「この世界の歴史」
牡蠣と海老は再び合流した。
「怪我はないか?」
牡蠣が尋ねると、海老は軽く頷いた。
「うん、大丈夫。それより指を治さなくちゃ。」
海老は牡蠣の消えた親指に手をかざす。
優しい光が傷口を包み込み、失われた親指がゆっくりと再生していく。
「はい、終わり。」
「助かった。」
二人はその場に腰を下ろした。
静かな風が吹き抜ける。
ふと海老が口を開いた。
「そういえば牡蠣は、私の生まれた村のこと知らないよね。」
「そういや聞いたことなかったな。」
海老は少し遠くを見るような目をした。
「私が生まれた村にはね、一つの風習があったの。」
それは古くから続く儀式だった。
生贄を捧げ、一人の子供を神として祀る。
そして、その子供が村を守る存在になると信じられていた。
選ばれた子供は、特別な能力を授かると言い伝えられていた。
「今じゃ信じられない話だけどね。」
海老は苦笑する。
今の世界に能力者はいない。
だが、数千年前は違った。
その頃は、ごく普通の人間が能力を持つ時代だった。
炎を操る者。
重力を操る者。
時間を操る者。
様々な能力者が存在していた。
しかし、長い年月の中で能力者は姿を消し、その力も歴史の中へ埋もれていった。
そして数千年前。
世界に、一人の魔王が現れる。
その名はゼルクロノス。
別の星から現れた存在であり、その圧倒的な力で世界を滅ぼそうとした。
その魔王へ立ち向かった一人の少年がいた。
ルクス。
彼は自らの命を犠牲にしながら、究極の力――無限回転を発動した。
無限に回転し続ける力。
止まることのない回転はゼルクロノスを飲み込み、ルクス自身も道連れにして世界を救った。
だが、平和は長く続かなかった。
数年後。
ゼルクロノスは復活する。
再び絶望が世界を覆った。
その時に現れたのが、二人目の英雄レグルスだった。
レグルスは激闘の末、ゼルクロノスを撃退する。
追い詰められたゼルクロノスは別宇宙から最終兵器を送り込んだ。
その名はZティターン。
星を滅ぼすためだけに生み出された怪物だった。
世界は壊滅寸前まで追い込まれる。
レグルスは命懸けで時間を稼ぎ、その間に無限回転となったルクスが再び立ち上がる。
そしてZティターンを倒し、世界は滅亡を免れた。
その後もレグルスとゼルクロノスは幾度となく戦い続けた。
激戦の末、レグルスはゼルクロノスを過去へ送り飛ばすことに成功する。
しかし、その戦いの中で衝撃の事実が判明した。
この宇宙のさらに上に存在する上位宇宙。
そこには、この宇宙を超える存在たちがいた。
やがて上位宇宙との戦争が始まる。
ゼルクロノス。
レグルス。
そしてゼルクロノスの弟子。
本来敵同士だった三人は力を合わせ、上位宇宙との戦争に終止符を打った。
戦いの後、レグルスは「失われたものの世界」とこの世界を繋ぎ、歴史の中で失われた数多くのものを取り戻した。
だが、平穏は再び終わる。
ゼルクロノス時代襲来。
ゼルクロノスは数年にわたり全宇宙を滅亡寸前まで追い込み、あらゆる生命を絶望へ叩き落とした。
それでも最後はレグルスが立ちはだかり、その脅威を食い止めた。
それから数千年。
能力者は完全に姿を消し、英雄たちの名も伝説となった。
だが、新たな災厄が始まる。
バトルロワイヤル時代。
謎の隕石に触れた者たちは理性を失い、互いに殺し合うようになった。
世界中で終わることのない戦いが続く。
その地獄を終わらせた者がいた。
サナージュ。
今から約百年前、一人でバトルロワイヤル参加者たちを食い殺し、戦いそのものを終焉へ導いた存在だった。
そして数年前。
二人目の魔王が襲来する。
その日を境に再び隕石が世界へ降り注ぎ、文明は崩壊した。
人類は九十人ほどにまで減少し、世界は魔物で埋め尽くされる。
――それが、牡蠣たちが生きる今の世界だった。




