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歴史人物ノベル-フランス革命編  作者: Miris
ジャック・ネッケル

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第4話 人気者になった財務官

 1781年の夏、サン=トゥアンの屋敷で、私は王国の財務官ではなくなっていた。


 朝の庭には、ヴェルサイユより静かな光が落ちている。机の上には、書きかけの原稿と、パリから届いた手紙が積まれていた。ジャック・ネッケルという名は、もう王の財務局の扉には掲げられていない。それなのに、私の名は以前よりずっと多くの人の口に上っていた。


 職を退くと、人は静かになるものだと思っていた。


 少なくとも、私はそう期待していた。


 だが、私のもとへ届く手紙は増えた。


 商人から、弁護士から、地方の名士から、名前も知らない読者から。会計報告を読んだ。王国にはあなたが必要だ。宮廷はあなたを恐れた。戻ってください。そういう言葉が、丁寧な紙に、時に乱れた筆跡に、何度も何度も書かれていた。


 私はその一通を読み終え、机に置いた。


「また、戻れという手紙?」


 妻シュザンヌが、窓辺から声をかけた。


「ええ」


「あなたは、嬉しそうな顔をしていませんね」


「嬉しくないわけではありません」


「では、怖いのですね」


 彼女はいつも、私が言葉を整える前に中心を突く。


 私は苦笑した。


「人気は、不思議なものです。職にある時は支えになる。職を離れると、こちらの都合に関係なく歩き回る」


「あなたの名が、あなたより働き者になったのですね」


「迷惑な部下です」


 そう言うと、シュザンヌは少し笑った。


 私は手紙の束に目を落とした。


 人々が私を信じてくれる。それはありがたい。だが、彼らが信じているネッケルは、本当に私なのだろうか。彼らの頭の中で、私はどんな男になっているのか。正直で、清廉で、帳簿を開くだけで赤字を消す男。古い特権を正し、税を軽くし、王国を救う男。


 そんな男なら、私も会ってみたい。


 私はただの銀行家だ。


 数字を読み、信用を計算し、失敗を恐れる男だ。


 だが、紙の上で広がった名声は、本人の弱さなど置き去りにする。


 私は原稿へ目を戻した。自分の政策を弁明するための文章だ。退いた者が言葉で自分を守ろうとするのは、少し見苦しいかもしれない。だが、沈黙すれば、他人の言葉だけが私の形を作っていく。


 私はペンを取った。


 人気に守られるのではない。


 人気から、自分を守らなければならない。


 ******


 数年のあいだ、私は王国財政の中心から離れていながら、その崩れ方だけは嫌でも耳にした。


 カロンヌの名が宮廷を駆け、華やかな信用政策と大胆な改革案が語られた。彼は笑う財務総監だった。危機の前でも堂々とし、借入で時間を買い、大きな改革の紙を用意した。私は彼を軽んじる気にはなれなかった。あの赤字を前にして、小さく切るだけでは足りないことは、私にも分かっていたからだ。


 だが、特権に触れれば、必ず音がする。


 土地に税をかける。貴族や聖職者にも負担を求める。地方の仕組みを変える。どれも、帳簿の上では必要に見える。だが、帳簿の外では、人々が顔を持って抵抗する。


 カロンヌは失脚した。


 次にブリエンヌが担った。


 彼もまた、王国財政を立て直そうとした。だが、王権、高等法院、特権身分、世論、そのすべてが別々の方向へ引っ張る中で、財政はますます動かなくなった。


 私は屋敷の書斎で、その報告を読むたび、胸の奥が重くなった。


 私の会計報告が人々に与えた安心は、どこまで本物だったのか。


 私が新税を避け、借入で戦費を賄ったことは、どこまで王国を助け、どこから未来の危機を深くしたのか。


 都合の悪い問いは、退職しても扉を叩いてくる。


 ある夜、私は暖炉の前で、古い帳簿の写しを開いていた。


 シュザンヌが静かに言った。


「あなたは、戻りたいのですか」


 私はすぐには答えられなかった。


 戻りたい。


 そう思う自分がいる。王国が沈みかけているなら、自分の手で何かをしたい。自分なら、もう少しうまくやれる。そう考えるのは、傲慢だろうか。


 戻りたくない。


 そう思う自分もいる。宮廷の沈黙、敵意、期待、王の迷い、パリの拍手。あのすべてをもう一度背負えば、今度は前より深く沈むかもしれない。


「分かりません」


 私は正直に言った。


「ただ、呼ばれた時に断れるほど、私は王国から離れていない」


 シュザンヌは何も言わなかった。


 沈黙が、答えを急がせなかった。


 ******


 1788年8月、呼び戻しの知らせは、思っていたより静かに届いた。


 パリの空気は重く、街には財政危機の噂があふれていた。ブリエンヌの信用は尽きかけ、国庫はほとんど息をしていない。高等法院との対立、地方の不安、パンの値段、悪い収穫の予感。どの話も別々に聞こえるのに、根は同じ場所へ伸びていた。


