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アカメの悪魔  作者: 海蛙
2巻(想定)

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34/46

30話 綺麗…

アルマくんとリヒトさんの交互の訓練が始まってから早二週間ほど、何とかやっていけている。

 

リヒトさんとは外に出て実戦形式で魔力操作のアドバイスを、アルマくんとはベルの屋敷で戦闘訓練を行っている。

 

正直苦しいところもあるが、強くならなきゃいけない以上避けては通れない道だ。

 

現在は学校の昼休み、購買に行った帰りで来た道を戻っているところだ。

 

そのまま教室に戻ろうとするが、ふと上へ続く階段が眼に入った。

 

この学校には屋上がある。

 

だが、これといって人の往来があるわけじゃない。

 

理由は簡単、使う理由がないからだ。

 

最初の頃は皆物珍しくて屋上に出て行き、昼食や談笑のスペースとして使うが、慣れてくるにつれて使わなくなってくる。

 

屋上だから風も強いし雨の日は使えない。一々最上階まで登らないといけないし、そうなると時間に余裕をもって移動をしなければ次の授業に間に合わないなんてこともある。

 

同じ外という条件なら緑があってある程度壁で風が凌げる中庭を使った方がいい、という結論に大体の人が落ち着くためほとんど人が寄り付かないのが屋上だ。

 

だが、何となくボーっと考えたい気持ちになってしまった僕は屋上への階段を上り始めた。

 

屋上の扉を開くとその時点で風が吹き込んできて既にちょっと萎えるが、それを乗り越えて出ると綺麗な景色が広がっている。

 

この学校自体の立地が少々高いところにあるのもあって街が一望出来るのだ。

 

入学当初に一回来て以降訪れなくなってしまったが、改めて見ると壮観だ。

 

あっちの方角へ進むとベルの屋敷か。となるとあの辺りで僕は昨日戦ってたのか…。

 

一見平和そうに見えるが、精霊教会と悪魔が戦ってるなんてしているなんて誰も意識していないのだろうな。


「一人でどうしたの。私も一緒に黄昏ようか?」

 

まさか人がいるとは思わず驚いて振り返ると、上谷さんが梯子で上った少しの上の方に腰かけていた。


「…何してるんですか?」


「それは先にこっちが質問したんだけどね。初めて来たけどここの景色を気に入っちゃって」


「あぁ、なるほど」

 

上谷さんは最近この学校に来たばかり、気になってくるのも普通か。

 

降りてきた上谷さんはそのまま僕の隣までくると一緒に外に目を移す。


「綺麗だよねぇ。この街」


「そうですね」

 

何も言わず、しばらくそうしていただろうか。

 

何の気なしに上谷さんが口を開く。


「何か悩み事でも?」


「…どうしてです?」


「何となく」


「何もありませんよ」


「そう」

 

少なくとも上谷さんに相談するようなことは何もない。

 

ただ、深堀りしてこないのは居心地が良かったので助かる。

 

一人で考えたくて屋上に来たのに居るもんだからちょっと嫌だったが、この分なら問題ない。

 

また少しばかりの沈黙が過ぎ去った後、上谷さんは口を開く。


「君、悩みとか自分の中に溜め込むタイプでしょ」


「どうしてです?」


「何となく」


「そうですか」

 

上谷さんは外に向けていた視線を戻し、扉の方へ歩いて行ってしまう。


「君はもう少し周りを頼ることを覚えた方がいいね。君の周りもきっとそれを望んでいる人は結構いると思うよ」


「…随分言い切りますね」


「私の勘は当たるんだ」

 

上谷さんは身体を動かさずに顔だけ少しこちらに向けて得意気な顔をする。

 

随分勝手を言ってくれるものだな…と思ったが、そこで初めて会った時のことを思い出した。


「上谷さんそう言えば」


「何?」


「初めて会ったとき、何を言おうとしたんですか?」

 

上谷さんは少々申し訳なさそうな顔をする。


「…あの時はごめんね。決して馬鹿にする意味じゃなかったんだけど」


「それは分かってます、ただ気になって」

 

ただ知りたいだけというのが伝わったのか上谷さんは少々考える素振りを見せた後僕の方に向き直る。


「…これは誰にも言わないで欲しいんだけど」


「ここに居たんですか桜さん!」

 

突然屋上に乱入してきた見知らぬ女子生徒に会話を中断させられた。

 

その勝気そうな女の子は僕のことなど視界に入らないとでも言うように上谷さんに話しかける。


「心配したんですよ!私たちの近くから離れないでください!」


「京香さん、何度も言うけどここは学校よ。一々着いて回らなくていいから!」


「何かあってからでは遅いんです!」

 

京香、と呼ばれた女の子と上谷さんは言い合いを始める。

 

するとまた扉から、今度は見知らぬ男子生徒が入って来た。


「京香、だから過保護過ぎるって言っただろ。上谷さんにも自由は必要だ」


「弘人はいつもそう言うよね。私より弱いんだから黙っててよ」

 

弘人と呼ばれた男の子は話の通じない京香さんに苦虫を嚙み潰したような顔を向ける。

 

京香さんは弘人くんを睨みつけながら上谷さんを無理やり押して屋上を去ろうとしてしまう。


「あ!ま、待って!」

 

堪らず止めに入ってしまった。

 

そちらの事情は知らないが、こっちだって話をしている最中だったのだ。

 

京香さんは今気づいたとでも言うかのような顔を僕に向けた後、露骨に面倒そうな表情を浮かべる。


「…何でしょう?忙しいのですが」


「い、いや。上谷さんと話をしている最中だったのですが…」


「申し訳ありませんが、桜さんは私と用がありますので。失礼します」

 

こちらの言い分に取り合わず、本当に失礼な言い分に呆気に取られている内に屋上を出て行ってしまう。

 

申し訳なさそうにこちらを見る上谷さんの顔が印象的ではあった。


「…ごめんな。京香の奴、最近いつにも増して余裕がなさそうで」


弘人くんは僕に近づくと申し訳なさそうに謝罪をしてきてくれた。


「いや、いいよ。君が謝ることじゃないだろ」


「助かるよ。まだこの学校にきたばっかりで慣れないことが多くてな」

 

この口ぶりだとこの子が他のクラスの新しく入って来た子なのだろう。

 

となると、あの京香って子がもう一人か。

 

うちの学級は三クラスなのでこれでちょうど一人ずつだ。


「そうなんだ、何か分からないことがあったら頼ってよ。僕は柊アカメっていうんだ」


「アカメ、くん…」

 

弘人くんが目を丸くする。


「どうしたの?」


「…いや、いきなりいい人と会えたから捨てたもんじゃないなって。俺は橘弘人、よろしくな」

 

弘人くんは優しい笑みを僕に向けた後、屋上を後にしていった。

 

残された僕一人。先程までは一人で居たいと思っていたのに、こうして一人になると騒がしかっただけに少し寂しい。

 

頭の中に上谷さんの言葉が反芻される。


『君はもう少し周りを頼ることを覚えた方がいいね』


「………」

 

身体が強い風になびかれる。

 

空を見上げると相変わらずの綺麗さで、所々に浮かぶ雲は空を自由に泳いでいた。





「……綺麗、だよね…?」


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