第2章 沙織の章 第1話 【選別(小学三年生)】
クラスで「絵の上手い子」と言われるようになった。休み時間になると、女の子たちが集まってくる。
「沙織ちゃん、私の似顔絵描いて」
「私も!」「私も!」
沙織は、誰に描いてあげるかを選んでいた。
人気者の女の子が近づいてくると、沙織はにっこり笑って鉛筆を走らせた。相手の顔がほころぶ瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。この子は今、私の絵で満たされている。一方、教室の隅で本を読んでいる子が、遠慮がちに近づいてきたとき、沙織は視線を逸らした。
「ごめんね、今ちょっと忙しいの」その子が小さくうなずいて去っていく後ろ姿を、沙織は最後まで見送った。
指先が、わずかに熱を帯びていた。
私は、この子を選ばなかった。
その事実が、背骨のあたりをくすぐるように、静かに快感を運んできた。
ある日、一人の女の子が、沙織の席に来て、じっと立っていた。その子は、いつも休み時間は一人で本を読んでいる子だった。目が合った。その子の目は、少し潤んでいた。
「……あの。私の絵、描いてくれない?」
沙織は一瞬迷った。周りにいる人気者の子たちが、こちらを見ている。その目は「あの子に描くの?」と言っているようだった。
沙織は微笑んで言った。
「ごめんね、今いそがしいの」
その子は、何も言わずに去っていった。その後ろ姿を見送りながら、沙織は喉の奥がかすかに渇くのを感じた。それは、罪悪感ではなかった。私が、この子を選ばなかった。私が、この子をここから追い出した。その自覚が、背筋をぞくりと撫でた。




