「始まり」
牡蠣は巨大な蛇を前にして、不敵に笑った。
「俺の指スマに勝てるわけねぇよ」
目の前の蛇は人間などひと呑みにできるほど巨大だった。その巨体が地面を這うたび、大地が震え、瓦礫が跳ねる。それでも牡蠣は一歩も引かない。
ゆっくりと右手を構え、親指を立てる。
「ゆーびースマッ壱!!」
叫びと同時に親指を突き出し、そのまま巨大な蛇へと叩き込んだ。
轟音が響く。
次の瞬間、牡蠣の親指は根元から吹き飛び、鮮血が舞った。
しかし、それと引き換えに巨大な蛇の身体は一瞬で消滅する。断末魔すら残さず、その存在ごと世界から消え去った。
「いてて……やっぱ毎回こうなるか」
牡蠣が苦笑していると、後ろから呆れた声が飛んできた。
「もう、いっつも指治すの私じゃん」
振り返ると、一人の少女が立っていた。
海老・フライ。十四歳。
彼女はため息をつきながら牡蠣の手を掴み、失われた親指へと触れる。淡い光が傷口を包み込み、吹き飛んだはずの親指が何事もなかったかのように再生していく。
「ほら、終わり。」
「そうだな、お前には感謝してるよ」
牡蠣は新しく戻った親指を握ったり開いたりして感触を確かめる。
海老は照れ隠しなのか、ぷいっと顔を背けた。
「感謝してるなら、もう少し大事に使ってよ。」
「無理。」
「即答!?」
そんなやり取りを交わしながら、牡蠣はふと空を見上げた。
……いつから、こんな生活になったんだろう。
かつてこの世界は、ロック、シーザ、ナイト、ゴーウの四つの国によって成り立っていた。
互いに争いながらも、人々は普通に暮らしていた。
だが、ある日。
魔王だとかいう存在が現れたのを境に、世界中へ無数の隕石が降り注いだ。
街は焼け、大地は砕け、多くの命が一夜にして失われた。
四つの国はほとんど滅び、人類は絶望の淵へ追いやられた。
そして、荒廃した世界には魔物が溢れ返った。
生き残るだけでも命懸けの日々。
そんな中、行き場を失っていた俺を拾ってくれたのが、一人の老人だった。
指スマ仙人――刺身 食。
変な名前で、変な技しか教えない、変な師匠。
初めて会ったときは、本気で頭がおかしい人だと思った。
「強くなりたければ、指スマを覚えろ。」
そう言われたときは意味が分からなかった。
けれど、俺は行く場所も、生きる理由もなかった。
だから師匠についていった。
それから四年。
俺は指スマを極め、魔物と戦うようになった。
世界にはまだ魔物が溢れ、人類はわずかしか残っていない。
それでも俺は戦う。
師匠から受け継いだ指スマで、この終わりかけた世界を生き抜くために。
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