12話 僕の光
放課後、僕こと白石葵はアカメくんと陽ちゃんと遊ぶ約束をしていた。
「じゃ、先行ってて」
「僕たち待っててもいいんだよ?」
「いいの、まさか委員会の仕事があるとは…」
陽ちゃんは美化委員の仕事があったことを忘れていたらしく、僕とアカメくんに先に行くよう促す。
アカメくんは陽ちゃんに呆れながら頑張れるようにとチョコレートを渡している。
こういう二人だけのやり取りみたいなのは、微笑ましくもあるけどちょっと羨ましかったり。
「終わったら連絡して、どこにいるか送るから」
「分かった。また後で」
「またね陽ちゃん」
陽ちゃんと別れアカメくんと二人で歩いていると、もう少しで昇降口に着くタイミングアカメくんが「あ!」と声をあげる。
「図書室の本期限今日までだったの忘れてた…。すぐ返してくる」
「一緒に行こうか?」
「いや、すぐそこだし。昇降口で待っててよ」
アカメくんは先生にギリギリ注意されるかされないかぐらいの小走りで図書室の方向へ走っていってしまった。
僕は先に昇降口へ行き、靴を履いてアカメくんの戻りを待つ。
途中までだけど、アカメくんと二人きりということで胸が躍る。
勿論陽ちゃんと二人きりの時も嬉しい、三人で居れたらもっと嬉しい。
結局二人と居れたら嬉しいだけでは?と自分の思考に疑問を持ち、あまりにも単純過ぎて自分で笑ってしまう。
ほら、ご機嫌すぎて鼻歌まで出てきてしまう始末だ。我ながらこんなに簡単な奴だったのかと驚いてしまう程だ。
あの二人と出会えてから世界が色付いて見えるようになった。
このまま…ずっとこんな日常が続くといいな…。
「随分と楽しそうだな、葵?」
「……ッ!」
僕なんかがそんな…わがままを考えていたから、罰が当たったのだろうか。
鼻歌は引っ込み、代わりに全身に悪寒と嫌悪と恐怖が駆け巡る。
「ちょうどよかった…お前と一度話がしたいと思ってたんだ…」
そこには、僕の負の象徴とも言える相馬くんが心底嬉しそうに嗤って立っていた。
相馬くんが僕に近づいてくる。
嫌だ嫌だ嫌だ、なんで…アカメくん…早く来て…。
自分では何も出来ず、ただ心の中で助けを叫ぶことしか出来な自分が嫌になるが、身体が言うことを聞かないのもまた事実だった。
僕の願いも虚しく、相馬くんは僕の前まで来てしまう。
「ぼ、僕は…」
「聞こえねぇよ何て言ってんだよあぁ⁉」
「ひっ…」
断りたかった、だけど上手く声が出せない。
少し大きい声を出されるだけでこの有様だ。相変わらず自分が情けないと先程までの幸せな感情は何処へ行ったのか、自己嫌悪と恐怖が頭を支配する。
「いいからついてこい」
僕は相馬くんに無理やり腕を掴まれるも、大した抵抗も出来ないまま連れていかれてしまった。
学校の裏の人の気配がない場所まで連れてこられ、そこで掴まれていた腕を投げ飛ばされた。
「っ…」
「最近何で俺のところへ来なくなった?前まであんなにヘラヘラしてたじゃねぇか」
「………。」
相馬くんの言葉に僕は口を開けなかった。
理由は簡単、怖くて声が出ないから。
少しでも言葉を間違えたら、少しでも反抗の意志有りとみなされたら暴力が飛んでくる。
相馬くんは僕の怯え切った様子に満足したのか、下卑た笑いを顔に湛えて僕が逃げられないように両手を壁につく。
「申し訳ないと思ってるならまずは謝罪が先なんじゃねぇのか?あぁ⁉」
「…ご、ごめ…なさ…」
「相変わらず小せぇ声だが、まぁいい…」
今日の相馬くんは何かが違うような気がする…。
いや、酷い奴という意味では全く同じなのだが、何だかこう…雰囲気が、何か一線を越えてきそうな危なっかしさがあるような気がする…。
相馬くんは両手を壁から離したため一瞬きが緩んだが、すぐに僕の顔を掴んでくる。
「むぐッ…」
「今日はよぉ、お前に今一度誰が主人なのかってのを教えてやろうかと思ってなぁ…」
訳が分からず理解に苦しんでいると、左の頬に痛みが走る。
平手打ちをされ、僕は衝撃による驚きとこれまでの虐げられてきた記憶がフラッシュバックしてその場に崩れ落ちてしまった。
「くつくっくっ…いいぞその顔だよ!お前はそうでなくちゃなぁ!」
相馬くんは俯いた僕の顔を持ち上げ、口の中に親指を突っ込んでゲタゲタ嗤う。
何なんだこいつは…どうして僕の幸せを邪魔してくるのだろう…。
何故か下腹部辺りが隆起しているし、もう訳が分からない…全てが気持ち悪い…もう嫌だ、何も考えたくない…。
心に宿り始めた温かい灯が消えかかっているような気がするが、もう自分ではどうすることもできない。
「そら、誰がお前の主人か言ってみろ」
そう言って相馬くんは僕にもう一発平手打ちをしてこようとする。
僕の目から勝手に涙が溢れた。やっぱり僕は…。
僕は抗えない恐怖から目を閉じた。が…
「随分楽しそうだな」
「…は?」
安心する声が耳に届き、目を開けると相馬くんは顔に蹴りを入れられて吹っ飛んでいっていた。
相馬くんを蹴り飛ばした張本人は怒りに震えるように拳を固く握りしめている。
「暴力は好かないと思っていたけど…なるほど、こういう場合少しは溜飲が下がるものだね。最も、葵くんのことを考えるとまだまだ煮えたぎっているけれど」
「…て、てめぇ…」
僕の目からさっきとは別の理由で涙が溢れる。
君は、ずっと僕を助けてくれる。
あの時からずっと、だから僕は心から笑えるようになれたんだ…。
「お前が居るからいつまでも葵くんは自由になれないんだ。人の邪魔にしかなれない小物が、葵くんに二度と近づくな!」
僕は、僕の英雄の名前を呼んだ。
「…アカメくんッ!」




