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【彼女の計画_外伝】新作公開!影たちの物語 ~無名の痕跡の章~「彼女の計画」の周りにいた誰にも気付かれなかった人たちの記録  作者: Taku
【彼女の計画_外伝】 影たちの物語 ~拓と瞳、光莉の章~

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第6章 拓と瞳、光莉の章 第8話(3/5)【十年——それぞれの問い】(光莉の視点)

6. E——普通でいることの強さ


六年目を過ぎた頃、光莉は旅の速度を意識的に少し落とした。がむしゃらに過去を知る必要はもうない、と思えたからだ。誰かに会うためではなく、自分の足が大地を踏みしめる感覚そのものを確かめるための時間が増えていった。


次に探すべき『E』という人物については、かつてAIレポートの片隅に残された、あの短い数行のログの主、それ以外の情報は何もなかった。


――その人が今、どんな顔をして、どんな風に生きているのか、想像すらつかなかった。


ようやく探し当てたEは、中年の驚くほど「普通」の女性だった。

地方都市のありふれたスーパーの事務員として働き、普通に近所の人と挨拶を交わし、普通に笑い、普通に暮らしている。かつて騒動の渦中にいた人という面影など微塵も感じられなかった。


駅前の喫茶店で向き合った光莉が、「Eさんは、あの事件の後、どうやって自分を変えたんですか?」と問いかけると、Eは少し困ったように微笑みを返した。


「自分を変えた、なんて大層なことじゃないのよ。ただね、私は特別優秀な人間でも、正義の味方でもない。どこにでもいるちっぽけな人間なんだって、受け止めたの。そんな自分でも、せめて目の前の小さな生活だけはしっかり生きようって、普通にできることを少しずつやっていっただけ」


「後悔は……ないんですか?」


「後悔ねえ――」


Eは窓の外を通る買い物帰りの主婦たちを眺めた。


「もし、あの時あの場所に、あのメモを置かなかったら、今の私はいない。でもね、メモを置いたからって、世界が劇的に変わったわけでもない。ただ、私は少しだけ、自分自身の意志で動けるようになった。それだけのこと。特別じゃない、ただの人になるための、長い回り道だったのよ」


光莉はその夜、安宿の蛍光灯の下でノートを広げた。


『Eさんは「普通」であることを選んだ。世界の中心にいなくても、特別なヒーローじゃなくても、そこに静かに佇んでいるだけでいい。――それこそが、彼女が獲得した、普通に生きるということの強さなんだ』



7. 母——受け入れるということ


旅の七年目。巡り巡って、光莉は一度、実家へと母を訪ねた。


久しぶりに帰省した実家で、母・瞳は変わらず優しく迎え入れてくれた。美味しい手料理、あたたかいお風呂。でも、その底なしの優しさの裏側に、かつて自身の最も見られたくない心の内側を「晒され」、その傷を抱えて生きてきたことを、今の光莉はもう知っていた。


夜、二人きりのリビングで、光莉は母に尋ねた。


「お母さんは、あの酷い事件の後、どうやって自分自身を受け入れられたの?」


瞳は、洗い物の手を止め、少し遠い目をしながら言った。


「逆なのよ、光莉。私はね、あの時すべてを世間に『晒された』ことで、初めて自分を受け入れられたの」


「え……?」


「それまでの私は、綺麗で、特別で、傷つかない人間であろうとして、ずっと『物分かりの良い、受け入れるふり』をしていたの。でも、あのことがきっかけで、私の醜い欲も、嫉妬も、世間に剥き出しにされた。その時、初めて思ったの。『ああ、これが私なんだ。こんなに醜くて弱いのが、私なんだ』って。ふりをするのをやめた時、初めて自分の足で立てたのよ」


「辛くなかったの……?」


「すっごく辛かったわよ。世界中で私一人だけが裸にされて、石を投げられているみたいだった。でもね、その絶望の次後に、不思議と穏やかな気持ちが来たの。これが私。ここからしか、私の人生は始まらないって。だから私は、お父さんと一緒に、その醜さも全部抱えて生きていくって決めたの」


母の横顔には、かつて純の小説に書かれたような「狂気さ」は微塵もなく、ただ広大な海のような穏やかさがあった。


光莉はその夜、自室のベッドでノートに書いた。


『母は「受け入れる」ことを選んだ。自分の醜さも、弱さも、過去の汚名も、全部ひっくるめてこれが自分だと、ふりをやめて微笑むこと。それが母の強さだ』

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