26話 戻って来た日常
ここから2巻(想定)です!
楽しんでいってください!
休みなく打撃の音が部屋の中に反響する。
アルマくんの多彩で澱みない攻撃で僕は防戦一方を強いられていた。
振りかぶられた拳撃を受け流し、鋭く切り裂くような蹴撃を半歩下がって間合いから逃れる。
やがて凌いでいるうちにアルマくんのリズムが崩れる瞬間が訪れる。
ここだと思いカウンターを繰り出すが、アルマくんは逆にそれを弾きこちらの体勢を崩してくる。
「………」
だが、アルマくんはそこで追撃を行ってこなかった。
「あれ、来ると思ったのに」
「白々しいぞ。合わせて返すつもりだったな?」
「…流石にバレるか」
露骨に顔をしかめたアルマくんから「可愛げがなくなってきたな」とのお言葉を頂いた。
そりゃ、毎度毎度ボコボコにされては流石に学ぶというものだ。
現在は悪魔として生きる覚悟を決めてから数日経った頃である。
守るために強くならなければならないと決意を固めた僕は、今こうしてアルマくんに師事を仰いでいるというわけだ。
それにしても、可愛げがないというのはこっちの台詞だと思う。
今だって大分手加減して貰っているというのに、こちらの新しい試みももあっさりと見破られて…。僕より幼く見えるというのに本当に可愛げがない。
確かに僕も先の一件を乗り越えてから大分攻撃に迷いがなくなったと思うが、だったら偶には僕にもボコボコにさせてくれても良いと思う。
不満を心の中でタラタラ考えていると、ベルが訓練場に入ってくる。
アルマくんは無言で執事らしくお辞儀をした。何もしない僕が阿呆みたいだからちょっと止めて欲しい。
「ベル、今日は用事ないの?」
「偶には休めとレイに言われてしまってな…」
「あぁ、なるほど…」
ベルはこの屋敷の主のようなものであり、その態度は尊大して傲慢とも取れるほど悠然としたものであるが…レイ姉さんには頭が上がらないらしい。
ベルはこちらの様子を見て取った後、少々考えるような仕草をとる。
「…ふむ、久しぶりに私が相手をしてやろうか?」
思ってもいなかったことで眼を丸くする。
だがそうしたのも一瞬。自分の成長を見せるいい機会だと挑戦的な笑みを浮かべ、気持ちを入れ直す。
「…アルマくんにカッコ悪いところ見られても知らないよ?」
「ほう、言うではないか。お前こそ不甲斐ない姿を見せて修練を厳しくされても知らんぞ?
そういうわけだ、アルマ。代わってくれるか?」
そう言われたアルマくんは恭しくお辞儀をすると壁際まで後退した。
久しぶりのベルとの一対一だ。アルマくんよりも強いだろうから勝つなんてのはまず不可能だろうが、せめて一撃入れて眼を剥かせてやりたい。
ベルは徐に陰を操作し、部屋の電気を消した。
「ハンデだ。私は闇影の理を使わないがお前は使っていい」
「…随分と譲ってくれるね。もしかしなくても舐められてるのかな」
「それ以外にないだろう。止めて欲しければ精々マシになったところを見せろ。一撃でも加えられたら褒美をくれてやろうじゃないか」
言ってくれるな本当に…意識的にも無意識でも煽り属性がついているのどうにかして欲しいもんだ。
絶対に吠え面かかせてやる…!
