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歴史人物ノベル-フランス革命編  作者: Miris
ルイ16世

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第15話 最後の朝

 1793年1月20日の夜、タンプル塔の部屋で、私は死刑判決を受けた男として家族を待っていた。


 王としてではない。陛下としてでもない。明日の朝には命を失う者として、私は椅子に座っていた。部屋の壁は冷たく、蝋燭の火は小さく揺れている。外の足音が聞こえるたび、胸が締めつけられた。


 家族に会える。


 それは喜びのはずだった。


 だが、最後の別れとして会う喜びほど残酷なものはない。会いたい。けれど会えば、彼らを泣かせる。抱きしめたい。けれど抱きしめた腕を、明日には離さなければならない。


 扉が開いた。


 マリー、娘、息子、そして妹。彼らの姿を見た瞬間、私は立ち上がった。王としての礼儀ではなく、体が勝手に動いた。マリーの顔は白く、けれど崩れてはいなかった。娘は泣き、息子は状況をすべて理解しきれないまま、こちらを見ていた。


「父上」


 その声で、胸が壊れそうになった。


 私は息子を抱きしめた。


 小さな体の温かさが腕に残る。私はこの子を守りたかった。娘も、マリーも、家族を守りたかった。そのために選び、迷い、遅れ、失った。守りたいという願いが、必ずしも守る力になるわけではないことを、私は遅すぎるほど知った。


 マリーが私を見た。


 言葉はいくつもあったはずなのに、私たちはしばらく何も言えなかった。


 夫婦になれなかった時期が長かった。言葉を渡すのが遅く、彼女を何度も一人にした。華やかな王妃として見られ、憎まれ、孤独を背負わせた。謝りたいことは多すぎた。


「あなたを、十分に守れなかった」


 私は言った。


 マリーの目が揺れた。


「今は、そのようなことを」


「言わせてください」


 私は首を横に振った。


 明日になれば、もう言えない。


「私は不器用で、遅く、迷ってばかりでした。それでも、あなたと子どもたちを愛していました」


 マリーは唇を噛み、涙をこらえるように目を伏せた。


「知っています」


 その一言で、私は救われた気がした。


 完全にではない。罪も後悔も消えない。けれど、最後に彼女へ届く言葉が一つあった。それだけで、私は少し息ができた。


 ******


 家族と別れる前、私は息子の前で膝を折った。


 小さな顔は涙で濡れていた。まだ幼い。政治も裁判も、王政の終わりも、すべてを理解するには小さすぎる。だが、父が明日いなくなることだけは分かっている。その理解が、子どもの顔にあってはならない影を落としていた。


「私のために、誰も恨んではならない」


 私は言った。


 息子は泣きながら首を振った。


 分からなくて当然だ。父を奪う者を恨むなと言われて、幼い子がすぐ受け入れられるはずがない。それでも、言わなければならなかった。憎しみは血の中に残る。私の死が、子どもの心に復讐として根を張ることだけは避けたかった。


「神の前で、赦すことを覚えなさい」


 自分で言いながら、残酷な言葉だと思った。


 赦すことは、大人にも難しい。ましてこの子には重すぎる。けれど、王家に生まれた子どもたちは、いつも重すぎるものを渡される。私もそうだった。兄と父の死のあと、王太子という名を渡された。


 せめて私が渡す最後のものは、憎しみではないものにしたかった。


 娘にも、同じように言葉を残した。


 母を助けること。弟を思うこと。神を忘れないこと。父の失敗まで背負う必要はないこと。けれど、言葉を重ねるほど、娘の涙は増えた。


 マリーはそれを見ていた。


 彼女の顔には、妻としての悲しみと、母としての怒りが同時にあった。私が赦しを口にするほど、彼女にはそれが別の痛みに聞こえたかもしれない。彼女はまだ生きて、子どもたちを守らなければならないのだ。


 私は彼女に頭を下げた。


 王としてではなく、夫として。


「子どもたちを、頼みます」


 マリーは答えず、ただ私の手を握った。


 その強さで、私は彼女がどれほど怒り、どれほど悲しみ、それでも崩れまいとしているかを知った。


 別れの時間が終わる時、子どもたちは私から離れようとしなかった。


 監視の者たちは待っている。時間は決められている。最後の別れでさえ、私たちだけのものにはならない。私は息子の背を撫で、娘の額に口づけた。


「もう一度、明日の朝に」


 息子がそう言った。


 私は一瞬、答えられなかった。


 約束はできない。会えないと告げることもできない。どちらを選んでも、この小さな願いを壊すことになる。


 私は膝をつき、息子の目を見た。


「神の中で、また会おう」


 子どもには遠すぎる答えだった。


 それでも、私にはそれしか言えなかった。


 扉が閉まったあと、私はしばらく立ったままだった。腕の中に、まだ子どもたちの重さが残っている。その重さが消えていくのが怖くて、私は手を握った。


 最後に残る痛みは、王冠ではなかった。


 家族の温かさだった。


 その温かさがあるから、死が怖い。


 何も持たない者なら、もっと静かに歩けただろうか。そう考えて、すぐに違うと思った。人は何かを愛するから怖い。怖いからこそ、最後に何を愛していたのかが分かる。


 私は家族を愛していた。


 それだけは、判決でも奪えなかった。


 奪えないものが一つでも残っているなら、私は完全には空ではなかった。


 その事実に、私は最後の夜になってようやくすがった。


 ******


 家族との別れが終わったあと、部屋はあまりにも静かだった。


 彼らの泣き声が遠ざかっても、耳の奥には残っていた。私は椅子に座り、手を見つめた。この手で何を守れただろう。何を落としただろう。王冠も、国も、信頼も、家族の安全も、指の間からこぼれていったように思える。


