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side龍樹 秘め事は思ったよりも、闇深い物でした。



――3日前。お昼頃。



 リルドさんとタミコさんが退室した後、病室は僕とミオの二人きりとなってしまった。

 ナイトさんは恐らく、彼女の元へと向かっただろう。昼休憩だと思うし、ミオも何も言わないからいっか。


「あの。き、今日は突然、ここに来て、その、ごめん」


 僕は咄嗟に謝った。

 だって、無断で盗み聞きをしてしまったから、きちんと改めて謝らないと。


「いや。もう謝んなくていいって。何回謝るんだよ。それにボクは怒ってないし……」


 しかし、彼は表情を変えず、いつものドライな口調でパイプ椅子に座る僕を見る。


「そう……」

「あ。それよりさー。これ……」


 だけど、言葉を詰まらす僕を横目に、彼は思い出したかのように引き出しからある物を取り出すと、僕に見せてきたのだ。


「ん? それって……」

「……、死んだ両親の、形見だよ」

「かた、み?」

「そう。これのお陰で、ボクは今日まで、何とか生き延びられた。て思いながら過ごしていたんだ」

「……」


 それは、リアルな彫刻で出来た熊の顔が真ん中に付いた、十字架のペンダントだ。鉛色というか、光沢があるが、少しだけ年季が入っている。

 そういえばフグトラさんもヒガンさんも、首元には似たような物を身につけていた気が……。


「……これはね、身につけるだけで、『ベローエの幹部』でもあり『教祖直系の血筋の者』の証でもあるんだ。自由になりたいボクにとっては、枷みたいな物だよ」

「枷……」

「ちなみにフグトラさんやヒガンさんは『ベローエの幹部』のみの権限が付くんだけど、ボクが持っているこれだけは違うんだよね」

「それって……」

「つまり、敵さんの狙いはボクではなく、『これ』なんだよ」

「……」

「これさえ敵さんに渡しちゃえば、ボクは自由の身になれるし、フグトラさんもヒガンさんも戦わなくて良くなるんだけど、どうしても手放せなくて……」


 あー。そういう事か。

 分かりたくなかったのに。

 この時、僕は全てを分かってしまったのだ。


 敵さん。つまり君が元いた『ベローエ』の者達は、『ミオ』が狙いではなく、『ミオが持っている両親の形見』が本当の狙いだと言うことが。

 つまり、僕の考えが正しければ、形見さえ手に入れば、ミオは用済み。という。


 そんな馬鹿げた展開があってたまるか。


「……なら、無理して手放さなくて、いいと思う」

「龍樹……」

「それに、両親から貰った大事な物なら、ずっと持っていればいいよ」

「……」

「それに、わざわざ首飾りだけをピンポイントで狙うということは、敵にとっても『余程重大な物』である証拠だし」

「……」

「そういうのは、尚更、安易に渡して良いものじゃない。と、僕は思う」

「……」


 彼は黙りこくってしまったが、それと同時に、真剣に僕の話を聞いている様にも見えた。


 でも、これは本当に思っている事だ。取り繕う事も一切していない。


 それに……。


「実は、最近、分かったことがあってさ」

「……え?」

「この無駄に記憶力が良いの、お母さん譲りなのかも」

「まさかの、遺伝だったの!?」

「そうそう。父さんから聞いた事なんだけどね」

「はぁー。んで、その無駄に強い正義感も。てこと?」

「その通り。だから、今後もダメだ。と、僕が思ったら、君の事、全力で止めるから」

「止めるって……」

「さっきみたいに、大事な物を、安易に敵さんに渡そうとしたら。て事だよ」

「あぁ。それは浅はかだった。うん。龍樹ごめん……」

「いいよ。別に……」


 でも、普段の学校の雰囲気とは、全くかけ離れた病室せいか、妙に空気は重たいが、何故か言いたいことが言える。

 生徒会室や教室だと、他の人の目もあるし、カンナの目もあるから、二人きりでこんな深い話はできない。

 だけど、ミオがこんなにも真剣な眼差しで自分の家庭事情を話してくるのは、あの時、彼の実家から連れ出して、僕の部屋へ匿った時以来かもしれない。


「それに……、あーあ。結局、リルドさんやタミコさんにも言えなかった。『君のおじいさん』の姿を見たことがある。て」

「それ、わざわざここで言う事?」

「え!?」

「はぁ。龍樹は相変わらず、分かってないなぁ。いくら病室の個室とはいえ、誰が聞いているか分からないのに、それ聞いたらヤバいって事ぐらい、分かるでしょうが!」

「あはは。確かにその通りだった。ごめんな」


 そのせいか、調子に乗って秘め事をポロッと言ってしまった僕は、彼に叱られた後、再度、彼に謝ったが、迂闊だったのは本当だ。 


