「始まりの日」
牡蠣がまだ十歳だった頃の話だ。
その日、世界は終わった。
空が赤黒く染まり、無数の隕石が大気を焼きながら世界中へ降り注ぐ。街は炎に包まれ、建物は次々と崩れ落ち、人々の悲鳴があちこちから響いていた。
「逃げろ!」
「隕石が来るぞ!」
誰もが生き残るために必死だった。
牡蠣も家族とはぐれ、一人で瓦礫の中を走っていた。
「はぁ……はぁ……。」
息を切らしながら振り返る。
その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴゴ……。
目の前の空を巨大な影が覆う。
隕石。
それも、家一軒など簡単に押し潰せるほど巨大なものだった。
逃げられない。
そう悟った。
「もう……だめだ。」
足が動かない。
恐怖で体が震える。
だが、その震えは次第に別の感情へ変わっていく。
怒りだった。
「なんで……。」
拳を強く握り締める。
「なんで俺たちがこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!」
家族も、友達も、みんな笑って暮らしていただけだった。
悪いことなんて何もしていない。
それなのに世界は勝手に壊されようとしている。
許せなかった。
牡蠣は叫びながら隕石へ向かって駆け出す。
「うおおおおおおっ!!」
そして怒りのまま拳を振り抜いた。
ドォォォォンッ!!
拳が隕石へ触れた瞬間、とてつもない衝撃が空へ響き渡る。
巨大な隕石は一瞬で無数の破片となり、その破片さえも粉々に砕け、跡形もなく消滅した。
静寂が訪れる。
牡蠣は自分の拳を見つめた。
「……え?」
何が起きたのか分からない。
自分でも理解できなかった。
その時、後ろから老人の声が聞こえた。
「ほほう、破壊の王か。」
牡蠣は振り返る。
そこには長い髭を生やした一人の老人が立っていた。
周囲では世界が崩壊しているというのに、その老人だけは落ち着いた表情で牡蠣を見つめている。
「だれ?」
老人はゆっくりと笑った。
「ワシは刺身 食。」
そう名乗ると、今度は牡蠣へ問いかける。
「君は?」
「俺は牡蠣 生。」
老人は何度か頷くと、興味深そうに牡蠣を見つめた。
「なるほど……間違いない。おぬしには、とんでもない才能が眠っておる。」
牡蠣は首をかしげる。
「才能?」
「そうじゃ。だが、このままではその力に飲み込まれる。」
老人は崩れゆく空を見上げながら静かに言った。
「どうじゃ、生き残りたくはないか。」
その一言が、後に世界の運命を変える師弟の出会いとなるのだった。
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