲まれていたらしい。
急に気恥ずかしくなって弘人くんの方を見る。
同じ感想だったのか、二人揃ってそそくさとコートから退出した。
そしてスタッフの方に壊してしまったことを一緒に謝罪しに行くと
「いいのいいのどうせ消耗品だし!君らのおかげで盛り上がったよ!いいもん見せてくれてありがとな!」
気恥ずかしいことこの上ないが、そう言ってもらえるとありがたい。
皆のところへ戻ると陽さんと上谷さんが言い合いをしていた。
「あれはアカメが勝ってた!もう勝ちの流れだった!」
「途中までは弘人が優勢でした!実質弘人の勝ちです!」
頼むからやめてくれ……。
僕と弘人くんはまるで示し合わせたかのように自分の勝ちを主張する人を押していき、その場から立ち去ったのであった。
「あっつぅ…」
「だなぁ…」
僕と弘人くんはベンチに腰掛けながらアイスを齧っていた。
終わってみれば私服にも関わらず汗でぐっしゃぐしゃだったので手頃な値段の服屋によって僕は白、弘人くんは黒のTシャツを買って着替えた。
動く気力もなく、他の皆で回って貰っている間に僕たちはお互いにアイスを奢り合ってここで食べているというわけだ。
「まさかあんなに見られるとは…」
「やり辛いったらありゃしない…」
「自分たちの遊びやっててよぉ…」
「それなぁ…」
二人でこうは言っているが、別に見られたこと自体に不満があるわけじゃない。
いやそれが原因で果たせなかったのだが、ただ純粋に…
「「最後までやりたかった…」」
同じことを考えてまさかの同じタイミング言ったという奇跡が起き、思わず二人で吹き出してしまう。
「……またどっかで決着つけような」
「うん、約束ね。逃げちゃダメだよ?」
「そのままそっくりお返しするよ」
弘人くんは好戦的な笑みを浮かべ、残りのアイスを一息で食べてしまう。
そして少し頭が痛そうにしているのを見て、僕はまた少し笑うのであった。
スポーツ知識なくて苦手…ユルシテ…




