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アカメの悪魔  作者: 海蛙
2巻(想定)

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35話 経験

「……報告は以上になります」

 

支部隊長が渡した報告書に目を通しながらぼりぼりと頭を掻いている。

 

悪魔狩りを取り逃した後、俺こと木下護は一連の流れを上司に報告しているというわけだ。

 

まさか弘人や京香の初めての実践投入にこんなことになるとは…あいつらが不憫である。

 

報告書に目を通し終わった支部隊長は顔をあげて俺を見据える。


「……それで、どうだった」


「どう、とは?」

 

質問が開かれ過ぎて意味を計りかねたため、質問で返す形になる。


「お前が戦った率直な感想だ。赤い眼の悪魔など早々出会えるものではない」

 

赤い眼の悪魔は通常よりも強力な個体である確率が高い。

 

過去の報告書を見ても精霊教会に甚大な被害を与えた悪魔は赤い眼を持っていることが多い。

 

だが、今回のは…


「……率直に言って、あまり強くはありませんでした」


「そうか、なら殺せなかったのは後からやって来た悪魔が原因か?」


「報告書にある通り、狼の仮面を被った悪魔が原因ですね。そっちとは正直二度と会いたくありません」

 

初期装備とはいえ、たった一撃で武器をお釈迦にされた。

 

そして体感だが、まだまだ手加減されてあれだ。

 

俺の実力であんなのと戦おうとすれば命がいくらあっても足りない。

 

そして、これも感覚の話だが……


「…その髑髏の仮面を被った赤い眼の悪魔、あんまり悪い奴じゃなさそうだったんですよねぇ……」


「…ふむ」

 

支部隊長は今一度報告書に目を落とす。


「被害に遭った第三部隊は無力化するように腱を断ち切られていた以外は目立った外傷はない、とあるな。確かに、殺そうと思えばいつでも殺せる状況だ」


「ですよね。もしかしたら」


「護」


支部隊長の目が厳しいものに変わる。


「可能性がないとは言わない。だが、その可能性を探るために多くの民の命を賭けるつもりか?悪魔とは分かり合えない、これは長い歴史が証明してきた事実だ」


「…分かってますよ。そこまで馬鹿に見えます?」

 

あまりに見え透いた嘘に支部隊長は抑えきれないとでも言うかのようにため息をつく。


「……しっかりしろよ?家族を守るんだろ?」


「その通りですよ!というわけで家族に会いたいので失礼します!」


「あ、待ておい!」

 

支部隊長の制止を振り切り、俺は部屋を退出した。

 

説教モードに入ると長いんだ…うやむやにするのが一番一番。

 

俺はそのまま弘人と京香が待機する部屋に向かった。


「あ、先生!」

 

部屋に入ると二人が立ち上がって敬礼をする。

 

どうも慣れんなぁホント…。


「…敬礼に関しては規則の面もあるから受け入れるが、その先生って呼び方はどうにかならんのか?」


「では師匠で!」


「……では、っていうならもっと砕けて欲しいもんだぜ」


この二人の指導は俺が行ってきたため、先生なんて呼ばれる始末になってしまった。

 

二人とも訳アリであり、俺が安心できる存在にならねばと毎日苦心しているのだが…どうも上手く行かない。

 

俺たち兄弟全員の心を懐柔したおばさんの手腕にはいつ考えても平服する思いである。


「まぁ、いいか…。それよりもだ。初の実践投入どうだった?」

 

二人は表情を固くする。

 

これまでにも二人は現場を見せてきたことはある。

 

だが、自分たちが主体となって邪霊や悪魔との戦闘を行うのは今回が初めてだった。

 

京香が挙手をする。

「お、京香。どう思った?」


「率直に、やはり悪魔は危険な存在だと感じました。こちらを認識するなりその人間離れした力でこちらを殺してこようとする。邪霊に関しても同じですが、流石は悪の化身といったところでしょうか。一刻も早く力をつけて悪魔を根絶やしにしたいです」

 

毅然とした態度でそう宣言する京香に思わず苦笑してしまう。

 

過去を考えればそんな結論になるのも無理はないとは思うが…少し過激過ぎるのと、それが先行し過ぎて視野狭窄になるのは今後の課題になると考えた。


「弘人は?どう感じた?」

 

俺は視線を下げて考え込んでいた弘人に話を振る。

 

弘人は思慮が深く冷静だ。おまけにここぞという時の度胸もある。

 

そんな人間からどんな反応が飛んでくるのかがとても興味があった。


「……先生、悪魔とは何なのでしょうか」

 

少し溜めた末、第一声にそんなことを言われる。

 

まさかそんな質問をされるとは思っていなかったので少々面を食らった。


「何でそんな質問を?」


「……途中まで京香と同じ意見でした。悪魔はやはり危険な存在であると。ですが…あの髑髏の仮面の悪魔を見てから分からなくなりました」

 

話を聞いていた京香が我慢ならないと立ち上がる。


「ちょっと弘人どういう意味よ!髑髏の悪魔なんて今日会った中で一番危険だったじゃない!それにあの赤い眼よ!悪魔の象徴のようなものを見て何でそんなことになるのよ!」


「京香、落ち着け」


「ですがッ!」


「落ち着け、そう言ってる」

 

京香を落ち着かせるように諭してから座るよう促す。

 

不服そうではあるが、俺は弘人の話に興味があるため申し訳ないが黙ってもらう。


「すまんな弘人。何故分からなくなったんだ?」


「…それまでにあった悪魔は皆どこか憑りつかれたような、獣のような目をしていました。ですがあの髑髏の悪魔は…とても理性的な眼をしていた。

赤い眼を見た時確かに僕も恐怖しましたが、それ以上にあの理知的な眼が頭から離れません。

先に襲われていた部隊も無力化するための最低限しか傷ついていなかった。あの悪魔はどこか違う」

 

それは、俺が抱いたものと同じ印象であった。

 

それに後から駆け付けてきたあの狼の仮面の悪魔もこちらを瞬殺できるような実力があるのにも関わらず殺さなかった。


あの髑髏の悪魔含め、俺たちが見てきた悪魔とは違うような悪魔が存在するのかもしれない。

 

弘人が下げていた視線を俺に向ける。

 

その表情には明確な迷いのようなものがあった。


「先生、悪魔とは何なのでしょうか?あいつは…何なのですか?」

 

俺は一拍考えるようにして息を吐く。


「…残念ながら俺はお前が望む答えを持っていない。俺だってあんな悪魔に会うのは初めてだからな」


「そう、ですか……」

 

弘人が落ち込み項垂れる。

 

俺はその様子を見てから席を立って部屋を出ようとする。


「でも、どうしても確かめたいのなら…」

 

去り際、少しは役に立つかもしれないと思い口を開く。


「戦い続けるしかないな。あの悪魔と対話できるその時まで。それが出来るようになるぐらいまで強くなれ。……あ、今日はもう解散でいいから。お疲れさん」

 

それだけ言い残して部屋を出た。

 

残された二人の反応はそれぞれであった。

 

京香は悪魔に肩入れしようとしている仲間に侮蔑の視線を向け、弘人は己の使命感のようなものに突き動かされ決意を固めるのだった。


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