第6章 拓と瞳、光莉の章 第8話(5/5)【十年——それぞれの問い】(光莉の視点)
9. 十年——答えのかたち
旅の最終年。十年の月日が、光莉の心象風景を一つの美しい結晶へと変化させていた。彼女はある夕暮れ、旅の終わりの空を見上げながら、一つの真理に気づいた。
(私は、お父さんの『わからない』という核を探すために、この10年の旅を始めた。でも、旅の途中で出会った人たちの鏡の中に映っていたのは、お父さんではなく――私自身の核だったんだ)
(お父さんは『わからないまま殻にこもる』を選んだ。お母さんは『醜さも全部受け入れる』ことを選んだ。純さんは『言葉で暴き、書く』ことを選んだ。康介さんは『視線で静かに見守る』ことを選んだ。沙織さんは『痛みを画布に描き続ける』ことを選んだ。Eさんは『何者でもない普通でいる強さ』を選んだ)
(では、彼らの血と因果を引き継いだ、この私は一体、何を選ぶのか)
(私は――「わからないからこそ、一生問い続け、考える」を選ぶ)
(それこそが、私の、私だけの核だ)
その夜、光莉は旅のノートの最後の一ページに、力強く書き記した。
『十年。父の言葉の断片を集め、母のノートを読み返し、純の小説を再読し、康介の言葉を反芻し、Eのメモに思いを馳せ、沙織の画布に込められた視線を感じ取る。』
『それは、父の核を探す旅だった。でも、その先にあったのは、私自身の核の獲得だった。』
『私は、父と母の物語を調べ尽くした。でも、その先にあるのは、これから始まる私自身の物語だ。』
『そして今、この長い旅を終えて、私はようやく理解した。答えを安易に出さず、問い続けること。混迷の世界を考え続けること。それこそが、光莉という人間の生き方なのだと。』
窓の外では、10年前の旅立ちの朝と同じ、無数の星々が静かにまたたいていた。
その光の座標のどこかに、父がいる。母がいる。純がいる。康介がいる。Eがいる。沙織がいる。
すべての因果のネットワークが、自分を全方位から見守っているのを感じながら、光莉は、そっとノートを閉じた。