「別に。まぁ、少しだけ、気が落ち着いたよ」

「なら、良かったけど……」

「でも、八雲さんが不登校になって、龍樹とカンナさんに会うまでの間、ずっと地獄だったのは、本当だよ」

「えっ……、地獄!?」

「誰にも言えなかったしね。確か、二学期から三学期の初めまで、たった3、4ヶ月だったけども、ものすごく苦しかったなぁ……」

「……」

「これは、ボクが身に感じた事だけど、虐められるって、相当、心が抉り取られるんだ。て……」

「……」

「と言ったけど、抉るの次元じゃないんだよ。何回『死のう』て思っていたのか、分からないほどだったよ。例えるなら、無間地獄を生身で感じている。心も身体も、雑巾のようにズタボロにやられてさ。人間の尊厳なんて、何処に行っちゃったんだろう。て思う程だ」

「……」

「ねぇ。龍樹。法律って、何のためにあるんだろうね」

「……」

「少年法なんて、消えちまえばいいのに。ね。虐めじゃなくて、『犯罪』だよね。て……。ずっと思いながら、過ごしてきたんだ。誰にも言えず……」

「……」

「こんな事……、言ったら、フグトラさんとか、ヒガンさんに、とても迷惑が、かかっちゃうって思って……、ずっと、隠してたんだ。ナイトさんにも、言ってなくて……」

「……」

「ごめん。ごめん。ごめんね。龍樹……、たつ、き……、あぁ……、うっ……ぅわぁぁあああああ!」

「……」

 

 彼は今まで見た事のない程の泣きじゃくった顔で全てを語り終えると、布団に顔を埋めて大泣きしてしまったのだ。


「……」


 この時の僕は、頭の中の線が一本、静かに切れた気がする。


「……」


 無言で自身のスマホを取り出すと、ある人物の元へ、通知を打ち込んで送ったのだ。


 これでいい。

 もう、全員に優しさを振りまくのは、今日で『おしまい』にしよう。

 これからの僕は『守る者のため』なら、冷酷にでもなろう。例えそれが『直接下して無い』としても……。


「……よく、耐えたね」

「!!」

「僕もそうだけど、今度、何かあったら、大人に頼りなよ」

「……」

「今、君にはさ、とても心強い味方がいるじゃないか。だから、1人じゃない。それだけは覚えておいて」

「……あり、が、とう」

「じゃあ、退院したら、コーラ、3種類奢ってやる」

「……」

「だから、共に立ち向かおう。な」

「……うん」


 僕はそう言い残すと、静かに彼の病室を後にした。


「……あ」

「遅クナッタ」


 すると、階段側の廊下から、ナイトさんがこちらに向かって歩いてきたのだ。


「いえ。すみません」

「謝ルナ。ソレト……、フッ。Mersi.(メルシー)」

「ぅええっ!?」


 しかし、彼は鼻で軽く笑いながら僕に挨拶を交わすと、ミオの病室へと入って行ったのだった。


 めめ、メルシぃー!?

 突然、謎の言語で言い返されたせいか、内心パニクってしまったが、今度、検索してみよう。


「はぁー……」


 廊下で一つ、ため息をついたが、これで良いんだよな。

 僕は右手に持つスマホを震わせながらも、足取りが重い中、自身の病室へと向かう。


「あっ……」

「おっかえりぃ~。待ってたよ!」


 すると、病衣姿でパイプ椅子に座りながら、美味しそうに缶タイプのトマトジュースを飲むシイラさんがいたのだ。相変わらず何を考えているか分からないほどの、不気味な笑みを浮かべているが……。


「待ってたって……」

「え? あぁ。さっきはありがとね~」

「いえいえ。それと、一つだけ、聞きたいことがあったのですが……」

「ん?」

「えっとその……、何で『取り巻きの名前』を知りたがっているのか、僕的には聞いても無価値だと思っていたから、かなり気になったので……」

「うーーん。確かに龍樹君にとっては『無価値』だろうね。ま。答えは至ってシンプルさ!」

「えっ!?」


 しかし、彼は優雅にトマトジュースを半分程飲むと、静かに答えたのだ。


「単純に僕らの裏ビジネスに絡んでいるから。というのは、表向きとして……」

「表向き、ですか……」

「そうそう。本当はカンナもまた、龍樹達に隠れて『虐められている』んだよね」

「……は?」


 何だろう。また、僕の中で音もなく、心の何処かが崩れた様な気がした。


「しかも、内容も真生の時以上に、かなりえぐいね。とても悪質だし、下手したら犯罪だ。僕でさえ、こうして怒りが震える程にね」

「……」


 まさか、カンナはタミコちゃんに会う『前』から、あの取り巻き達に虐められていた。というのか。僕に対して、あんなに明るく振舞っていたのも、無理をしていたから。というのだろうか。


 何でこんなにも近くにいたのに、気がつけなかったんだ!?


