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【彼女の計画_外伝】新作公開!影たちの物語 ~無名の痕跡の章~「彼女の計画」の周りにいた誰にも気付かれなかった人たちの記録  作者: Taku
【無名の痕跡】『彼女の計画』の周囲で生まれた、 "名もなき人々の痕跡"

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第7章 無名の痕跡 第3話「匿名の通報者」

私は、あのアカウントを知っていた。


「stocking_night_0612」。


パンストの写真と、短い言葉。

孤独で、滑稽で、どこか切ない。

最初はただの暇つぶしだった。

仕事が終わって家に帰り、スマホを開く。タイムラインをスクロールしているうちに、そのアカウントにたどり着いた。


私はその投稿に「いいね」を押し続けた。

私は匿名が好きだ。誰かを応援できる。誰かを傷つけることもできる。そして、何より自分は傷つかない。

このアカウントへの「いいね」に、深い意味はない。ただの「見た」という痕跡。

関わる勇気など、欠片もなかった。


ある日、職場で小さな噂を耳にした。

非常階段で、誰かと誰かが密会しているらしい——

その「誰か」が、あのアカウントの主だと気づいた瞬間、私はぞっとした。


かねてより、自分と同じ会社の誰かではないかと思いを巡らせていた。

写真に時々映る風景。投稿の時間帯。仕事の愚痴の内容。だからといって、どうということはなかった。あの噂が流れるまでは。あの誰かが特定されるまでは。


私は怖くなった。

自分がそのアカウントを知っていることがバレたら。

自分の「いいね」が誰かに見つかったら。

でも、その恐怖と同じくらい、自分が何もしないでいることにも耐えられなかった。


だから、私は新しいメールアドレスを作った。

捨ててもいいアドレス。

そして、当事者と思われる女性に短いメッセージを送った。


『非常階段で見ました。噂のあの男性と女性が。』


それだけ。

名前も、証拠も、何も書かなかった。

送信した後、すぐに後悔した。

これは、誰かを傷つけることになるのではないか。でも、もう取り消せない。

正義感だと思うことにした。

……そう思わなければ、

あの送信ボタンは押せなかった。


その後、私はそのアカウントを見なくなった。

「いいね」を押すのもやめた。

フォローを外した。

アカウントを削除しようか迷ったが、結局できなかった。

「自分だけがいなくなっても、何も変わらないだろう」と思ったからだ。



数年後、あの小説が話題になった。


『彼女の計画』。


小説を手に取ることはなかった。

書店で平積みになっているのを見るたび、胸の奥がざわついた。


でも、私には読む勇気がなかった。

内容を少しだけ知ったとき、胸の奥が重くなった。

私が送った一通のメールが、物語のきっかけの一つになったのかもしれないと、薄々感じていたからだ。


私は今でも、あの時のことを思い出す。

匿名で送った一通のメールが、誰かの人生を、静かに、しかし確かに動かしたことを。

時を経た今では、善意ではなかったと言える。それが、自己満足だったのかすら、今でもわからない。


ただ、確かなことは一つだけだ。


私は、直接関わる勇気はなかった。

だから匿名になった。

名前を隠し、顔を隠し、責任を隠した。


それでも一通のメールは残った。


私の名前は残らなかった。


それが、私のしたことだった。

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