28話 リヒト
闇を押し固めたような刺突の連撃をひたすら躱し続ける。
至る所にある影の中から縦横無尽に攻撃が飛び交い、その全てを躱すか弾くかして凌いでいく。
現在はベルが訓練に付き合ってくれていた。
今までの対人戦とは打って変わり、ベルの闇影の理を用いた攻撃をひたすら察知して避け続けるというものだ。
それにしても、こうして間近で行使する様子を見ると本当に勉強になる。
天井にあるものや動きの中で一瞬できる影を利用する発想もそうだし、かなりの数を遠隔で発動しているはずなのにそのどれもが発動を読めないし、それだけの芸当を行っておきながら本人は涼しい顔をしているし、もうめちゃくちゃだ。
手加減して貰っているから一応形にはなっているが、これが本気の殺し合いなら一秒も持たないのだろうと考えると身震いする。
「集中を乱すな」
「あっ⁉」
そんなことを考えているのが良くなかった。
一瞬で足の腱を断ち切られ、動けなくなっている隙に全身を貫抜かれる…ように見えたがそのどれもが掠るように避けられていた。
幾度も身体を修復したことによる魔力消費と何度も失敗したことによる脱力感によって地面に大の字で倒れる。
「まぁたやらかした…」
「耐久時間自体は伸びているがな。まずまずといったところだろう」
ベルはそう言うけれども…何度も何度も殺されかけていることを考えると嫌味にしか聞こえない。
「ベル様、まずまずどころではないでしょう。悪魔になって一月ほどでこれは凄まじい成長速度ですよ」
「え…?」
不意に聞いたことのない声が聞こえ視線を動かすと、そこには見たことのない青年と呼べそうな見た目の男が執事服を着て立っていた。
この恰好ってことは…この人も屋敷の使用人?
ベルは男にため息をつく。
「リヒト、甘やかすな」
「甘やかしてなどいません。褒めるべきところをを褒めているだけです」
そのリヒトと呼ばれた男はベルの言葉に反論する。良く分からないがもっと言ってやって欲しい。
リヒトさんが僕に手を差し出してくれたのでありがたく掴んで立たせて貰った。
「初めまして、僕はこの屋敷に使えているリヒトという。アルマとリナにはもう会っているそうだね」
「はい、良くしてもらってます。僕はアカメです」
握手を交わして挨拶すると「もう知ってるよ」と返された。
「ごめんなさい、会ったことありましたっけ?」
「ないよ。僕は君がアルマと訓練してるときずっとこの訓練場で見てたんだ」
「………え?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
アルマくんと訓練している時は基本僕とアルマくんしかおらず、たまにレイ姉さんとリナさんが見に来てくれたぐらいだ。リヒトさんの姿は見たことがない。
困惑する僕にベルが説明してくれる。
「リヒトはこの私でも眼を見張るほどの魔力操作の達人だ。お前程度ではリヒトの魔力隠蔽を見破ることは出来ん」
「ご謙遜を。ベル様やアルマは気づいていたでしょう」
そこまでなのか…というかアルマくんも気づいていたのか、教えてよ。
リヒトさんは僕に向き直るとフッと笑みを見せた。
「百聞は一見に如かずだ」
「え?…っ!」
リヒトさんがそう言ったのも束の間、突然リヒトさんの姿が希薄になって消えてしまった。
周囲を見渡しても何処に行ったのかまるで分からない。
「ど、何処に…」
「ここだよ」
「わっ!」
突然斜め後ろに現れて頬に拳を当てられる。
いつの間に…というか本当にどこに居るか分からなかった…。
「まぁ今のをやるには魔力隠蔽だけでは足りないんだけどね。でもこれで僕の実力は分かって貰えただろう?」
僕は全力で首を縦に振って肯定する。
ベルを筆頭にアルマくんも底が見えないし、この人だって…この屋敷には化け物しかいないのか?
「アカメ、明日からアルマとリヒトの二人に師事してもらうことにする。格闘に関してはアルマ、魔力操作に関してはリヒトだ。日替わりで行うからな」
ベルがそう提案してくれる。こちらとしてもこんな凄い人に技術を学べるのなら願ったり叶ったりだ。
「と、いうわけだ。君の弟子を借りることになるけれどいいか?アルマ」
いつの間にか訓練場の扉の前に居たアルマくんにリヒトさんが問いかける。
「……別に。好きにしたらいいんじゃないの」
それだけ言ってアルマくんは立ち去ってしまった。
「せっかく出来た弟子が取られて拗ねたのでしょうか?」
「ふむ、そうならば悪いことをしたな」
リヒトさんとベルがそんなことを話しているが、どうなのだろう。
本当にそうだとしたら意外に可愛いところあるじゃないか。今度アルマくんにお菓子持ってこようかな。
…いや、やっぱ止めておこう。癪に障って訓練を苛烈にされては堪ったものではない。
「では、早速明日からだ」
「はい!よろしくお願いします!」