 僕の中で、後悔と憎悪が入り混じっている。


「これは直接、彼女から僕に言ってきたんだ。『助けて。お兄ちゃん』とね」

「……」

「カンナは君達には絶対、助けを求めない。昔からそうさ。あの時だってそうだった。警察ではなく、いつだって僕だった……」

「……」

「でも、君達を信じていない。て言う訳では無いから、そこは安心してね。内容が内容なだけに、僕にさえ、言うのも気まずかったらしい」

「……」

「そのせいか、発見が遅くなってしまったから、僕はとても悔しい、というのもあるけど……」

「……」


 だけど、僕は何も言えず、ただただ、静かに話を聞くしか出来なかった。

 彼はと言うと、先程の笑みが消え、無表情だが僕にも分かりやすく、簡潔に淡々と、語り続けている。


「それと、カンナの件に関しては、真生は全く関わっていない。そもそも彼にカンナを虐める利点が『全く無い』からさ……」

「……」

「それに……。龍樹君も気づいていたと思うんだけど……」

「……」


 彼は静かにトマトジュースを飲むと、こう告げたのだ。


「彼単体にはそもそも、人を纏める『統率力』が、皆無だからね」

「……は?」

「龍樹君に対して、悪魔的に心酔しちゃう子がさ、自分から虐めを主導するとは思えないんだ」

「ええっと、それ、どういう、意味ですか!?」


 突然、訳が分からなくなった僕は、咄嗟に彼に聞くと、不敵に笑いながらこう、静かに答えたのだ。


「だって、下手したら第三者が、龍樹君を『餌』にして、彼を利用する事もできちゃう訳だからね」

「まさか!」

「そう。僕の見立てでしかないけど、取り巻きの中に『真の黒幕』が潜んでいる。という事だ」

「そんな……」

 

 全てが納得してしまった。嫌な程に闇のピースがガチャガチャと、頭の中でハマっていく音がした。

 僕はずっと事の今まで、彼は『主犯格』と思っていた。

 でも実は、彼もまた、立場を利用されただけの『取り巻きの一人』でもあり、『偽の黒幕』だった事に気がついてしまったのだ。


 掌に、冷や汗と緊張の汗、それと夏の暑さによる汗が混じって、びしょりと伝わってくる。


「まぁ、タミコちゃんには別の事を聞かれたけど、答える身としては、『半分お仕事で必要。半分私情』てとこかな」

「……」

「あと、僕からももう一つ、確かめたいことがあるんだけど……」

「……」


 何だろう。恐怖で喉が乾いた僕は、ゴクリと唾を飲み込む。


「君、将来はどっちを継ぐ予定なのかな? ドクター越智みたいに、スーパードクター兼闇医者を目指すのかな?」

「はぁあ!?」


 まさかの質問に、思わず大声を上げてしまったが、まだ未定だ。確かに父さんみたいなスーパードクターになりたいとは、密かに憧れていた。

 だけど、父さんからは闇医者とは一切聞いていない。どういう意味だ?


「まぁ、いいさ。君には『第二の選択肢』もあるから、安心してね~」

「いや。それ、安心って言えるかどうか分からないのですが……」


 思わずツッコんでしまったが、つまり、闇医者でも医者を目指すのでもなく、別の道を進んで『逃げればいいさ』と言うことだよな?


 彼の事だ。そう言っている様にも聞こえたんだけど。

 いやいやいや。あの通知を送った以上、今更『逃げる』という選択肢は、僕には無い。


「ま。そっか。今の段階では?」

「……未定です」

「うんうん。まぁいいさ。じっくり考えればいい」

「そう、ですか」

「ぅん。じゃあね~。また、何かあったら連絡するよ」

「は、はい……」

「あと、暫くの間だけど……」

「はい……」


 彼はトマトジュースを飲み切ってゴミ箱へ捨てると、僕にこう告げてきたのだ。


「カンナの病室には行かないで、そっとしておいて欲しいんだ」

「……分かり、ました。ミオにも伝えておきます」

「うん。頼むね。龍樹君」

「は、はい……」


 そして、彼は一切こちらを振り向かず、病室を後にして行ったが、まさか僕の見えないところで、こんなことをしていたなんて。


 取り巻きの奴らが、益々許せなくなってしまった。


「……」


 でも、もう優しくするのをやめた僕は、スマホを起動し、素早く打ち込んで送ると、枕元へスマホを放り投げて、枕に顔を埋める。


 あぁ。僕は何てこんなにも、無力なんだ。

 こんな時、大人の人達はどうするんだろう。


 タミコさんやリルドさん、メンコさんみたいな大人の人達は、僕と同じ状況になったら、どう対応するんだろう。


 でも、今はいいや。

 もう、考えたくない。

 やめよう。疲れた。


 凛音さんや、ミオ君の事もあったせいか、心身共に疲れた僕は、沈む様に意識を手放したのだった。

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