第5章 純の章 エピローグ【観察者はいつか創作者になる】
拓と瞳と純の三人が揃うのは何年ぶりだろう。
光莉が訪ねてきてから数年後、三人は会った。
もう、話すことはなかった。
三人の答えは出ていたから。
でも、会わずにはいられなかった。
すべてが始まった場所に、カフェ「あおい」に、いたかった。
もしかすると、あれが、私たちにとっての『彼女の計画』の終わりかもしれなかったから。
そして、さらに年月が経った。
私は、もう年老いた。手の震えが、時々気になる。でも、書くことはやめていない。書かずにいられないから――あの頃から、何も変わっていない。
ある日、若い作家から手紙が届いた。
「純先生、私はあなたの『彼女の計画』を読んで、作家になりました。あの小説の中で、観察者が創作者に変わる瞬間を、私は見ました。私も、その瞬間を生きたいと思いました。ありがとうございます。」
私は、その手紙を何度も読み返した。
(私の刃は、この歳まで年齢を重ねても、いま、また誰かに届いた。今度は、傷つけるためではなく――)
(いや、それも自己欺瞞か。私の小説が誰かを傷つけたことも、また事実だ)
(でも、それでもいい)
(刃は、傷つけることもあれば、何かを切り開くこともある)
(それが、表現というものだ)
返事を書こうとして、ペンが止まった。
何を書けばいいのか、わからなかった。でも、すぐに思い直した。
(わからなくていい。私が書くべきは、答えではなく――問いだ)
(それが、私が観察者から学んだことだ)
ペンを走らせる。
「あなたの刃で、何を切り開きますか。それが、私からの問いです。」
封をして、ポストに投函した。
窓の外では、夕日が沈もうとしている。
明日も、また同じ一日が始まる。
私は、また書く。書かずにいられないから。
その繰り返しが、私の「刃」を、少しずつ研いでいく。
――まだ、完成しない。
でも、それでいい。




