20話 崩れる日常
放課後、私こと宮沢陽は一人で帰路についていた。
本当は三人で遊びたかったが、久しぶりにお母さんと一緒にご飯が食べられそうなので帰って支度をしたかったのだ。
アカメは「そっか!じゃあまた明日遊ぼう」と自然に嬉しそうに言ってくれるのでこっちも安心できるというものだ。
事情を聞いた葵くんは優し気ではあるもののどう言ったらいいかと逡巡している様子があったが、アカメにはそれがない。これが年季の差というものか。
最近のアカメは何処か暗かったが、護さんと話して少し憑き物が落ちたような顔をするようになった。
少々悔しいが、家族には敵わないらしい。
せめてアカメの負担を軽減する一要因には慣れているといいのだが…。
そう思いながらアカメが帰り際くれたチョコレートをパクついてしまった。
「…あ、やってしまった」
アカメにはお母さんのように「ご飯前何だから食べちゃダメだからね」と言われていたが、これじゃ私が子どもみたいじゃないか。
そもそもくれる方が悪いのだという暴論で自分を落ち着かせ、スマホにメモした買い物リストを出す。
今日はカレーを作って貰おうと思う。決して護さんの話を聞いて羨ましくなったわけではない。
工程も簡単だからお母さんへの負担も少ないし、私も手伝うからもっと簡単だという理由でも選んだ。
さっさと買い物を終わらせて…
「失礼、そこのお嬢さん」
突然、後ろから声をかけられた。
誰かが居る気配もなかったので驚いて振り向くと、スーツを着た怪しげな男が立っていた。
「……何か御用ですか?」
「そう警戒しないでくれたまえ、ちょっとついてきて欲しいだけだよ。君自体に用はないんだ」
要領を得ない発言に首を傾げるも、危ない人間であることには変わらないということだけは分かった。
「ごめんなさい、私急いでいるので」
そう言って踵を返すと、正面にスーツの男がいた。
何で、今後ろに…。
「申し訳ないが、拒否は受け付けていないんだ」
スーツの男が近づいてくるも、得体のしれない恐怖からか少しずつしか足が動かず、遅々としてしか後退できない。
やがて目の前まで近づかれると、腕を掴まれた。
「協力しておくれ、全ては主のために。あの赤い眼の少年を導くためだ」
「ッ‼アカメに何をする気⁉」
自分に関わる赤い眼を持っている少年なんてアカメしかいない。そう思った瞬間恐怖よりも怒りが込み上げ、スーツの男を睨みつける。
だが、そんな抵抗なんてあって無いようなもの。
私は突然衝撃を受けて頭が揺れたように感じ、何をされたか分からず倒れてしまった。
「すぐに分かるさ。寝て待っているといい」
最後にスーツの男がそう言っているのだけを聞いて、私の意識は落ちた。
(アカメ…逃げて…)
・・・
葵くんと別れ、僕こと柊アカメは帰路につく。
陽さんは今頃ご飯の支度でもしているのだろうか、家族水入らずで是非とも楽しんで欲しい。
そう考えていると自分の家族に会いたくなってきた。我ながら単純である。
僕は気持ち程度に足を速めて帰ろうとすると、それは突然現れた。
「っ!誰だ!」
「ほう気づくのですか。まだ悪魔になって日も浅いというのに。末恐ろしいですね」
後ろを振り返るとそこにはスーツを着た男、いや悪魔が立っていた。
魔力操作は今でも何となく続けている。そのおかげもあってか僕の感覚は鋭敏になってきた。
それこそ、目の前の相手が普通の人間か悪魔かを判定できるぐらいには。
今回の場合、目の前のこいつは隠す気が無いようだけど。
「何の用だ、こんな街中で。二人まとめて蜂の巣にでもされるつもりか」
突然接触してきた悪魔、少なくともこちらが悪魔であることはバレているのは当然と考えて情報を聞き出すため探りを入れる。
だが、次の瞬間そんな余裕は吹き飛んだ。
「あの女性、陽でしたっけ?助けたくはありませんか?」
「…どういうことだ」
自分でも恐ろしく底冷えするような声が出た。
ここが街中でなければ全力で掴み掛かっているぐらいには。
望んだ反応が得られたようで、スーツの男は汚い笑みを湛えている。
「東にある立入禁止区域スローン、悪魔の王がいる場所ですね。そこに入って少し進むと廃れた工場群があります。そこまで来なさい」
そう言うと一方的に立ち去ろうとする。
「待て、逃がすと思うのか?」
「出来ないでしょう、それこそ殺しでもしないと私は止まりませんよ?」
「っ!待て!」
図星を突かれ固まってしまうと、その一瞬で逃げられてしまった。
こんな時にも踏ん切りがつかない自分への怒りが込み上げてくる。
他にも気になることを言っていたが、そんなことを考えている余裕はない。
「ッ陽さん‼」
短くて細かい話で申し訳ない…
次回からはまとまります




