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第1章 Eの章 Eの選択―彼女の静かな核― 第1話 【その後】
新しい職場でのEは、目立たない存在だった。
でも、頼りにされることは多かった。
任された仕事は確実にこなし、困っている後輩がいればそっと手を貸す。
報告書の書き方で迷う子には、自分の経験を簡単に伝える。
会議の準備で残っている同僚には、
「何か手伝えることありますか」と声をかける。
何かを変えようとしているわけではない。
ただ、その場でできることを、そのままやっているだけだ。
ある日、Eは古い書類を整理していた。
資格試験の合格通知書が出てきた。
あの日、渡り廊下に立った日のもの。
非常階段の二人と、それを見ていた誰か。
そして、自分が置いた一枚のメモ。
Eは、その紙をしばらく見つめた。
(あの時、私はメモを置いた。それだけのことだ)
(もし置かなかったら、今の私はいないのかもしれない)
彼女は通知書をファイルに戻した。