 王国が、金を必要としている。


 だが、金だけでは足りなくなっている。


 信用が必要だった。


 そして、人々は私の名を思い出した。


 ヴェルサイユへ向かう馬車の中で、私は窓の外を見ていた。道沿いに立つ人々が、馬車の紋章に気づき、こちらを見た。誰かが私の名を呼んだ気がした。


 胸の奥が痛んだ。


 拍手はまだ聞こえていない。


 それでも、すでに重い。


 宮殿に着くと、廊下の空気は以前より冷えていた。金飾りは同じように輝いている。だが、人々の目の奥に、余裕がない。冗談で隠せる段階を過ぎた危機は、宮廷人の歩き方まで少し速くする。


 私は王の前に通された。


 ルイ16世陛下は、以前より疲れて見えた。


「ネッケル」


「はい、陛下」


「戻ってくれるか」


 短い問いだった。


 その短さが、かえって重かった。


 私は一瞬、かつての自分を思い出した。帳簿を開き、数字を公開し、宮廷に敵を作り、拍手を得て、職を退いた男。その男が、今また同じ扉の前に立っている。


 同じではない。


 今度は、財政だけでは済まない。


 三部会。


 その言葉が、すでに王国の中を歩き始めていた。1614年以来開かれていない身分制議会を呼ぶ。王国の税と改革を、三つの身分に問う。財政危機を救うための手段が、政治そのものを揺らし始めている。


 私は息を吸った。


 逃げたいと思った。


 だが、ここで逃げれば、私は自分が公開した数字から逃げることになる。


「お受けいたします」


 陛下は目を閉じるようにうなずいた。


 私は頭を下げた。


 その瞬間、遠くで歓声が上がった気がした。


 まだ宮殿の中なのに。


 まだ何も成し遂げていないのに。


 人々はもう、救われる準備を始めている。


 ******


 再登用の知らせが広がると、パリは私の想像より早く反応した。


 街に入る馬車の周りへ、人々が集まってきた。帽子が振られ、声が飛び、何人かは涙ぐんでいた。私の名を叫ぶ声が、石畳に跳ねて窓を震わせる。


「ネッケル!」


「戻ってきたぞ!」


「これで何とかなる!」


 私は馬車の中で、手袋を握りしめていた。


 何とかなる。


 その言葉ほど危険なものはない。


 何が、どう、何とかなるのか。赤字か。税か。パンか。王と身分の対立か。第三身分の不満か。貴族の抵抗か。高等法院の怒りか。人々はそれぞれ違う問題を胸に抱え、同じ名前を呼んでいる。


 ジャック・ネッケル。


 その名前に、別々の願いを入れている。


 私は窓を開け、短く頭を下げた。


 歓声がさらに大きくなった。


 その音の中で、私は自分がもう一人の人間になっていることを感じた。


 私自身と、人々が信じるネッケル。


 二人は似ているが、同じではない。


 屋敷に戻ると、シュザンヌが玄関で待っていた。


 彼女は私の顔を見るなり、静かに言った。


「ずいぶん大きな荷物を持って帰ってきましたね」


「書類はまだ少ないはずですが」


「書類ではありません」


 彼女の視線は、窓の外の群衆へ向いた。


 私は帽子を外した。


「彼らは、私に希望を預けている」


「返せますか」


 私は答えられなかった。


 正直に言えば、返せるかどうかは分からない。財政は破綻寸前で、政治は絡まり、王国は古い制度のまま新しい声を受け止めようとしている。


 それでも、人々は私を見る。


 王も、宮廷も、第三身分も、金融家も、地方も。


 私は椅子に腰を下ろした。


 人気者になった財務官。


 外から見れば、それは栄光に見えるだろう。


 だが、私には分かる。


 人気は椅子ではない。


 立ち続けるための、細い縄だ。


 その縄の下で、王国の時間はすでに崩れ始めていた。


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