そう意気込み、僕は闇からナイフを創り出し突撃していった。
本日、雲一つない晴天のようですが僕の心象は大荒れです。
多分不機嫌そうな顔をしているのだろうな、と自覚しながら学校への道を歩いています。
結局あの後一撃も入れられず蹂躙されて終わった…。
とっておきの不意打ちも使ったのにあれはないだろう…。
『ふっ!』
『何も言わずにかかってくるとは、礼儀知らずになったものだな』
『言っても言わなくても文句言われるんだね…!』
自分で言うのも何だが、甘い攻撃を出しているつもりはない。
それにも関わらず、涼しい顔で軽口を叩きながら悠々とこちらの攻撃を捌かれるのは何と言うかとても癪に障る。
かと言ってこのまま続けていてもジリ貧になるだけだ。
それなら…。
僕は一度離れ、ベルの周りを攪乱するように動き回る。
当然見切られているが、なるべく情報量を増やして不意を突くのが目的だ。
『何を…』
突然意味のないことをやり出して困惑しているのか、ベルからそんな声が漏れる。
今だと思い再度突撃を開始。最短距離でベルに攻撃を届かせに行く。
そして刺突が届く範囲の手前、その辺りで前方に身を投げ出すように跳んだ。
『馬鹿か…っ』
そうベルから呆れたような声が発せられた時、ようやく気付いたようだ。
ベルの後方に闇から創り出したバリアのようなもので後退出来ないようにしておいたのだ。
この日まで魔力隠蔽は欠かさず行っていた。その甲斐もあってか、この程度の距離であれば魔力の起こりを最大限隠して闇影魔法を行使することが出来る。
まだこれをするには一回に一~二個程度が限界であるが、今回に関してはそれで十分!
僕は跳んだ瞬間にさらに自分の足辺りに闇からバリアによる足場を出現させ、それをベルの方向へ踏み込み全力で跳ぶ。
そしてそのまま刺突をベルに…!
『貰ったぁぁぁあ!』
『甘い』
『なっ⁉』
ベルは僕の直線的な動きを見切り、腕を掴んでそのまま上へ投げ飛ばした。
勢いが落ちず、天井へ足を向けて着天する。
『…嘘でしょ!あれ防がれるの⁉』
『悪くはなかったが、最後の爪が甘かったな。あそこは防がれる読みでもう一段階バリアによる移動を挟むべきだった。最も、そもそも速度が足らんから私に当てることは出来ないがな』
上方向へ向く推進力がなくなり、天井から床へ着地する。
マジか…編み出した初見殺しの奥の手だったのに…。
愕然としているとベルがくっくっ…と押し殺したように笑う。
『いや、しかし、中々面白いじゃないか。確かに私はお前を見くびっていたのかもな。次からは油断なく行くとしよう。ほら、かかってこい』
『え…っと、もう手札はないと言いますか、万策尽きたと言いますか…』
『どうした?まさかもう終わりなどというわけではあるまい?』
仮面の奥で嫌な笑みを浮かべているのが分かる…。
半ばやけくそな気持ちで僕はベルに向かっていった。
…とまぁこんな風に、後はバリアも見切られて本当に蹂躙されて終わったというつまらないオチだったわけである。
アルマくんもアルマくんだがベルもベルだ。たまに現れた時ぐらい僕に花を持たせようという気概はないのかまったく…遠慮なしにボコボコにしてきやがってぇ…。
「アーカメ、どうしたのそんな顔して」
学校近くまで来た辺りで後ろから声が掛かる。
振り返ると陽さんが笑顔でこちらに手のひらを向けていた。
「…別に、何もないよ」
「うっそだぁ。ベルさん達に何かされたの?」
出てくると思っていなかった名前が出てきたことと図星を突かれたことによって思いっきり顔に出てしまう。
あまりに分かりやす過ぎた反応だったのか陽さんはおかしそうに笑う。
「当たりっぽいね、その様子だと」
「何で分かったのさ」
「ベルさん意地悪そうだからねぇ。アカメも苦労するなって」
「…他人事だと思って」
陽さんはしたり顔で僕をふふんっと見つめてくる。
陽さんとはあの夜二人で一緒におばさんのところに帰ってカンカンに怒られた。
夜にしか見れない綺麗な湖があるから見に行こうという話になってこの時間になったという元の状況を考えれば苦しい言い訳であったが、何とかゴリ押しして信じて貰えた。
陽さんの家に電話を入れたところ、もう少し遅ければ精霊教会に通報をしていたらしい。本当に危なかった…。
兄さんが眠い目をこすりながら車で陽さんの家まで送迎してくれた帰り道。二人きりの状態の時に兄さんが見計らったかのように「で、どこまでやったんだ?」と聞いてきたので無言で頭をひっぱたいた。危うく電柱にぶつかるところだった。
まぁ色々あったけど、こうして日常に戻ってこれたのは凄く嬉しいものだ。




