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歴史人物ノベル-フランス革命編  作者: Miris
ルイ16世

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第14話 王ではなく囚人として

 1792年の夏、テュイルリー宮殿で、私は国王でありながら自分の名が空洞になっていくのを感じていた。


 ヴァレンヌから戻って以来、私の言葉は以前の重さを失っていた。署名しても疑われる。沈黙しても疑われる。祈っても疑われる。王として何かを望めば陰謀と呼ばれ、何も望まなければ無能と呼ばれる。どちらにしても、信頼は戻らない。


 窓の外のパリは、熱を帯びていた。


 戦争の話、裏切りの噂、王妃への憎しみ、議会の声、クラブの演説。すべてがテュイルリーの壁にぶつかってくる。私は報告を聞き、手紙を読み、時に拒み、時に署名した。だが、どの判断も遅く見えたのだろう。あるいは、もう判断そのものが信じられていなかったのだろう。


 マリーは以前より鋭くなっていた。


 彼女は子どもたちを守るため、王家を守るため、できることを探していた。私より強く見える時もあった。けれど、夜になると彼女の顔に疲れが落ちる。強い人は壊れないのではない。壊れそうな場所を人に見せる余裕がないだけだ。


「あなたは、まだ信じているのですか」


 ある夜、マリーが尋ねた。


「何を」


「彼らと、やり直せると」


 私はすぐ答えられなかった。


 やり直したいとは思っている。だが、信じていると言えるほどの力は、もう胸に残っていなかった。


「流血は避けたい」


 私はそう答えた。


 マリーは目を伏せた。


「それだけでは、相手は止まらないかもしれません」


 その通りだと思った。


 だが、それでも流血を望む王にはなりたくなかった。民を苦しめたくないという最初の願いだけは、どれほど疑われても捨てられなかった。


 その願いが、私を救うのか、さらに縛るのかは分からなかった。


 ******


 8月10日の朝、テュイルリー宮殿は戦場になる前のような音に包まれていた。


 遠くから鐘と太鼓と人々の声が近づく。宮殿の中では兵が動き、侍従が走り、扉が閉まる音が重なった。子どもたちの顔は青ざめ、マリーは彼らのそばに立っていた。私は王として何を命じるべきか、瞬間ごとに問われていた。


 守るために戦うのか。


 流血を避けるために退くのか。


 どちらにも罪がある。戦えば、多くの人が死ぬ。退けば、王権は崩れる。兵士たちは命令を待っている。家族は私を見ている。外の群衆は押し寄せている。


 私はまた、遅いのかもしれない。


 そう思った。


 だが、迷っているだけではない。ここで命じる一言は、人の命を奪う。王の威厳のために、どれだけの血を流してよいのか。私には、それを軽く決められなかった。


 議会へ避難する道が示された。


 私はマリーを見た。


 彼女の目には、怒りとも恐怖ともつかない光があった。戦うべきだと言いたいのかもしれない。王家の尊厳を守るべきだと。だが、子どもたちがいる。彼らの小さな手が、私たちの判断を現実へ引き戻す。


 私は息を吸った。


 怖い。逃げているように見える。だが、ここで残れば宮殿の中で血が川になるかもしれない。


「議会へ行く」


 短く言った。


 マリーの顔が歪んだ。


 それでも、私たちは動いた。


 廊下を進む間、背後の宮殿から音が追いかけてきた。叫び、銃声、崩れるものの響き。私は振り返らなかった。振り返れば、足が止まる気がした。


 王が自分の宮殿を離れる。


 その一歩ごとに、王権の形が崩れていくのを感じた。


 ******


 タンプル塔での生活は、王宮の残骸のような時間だった。


 私たちは閉じ込められた。王としてではない。家族として、囚人として。部屋は狭く、動きは見られ、言葉は数えられる。子どもたちの前でさえ、私は自由に父でいることが難しくなった。


 やがて、私を呼ぶ名も変わった。


 ルイ・カペー。


 その名を初めて正面から向けられた時、私はすぐには反応できなかった。カペー家の名である。間違いではない。だが、そこには王の称号を剥ぎ取る意志があった。あなたはもう陛下ではない。ただの一人の男だ、と。


 不思議なことに、その言葉は完全な侮辱としてだけは響かなかった。


 王でなくなることは、恐ろしい。父や祖父、歴代の王たちにつながるものが断ち切られるようだった。だが、同時に、私の中には別の静けさもあった。王として何も守れなくなった今、私は何として立てばよいのか。


 夫として。


 父として。


 キリスト教徒として。


 その三つは、まだ奪われていない。


 ある日、息子が私の膝のそばに来た。


「父上、外へは出られないのですか」


 小さな問いだった。


 私は胸が詰まった。


「今は、難しい」


「いつか?」


 いつか。


 子どもは未来を自然に信じる。私はその未来を約束できない。父として最も言いたい言葉を、言えない。


 私は息子の髪に手を置いた。


「神に祈ろう」


 それは逃げの言葉に聞こえたかもしれない。


 だが、その時の私に残された、最も正直な言葉だった。


 ******


 王政が廃止されたという知らせを聞いた時、私は窓のない部屋でしばらく動けなかった。


 すでに王としての力はほとんど残っていなかった。テュイルリーは失われ、私はタンプル塔にいる。人々は私を陛下とは呼ばず、ルイ・カペーと呼ぶ。それでも、王政という言葉だけは、どこか遠くでまだ立っているように感じていた。


