33話 耐えかねた心
「…これで…何人目だ?…まぁいいか…」
雨が降り頻る夜、僕は屋敷には行かずに淡々と悪魔どもを狩っていた。
どうせ行ってもリヒトさんに同じことを命令されるだけだし、ならもう行かなくてもいいじゃないか。
心を殺して悪魔を殺す…もう何人葬ったかも分からない…。
だってしょうがないだろう…僕がやらなきゃ犠牲になるのは罪のない誰かかもしれない…。
「僕が…やらなきゃ…」
その場から飛び去り次の標的を探そうと動き出したとき、光の刃のようなものが僕の足を切り裂いた。
「ッ⁉」
飛び上がった直後だったため地面に落される。
何だ…何が…。
「…こちら第三部隊、恐らく例の悪魔狩りと思われる悪魔と遭遇。戦闘を開始する。出来れば応援を呼んで欲しい」
眼を向ければ、そこには三人一組でチームを組む精霊教会の騎士が僕に武器を向けていた。
あぁ…そうか…。
こうなるか…。
「……私は貴方達と交戦する気はない」
リヒトさんのアドバイスで僕が柊アカメである可能性から遠ざけるために悪魔として活動する時は口調を変えている。
だが、聞く耳を持って貰えない。
「黙れ悪魔が。同族すら殺しの対象とするお前らに私たちの気持ちなど分かるまい」
随分好き勝手言ってくれるな…。誰のせいで…。
僕の意志に関わらず戦闘が始まる。
だが、一兵卒ごときに今の僕に攻撃を当てることは出来ない。
今までどれだけお前らの連携の動きを見てきたと思っている。
それに周囲は暗闇で満たされている、万に一つも負ける要因はない。
「こ、こいつ強いぞ!」
「後衛!砲撃しろ!」
前衛だけの戦闘では埒が明かないと思ったのか、準備が整った後衛が僕に弾幕をばら撒く。
だけど、知ってるよそれも。
一定のチャージが必要なことも射撃の間隔も、そしてエネルギー消費が激しく長くは打ち続けられないことも。
所詮一兵卒が持っている簡易型装備なんてどれも同じ性能だ。
腕前も皆似通っている。対処は容易い。
やがて弾幕が終わり、僕が無傷のまま立っていることを確認すると絶望の表情を浮かべる。
「な…化け物が…」
「もう終わりでいいよね」
僕は闇から創り出した槍で死角から全員の腱を断ち切る。
痛みに悶えながら崩れ落ちるが再生の兆しはない。
本物の精霊が宿る道具には悪魔同様再生の効果もあるようだが、一兵卒ごときの装備にそんな能力は備わっていない。
僕がその場を立ち去ろうとすると騎士の一人が僕を悔しそうに睨みつけながら吠える。
「殺すなら殺せッ!この化け物が!お前らみたいな奴にから罪なき人々を守るのが我々の仕事だ!決して屈しはしないッ!」
そうだそうだ!口々に目を滾らせて吠える騎士ども。
そんな姿と言葉を受けて、僕の中で何かがキレた。
「……守る?お前らが?」
飛び去ろうとした足を戻し、ゆっくりと騎士に近づいていく。
砲撃や斬撃が飛んでくるが、そんなものは全て弾き消した。
やがて、一番最初に吠えた騎士の前までたどり着いた。
「……れてないだろ」
「なんてッ⁉」
騎士の胸倉を思いっきり掴み上げ、宙吊りにする。
「守れてッないだろうが‼」
あまりの迫力に騎士は怯えたような表情をするが、僕には関係ない。
「何回同じような判断ミスで仲間を危険に晒した⁉何回危険な悪魔を取り逃がした⁉何が守るだ⁉口だけも大概にしろよ‼」
一度決壊した心は留まることを知らず、これまで積み重ね続けてきた怒りが濁流の如く流れ出る。
それは…ただの八つ当たりであった。
「お前らが不甲斐ないせいでッ何回僕がッ…何で殺さなきゃいけないんだ⁉お前らの仕事なんだろう!だったら責任もって真っ当しろよ!」
「ご、ごめ、な、さ…」
「何が化け物だ!お前らの方がよっぽど化け物だろう‼何で顔色一つ変えないどころか悪魔を殺して喜べるんだ⁉異界からきた化け物だとでも習ったか⁉悪魔だろうが相手は人間なんだぞ⁉」
叫びながら、これまで屠ってきた悪魔が思い返される。
好きで殺した奴なんて一人だっていない。
確かに殺した方がいいと思える奴らばかりだった。
だけど、それと実際に殺すかどうかはまた別の話。
アカメは…この世界が綺麗とは思えなくなっていた。
「教えてくれよ…何でお前らは」
「俺が代わりに教えてやるよ」
何処か聞き馴染みのある声が聞こえた。その瞬間、訳も分からず壁に吹き飛ばされ、突き破ってさらにその奥の壁に叩きつけられた。
アカメに胸倉を掴まれていた騎士は力なくへたり込む。
「ま、護中隊長…申し訳ありません。やられてしまいました…」
「いいんだよ、よく耐えた。…あとは任せろ」
…増援か、怒りに任せていつまでも留まった罰か。
吹き飛ばされた感覚的に一筋縄ではいかない実力だ。
あの一瞬で掴んでいた指を切り落とされて、あの騎士に負担が掛からないようにしてから蹴り飛ばされた。
面倒な…そう思いながら欠損した指を再生し、僕は建物内に侵入してくる新たな敵を見据えた。が…
「おい悪魔、元気か?聞きたいことがあるなら俺が聞くぜ」
「………は?」
あまりの衝撃に放心してしまう。
そこに居たのは…護兄さんだった。




