31話 僕がやれば
「リヒトさんとの訓練内容を見せて欲しい?」
「あぁ」
アルマくんとの訓練日、アルマくんはそんなことを言ってきた。
「…アルマくんが見ても初歩過ぎて参考にならないと思うよ?」
「自惚れるな当たり前だろ。そんなことは分かっている」
そこまで言わなくてもいいじゃないか…。
意図は分からないが、実践でどこまでやれるようになっているかのチェックってところなのかな?
僕はアルマくんの指示通りにリヒトさんとの訓練の再現を行うことにした。
屋敷のあるスローンを抜け、市街地に飛び出して目的の場所辺りに向かう。
当然のように涼しい顔をして後を着いてこられたので若干複雑な気持ちである。
大まかにこの辺りだと思うところに着くと魔力隠蔽を用いて気配を消す。
アルマくんもそれに習って気配を消した。どうやら本当に訓練内容を見るだけで手を出す気はないようだ。
僕は周囲を探りながら慎重に移動し、目的のものを見つけて止まる。
「いた…」
「何が…」
アルマくんも僕の視線を追って目的が何か分かったらしい。
精霊教会の騎士と邪霊・悪魔の戦闘。
毎晩毎晩、人知れず騎士と悪魔達は戦闘を繰り返しているのだ。
現在見ているのは騎士と邪霊の戦闘。
注意深く観察し、程なくして騎士側が勝利を収めると移動を開始する。
「次行くよ」
「…あぁ」
観察をしては終わり次第移動する、というのを二回ほど繰り返しただろうか。
三回目の観察中においてそれは起きる。
騎士が悪魔を一匹取り逃してしまったのだ。
「……行くよ」
アルマくんは黙って追従してくる。
僕はこの辺りだろうと目星をつけて向かうと、そこには手負いの悪魔がいた。
「……ッお前は!」
僕の姿を捉えると同時に悪魔は戦闘体勢を取る。こういうことも増えてきた。
仮面の奥の瞳に冷たい殺意を満たし、ナイフを携えて戦闘を開始する。
相手は修復も間に合っていない手負い、周囲は暗闇に満ちている。
勝負はもう分かっていた。
ナイフと体術で相手とわざと膠着状態になるよう抑え込み、後ろから闇から創り出した無骨な槍で心臓を一刺しでとどめを刺す。
「が、がはっ…」
「…悪く思うな」
倒れ伏す悪魔を僕は感情を殺した眼で見据える。
「…教会に協力して同族殺しをするものが最近出たと聞いたが…お前頭おかしいじゃないか…」
「どう受け取ってくれても構わないよ」
「…この…悪魔が……」
そうして悪魔は息絶えた。
少しの間無言でそれを見つめていると遠くから走ってくる音が聞こえる。
「次だ、アルマくん」
「………」
アルマくんは何も言わなかった。
僕たちは建物の上に上がってその場を離れた。
そして僕はまた戦闘が行われている場所を探す。
注意深く観察し、騎士が取り逃がしたのなら僕が代わりに逃さぬよう仕留める。
ただ、それを繰り返す。
「…待て」
三回目の戦闘が終わった辺りであろうか。
屋上に上がり、次の目標を探そうと眼を動かす僕をアルマくんが止めた。
「どうしたの?何か戦い方でおかしいところあった?」
「いや、そうじゃない…。リヒトとの訓練ではいつもこうやっているのか?」
「?そうだよ?」
アルマくんがやれって言ったんじゃないか、何を聞いているんだ?
アルマくんはやり切れないような苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「……お前は、辛くないのか?」
「……何が?」
一瞬顔を歪めそうになったが、すぐさま取り繕う。
「あいつらを取り逃がせば罪のない誰かが犠牲になるかもしれないんだよ。だったらやるしかないじゃないか。僕がやれば、それで平和だ」
「お前…」
心を殺して笑顔をアルマくんに向ける。
実際その通りだから。僕がやらなければ誰かが苦しむことになるなら、僕がやるべきだと思う。
話は終わりとでも言うように次へ向かおうとすると、アルマくんに腕を掴まれる。
「お前が…っ、お前は…」
「…どうしたの」
今まで見たことのないような何とも言えない表情をアルマくんは浮かべる。
アルマくんは逡巡するように少し言葉を探すようにした後、下を向いて表情が見えなくなった。
「……今日の訓練はこれで終わりだ。戻るぞ」
「え…でも…」
「戻るぞ‼」
アルマくんは先行して先に屋敷の方角に戻ってしまう。
怒鳴るその声は、どこか悲しそうだった。




