表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/6

「指スマ」

隕石によって滅びた世界を歩き続け、牡蠣は刺身 食の後ろを黙ってついて行っていた。

空は灰色に染まり、風が吹くたびに砂埃が舞う。

かつて街だった場所には瓦礫しか残っておらず、人の気配はどこにもない。

道路は割れ、木々は焼け焦げ、遠くには隕石が落ちた跡と思われる巨大な穴がいくつも広がっていた。

世界は本当に終わってしまったのだと、十歳の牡蠣でも理解できるほど無残な光景だった。

「疲れたか。」

前を歩く食が振り返る。

「いや、大丈夫。」

そう答えたものの、足はもう限界だった。

食は小さく笑う。

「もう少しじゃ。」

「もう少しって、さっきも言ってたじゃん……。」

「今度は本当じゃ。」

「ほんとかよ。」

思わず苦笑する牡蠣。

そんなやり取りをしながら歩いていると、遠くに一つだけ高くそびえ立つ山が見えてきた。

牡蠣は思わず立ち止まる。

「え……。」

その山だけが異様だった。

世界中の山々は隕石によって削り取られ、ほとんど平地のようになってしまっている。

それなのに、その山だけは何事もなかったように空へ向かってそびえ立っていた。

山肌には緑が残り、木々も生えている。

まるで世界が滅ぶ前の姿を、そのまま残しているようだった。

「すげぇ……。」

牡蠣は思わず呟く。

「この山だけ無事なのか?」

食は振り返ることなく答えた。

「そうじゃ。」

二人は山道を登り始める。

急な坂道を登り、岩場を越え、細い獣道を歩き続ける。

途中で何度も転びそうになる牡蠣だったが、食はまるで疲れた様子もなく先へ進んでいく。

「じいさん、本当に老人か?」

「失礼な。」

食は笑いながら軽々と岩を飛び越えた。

「ワシはまだまだ若いぞ。」

「いや絶対嘘だろ。」

そんな会話をしながら登ること数時間。

ようやく山頂へ辿り着いた。

そこには一軒の木造の家が建っていた。

周囲には小さな畑があり、井戸があり、薪が積まれ、生活の跡がある。

滅びた世界とは思えないほど穏やかな場所だった。

「ここがワシの住処じゃ。」

牡蠣は辺りを見回す。

「本当にここだけ別世界みたいだ……。」

ふと山の下を見下ろく。

どこまでも続く崩壊した大地。

煙が立ち上り、遠くでは黒い雲が空を覆っている。

それなのに、この山だけは静かだった。

鳥の鳴き声まで聞こえる。

牡蠣は不思議そうな表情を浮かべた。

「なんでなんだ?」

食は縁側へ腰を下ろす。

牡蠣もその隣へ座った。

「何がじゃ?」

「なんでこの山だけ無事なんだよ。」

「他の山は全部壊れてるのに。」

食は少しだけ笑った。

「気になったか。」

「そりゃなるよ。」

「実はな。」

食は一本の親指を立てる。

「この山は指スマによって守られた。」

「……指スマ?」

初めて聞く言葉だった。

牡蠣は首を傾げる。

「なんだそれ。」

食は親指を見つめながら静かに話し始めた。

「指スマとは、指へ生命エネルギーを集め、一撃として放つ技じゃ。」

「生命エネルギー?」

「生き物すべてが持っておる、生きるための力。」

「それを一か所へ極限まで集中させることで、とてつもない威力を生み出す。」

牡蠣は話を聞きながら自分の手を見る。

生命エネルギー。

そんなものが自分の中にあるなど考えたこともなかった。

食は庭に落ちていた小石を拾う。

「見ておれ。」

親指を軽く立て、小石へ向ける。

その瞬間だった。

牡蠣は空気が変わったような感覚を覚えた。

風が止む。

周囲が静まり返る。

食の親指へ何かが集まっているような、不思議な圧迫感が辺りを包み込む。

パチン。

親指が小石へ軽く触れた。

次の瞬間。

ドンッ!!

小石は跡形もなく消え去った。

爆発したわけでも、砕けたわけでもない。

そこから存在そのものが消えたようだった。

牡蠣は目を見開く。

「……すげぇ。」

食は静かに頷く。

「これが指スマ。」

「今のはほんの僅かな生命エネルギーしか使っておらん。」

「本気で放てば、山を守ることもできる。」

牡蠣は再び山を見渡した。

「だからこの山だけ残ったのか。」

「そういうことじゃ。」

食はそこで表情を少しだけ引き締めた。

「じゃが、この技には大きな代償がある。」

牡蠣も自然と真剣な表情になる。

「生命エネルギーとは、生きるために必要なエネルギー。」

「つまり、それを使えば寿命も消費する。」

「寿命……。」

「そうじゃ。」

食は静かに続ける。

「生命エネルギーを大量に使えば、その分だけ寿命が縮む。」

牡蠣は息を呑んだ。

「それだけじゃない。」

食は自分の右手を見せる。

そこには古い傷跡がいくつも残っていた。

「生命エネルギーを一気に指へ集めると、人間の身体はその負荷に耐えられん。」

「普通の人間なら、指の骨も筋肉も耐え切れず……。」

食は親指を見つめながら静かに言う。

「指が欠損する。」

牡蠣は思わず自分の両手を握りしめた。

「指が……なくなるのか。」

「そうじゃ。」

食は淡々と答える。

「強力な技であるほど代償も大きい。」

「だから命懸けの技なのじゃ。」

山頂に静かな風が吹く。

牡蠣は何も言わず、自分の親指をじっと見つめていた。

指スマ。

世界を守るほどの力。

その代わりに寿命を削り、指さえ失う技。

そんなものが本当に存在するのか。

そして、そんな力でこの山は守られてきたのか。

十歳の牡蠣には、まだ信じることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