 その柱も折れた。


 フランスは共和国になる。


 その言葉を聞いた時、怒りより先に空白が来た。私の生まれた場所、父が教えた秩序、祖父が体現した王権、歴代の王たちの名。すべてが一つの決定で過去へ押し込まれる。


 私は自分の手を見た。


 この手に王冠はない。


 だが、王政の廃止は私だけの喪失ではなかった。フランスそのものが、自分を別の形に作り直そうとしている。そこには怒りだけでなく、希望もあるのだろう。王のいない国を、自由な国だと信じる人々がいる。


 私はその希望を完全には憎めなかった。


 民が苦しみから逃れたいと願うことを、どうして憎めるだろう。古い制度に戻ればすべてが救われるなど、今さら言えない。私自身が、その古い制度の重さと遅れを見てきた。


 それでも、王を消せば痛みも消えると考えるなら、それもまた危うい。


 国は一つの名を消すだけで軽くなるほど単純ではない。


 私はそう思ったが、それを国に届ける力はもうなかった。


 夜、マリーにその話をした。


 彼女は黙って聞いていた。


「では、あなたは何になるのですか」


 彼女が尋ねた。


 私は少し考えた。


「あなたの夫で、子どもたちの父です」


 マリーの目が揺れた。


 王ではない答えを、私は初めて自分から選んだ気がした。


 だが、その答えさえ自由には守れなかった。


 タンプル塔では、家族と過ごす時間にも制限があった。誰と話すか、どれほど一緒にいるか、何を渡すか。父として自然にできるはずのことが、許可のいる行為になる。王冠を失ったあとも、私はただの家庭人にはなれなかった。


 娘が本を読んでほしいと言った夜、私はできるだけ穏やかな声でページを開いた。


 物語の中では、善い者が試練を受け、最後に救われる。子どものころなら、私もそういう結末を信じただろう。今は、読みながら胸が痛んだ。現実の試練は、正しい者を必ず救うわけではない。間違えた者だけが罰を受けるわけでもない。


 それでも、私は声を止めなかった。


 娘が少しでも物語の中へ逃げられるなら、それでよかった。


 読み終えると、娘は小さく言った。


「父上は、怖くありませんか」


 私は本を閉じた。


 怖い。


 もちろん怖い。


 だが、そのまま言えば、子どもはさらに怖くなる。嘘をつけば、私の声は空になる。


「怖い時もある」


 私は答えた。


「でも、怖い時にも、してよいこととしてはならないことがある」


 娘は黙ってうなずいた。


 私はその横顔を見て、父として残せるものの少なさを知った。


 財産も地位も安全も渡せない。


 渡せるのは、恐れの中でどう立つかという、頼りない姿だけだった。


 その頼りなさを、私は以前なら恥じただろう。


 王は強くあるべきだ。父は子どもを安心させるべきだ。夫は妻を守るべきだ。どれも正しい。だが、今の私にはそのすべてを形にする力がない。ならば、せめて偽らずに立つしかない。


 私は娘の本を閉じ、祈りの言葉を短く唱えた。


 声だけは、震えないようにした。


 子どもは、父の声の震えを大人より正確に聞くからだ。


 せめて声だけでも、父でありたかった。


 ******


 裁判の場で、私は王ではなく被告として立たされた。


 国民公会の空気は、かつての宮廷とはまったく違った。そこでは王の沈黙に敬意はない。私の言葉は疑われ、書類は突きつけられ、過去の判断が一つずつ別の意味を与えられていく。私が迷ったこと、遅れたこと、署名したこと、拒んだこと、逃亡したこと。すべてが罪の形に並べられた。


 私は無実だけを叫べばよかったのかもしれない。


 だが、何もかも自分に責任がないとは言えなかった。私は民を憎んだことはない。国を売ろうとしたつもりもない。だが、私の判断が遅れ、私の沈黙が疑いを生み、私の逃亡が信頼を壊した。その結果を、ただ陰謀や悪意だけのせいにはできない。


 それでも、私は自分の心の中の真実だけは守りたかった。


「私は、民を苦しめたいと思ったことはない」


 声は大きくなかった。


 議場の空気が動いた。


「王として誤ったことがあったとしても、フランスを害する意志はなかった」


 言いながら、それで許されるとは思っていなかった。


 意志がなかったことと、結果がなかったことは違う。善意は盾にならない。私はそのことを、この長い年月で嫌というほど知った。


 だが、善意がすべて無意味だったとも思いたくなかった。


 私の弁護人たちは尽くしてくれた。言葉を整え、法を挙げ、私を守ろうとしてくれた。その姿を見て、私はありがたさと申し訳なさを同時に感じた。彼らの努力も、時代の流れの前では細い糸のように見えた。


 判決の気配は、言葉になる前から分かっていた。


 死。


 その文字が近づいてくる。


 私は目を閉じた。


 王でなくなった私は、最後に何を守れるのか。


 王冠はもう守れない。


 ならば、残されたものを守るしかなかった。信仰。家族への愛。そして、自分が最後にどんな顔で死へ向かうか。


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