 それでも、まだ選べることがある。


 憎むか、憎まないか。


 私は自分を裁いた者たちを完全に理解しているわけではない。彼らの中には憎しみもあっただろう。恐れも、思想も、民への責任もあったのだろう。私を殺すことで国が救われると信じた者もいるのかもしれない。


 私は無実を主張したい。


 けれど、彼らすべてを悪と呼ぶことはできなかった。


 私の時代は壊れた。私も、その壊れ方の一部だった。もっと早く見ていれば。もっと早く選んでいれば。もっと人々の苦しみを近くで受け止めていれば。そう思うことは尽きない。


 司祭がそばにいた。


 祈りの言葉が静かに部屋を満たす。父が教えた信仰。少年のころ、礼拝堂で兄と父の死を受け止めきれずに祈った私。王になった日に、若すぎますと神に訴えた私。そのすべてが、ここへ戻ってきたようだった。


 私は祈った。


 家族のために。


 フランスのために。


 そして、自分を死へ送る者たちのために。


 赦すという言葉は、簡単ではない。怒りがないわけではない。恐れがないわけでもない。死にたくないという思いが消えるわけでもない。


 だが、憎しみを抱いて死ねば、私に残された最後の自由まで奪われる気がした。


 王冠は奪われた。


 命も奪われる。


 それでも、最後にどんな心で立つかだけは、まだ私のものだった。


 ******


 1793年1月21日の朝、パリの空は冬の冷たさをまとっていた。


 私はタンプル塔を出た。馬車へ向かう足取りは、自分で思ったより確かだった。怖さが消えたわけではない。ただ、怖さの置き場が決まったのだと思う。逃げられないものを前に、人は時に静かになる。


 馬車は市中を進んだ。


 窓の外には兵が並び、人々がいた。沈黙する者、見る者、何かを叫ぶ者。かつてパリへ入った時、私は民の顔を初めて近くで見た。あの時から何年も経っていないのに、別の人生のように遠い。


 私は彼らを見た。


 この人々が、私の民だった。


 私を信じた者もいただろう。憎んだ者もいただろう。飢え、怒り、期待し、失望した者も。私は彼らを十分に知らなかった。王でありながら、彼らの生活から遠すぎた。


 その後悔は消えない。


 だが、今さら自分を正当化するためだけに彼らを責めたくはなかった。民が怒ったのは、民が邪悪だからではない。時代が痛み、制度が詰まり、私たちが遅れた。その中で、人々は自分たちの言葉を手に入れた。


 私はその言葉に飲まれる王だった。


 それでも、私は人として死にたい。


 馬車の中で祈りの言葉を口の中で繰り返した。手は冷たかったが、震えは少しずつ収まっていた。


 革命広場が近づく。


 外の音が大きくなった。


 私は目を閉じ、マリーと子どもたちの顔を思い浮かべた。彼らに残せるものは少ない。王冠も領地も安全も渡せない。ならば、せめて最後の姿だけは、恥じるものにしたくなかった。


 ******


 革命広場で馬車を降りた時、私は空を見上げた。


 冬の空は高く、冷たく、何も答えなかった。広場には多くの人がいた。兵、役人、群衆。彼らの視線が私に集まる。ヴェルサイユで兄の後ろに隠れていた少年が、最後には国全体の視線の前に立っている。そのことが、不思議なほどはっきり分かった。


 私は階段へ向かった。


 足元は確かだった。司祭の声が近くにある。私はそれを支えにした。王としての威厳を見せたいのではない。強い男として見せたいのでもない。ただ、最後に取り乱して家族をさらに苦しめたくなかった。


 人々の前で、私は口を開いた。


 自分が無実であること。自分の死がフランスの幸福につながることを願うこと。私を死に追いやる者たちを赦すこと。言いたいことは多くなかった。最後の言葉は、短くなければ届かない。


 だが、声は太鼓に遮られた。


 私の言葉がどこまで人々に届いたのか、分からない。


 それでも、言おうとした事実は私の中に残った。


 私は憎しみを最後の言葉にしなかった。


 それだけは守った。


 目を閉じる前、私は一瞬、ヴェルサイユの礼拝堂を思い出した。父の死後、王太子として祈ったあの冬の光。私はあの時、「王になる者なのか」と問いを投げた。誰も答えなかった。


 長い年月を経て、ようやく少し分かった気がした。


 私は王になる者だった。


 だが、王であることを最後まで正しく果たせたわけではない。


 それでも、人として最後に何を残すかは選べた。


 私は祈った。


 家族を。


 フランスを。


 そして、私の失敗の上に生きていく人々を。


 王冠の重さは、もう頭にはなかった。


 最後に残ったのは、ただ静かな祈りだった。


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