「親代わり」
「ただいまぁ」
村へ足を踏み入れると、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
「牡蠣、おかえり」
あちこちから声が飛んでくる。
この村には三十人が暮らしている。
世界には村が三つしかない。
つまり、生き残った人類は九十人ほど。そのうちの三十人が、ここで肩を寄せ合って生きていた。
「今日は贅沢に人参と肉のシチューだよ」
鍋をかき混ぜながら笑う女性の声に、牡蠣の目が丸くなる。
「肉!? 本当に!?」
「本当。本当に少しだけだけどね」
ぐつぐつと煮える鍋からは、食欲をそそる香りが漂っていた。
この世界では、食べ物そのものが貴重だった。
畑は魔物に荒らされ、作物は思うように育たない。
まして肉など滅多に口にできない。
家畜はほとんど絶滅していた。
餌になる草や穀物さえ不足しているため、育てることができないのだ。
だから肉は、村全員で分け合うほどのごちそうだった。
「今日は狩りがうまくいったのよ。」
「へぇ……。」
牡蠣は鍋を覗き込み、思わず笑みを浮かべる。
「早く食いてぇ。」
「その前に手を洗ってきなさい。」
「はーい。」
返事をしながら井戸へ向かう。
この女性は、俺の親代わりだった。
本当の親はもういない。
この世界では、それは珍しいことじゃない。
誰かが親を失えば、誰かがその子を育てる。
血の繋がりなんて関係ない。
生き残った人類九十人は、みんなが家族みたいなものだった。
子どもは村全員で育て、大人は力を合わせて食料を集める。
誰か一人でも欠ければ、この世界では生きていけない。
だから助け合う。
それが、この滅びかけた世界で人類が生き残るための、たった一つの方法だった。
牡蠣は空を見上げる。
赤く染まった夕焼けの向こうには、崩れた世界の残骸が広がっている。
こんな世界でも、帰ってこられる場所がある。
守りたい人たちがいる。
だから俺は明日も戦う。
指スマで、この村を守るために。




