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sideメンコ 野に咲く薔薇同士の不器用な恋物語(3)



――3日前。リルドとタミコちゃんが病室でお見舞いしている時刻。車内。



「あっつぅぅ~」


 アタシは暑さに気怠げになったせいか、素早くクーラーの温度を下げてみる。


 リルド達が乗る時は、適温にしているんだけど、何故か暑いのよ。どうしよう。


 でも、寒すぎても体に悪いから、戻そうっと。

 それと、実は彼らに気取られない様に、密かにお昼ご飯を用意していたの。

 リルド達を病院に置いてきた後、ドライブスルーで素早く注文して取り寄せてね。


 そう。『牛丼』だ。それと、申し訳ない程度で、コールスローも付いている。


 あと、彼らにバレたら、色々と厄介だったからこっそりと。ね。特にリルド。あいつだけは何故か、犬並みに嗅覚が鋭いから、バレたら色々と面倒臭いのよ。


 なので、こういう時でないと、一人飯が満喫できないのは、本当なの。

 いつもは、ツブヤキで昼飯を食べていたりしている事が多いせいか、こう言った車内で昼をとるのは、ほぼ、久しぶりだったり。


「ぅうう~ん! 最っ高! いい匂い!」


 一人、好きな音楽をかけながら運転席で食べるご飯は格別に至高で、おいし……



――ドンドン



 しかし、助手席の窓からトントンと、音がした。


「ええっと……」


 なので助手席の方の窓を開けてみると……。


「Salute!」


 何故か、ナイトが太陽みたいに眩しい笑顔で、声をかけてきたのだ。


「ふぁああああ!?」


 思わず持っていた牛丼を落としかけてしまったが、いや。何処から来た!?


「えええっと、ききき、急にどうしたの!?」


 そう言うと彼は咄嗟にポケトークを取りだし、慣れた感じで吹き込むと、画面を見せてきたのだ。



【Am venit pentru că slujba mea de escortă s-a terminat.】

(エスコートの仕事が終わったからきた)



「え?」


 思わず開いた口が塞がらなかったけど、いやいやいや! 明らかにお仕事、抜け出して来てるでしょ!


 だけど、その後彼はまた、ニヤッと子供のように笑いながら、ポケトーク経由でこう言ってきたのだ。



【Doar pentru prânz. Mă întorc după aceea, dar ar fi în regulă dacă aș rămâne cu tine până atunci?】

(昼食だけです。その後戻りますが、それまで一緒にいてもよろしいでしょうか?)



「……ぅえっ!?」


 突然の事で、処理落ちしそうになったが、つまりこれって、車内で二人きりでお昼ご飯を食べましょうって事!?


 何、このシチュエーションは。

 だけど、外は真夏の炎天下だ。あまり外で待たせたら、熱中症で倒れちゃうし。


「あ。ちょっと待ってね!」


 なので、急いで助手席周りを掃除すると、彼を招く事にした。

 左手には購買で買ってきたであろう、ポリ袋の中に飲み物らしき物が2本ほど見えた。


「……アリガ、トウ」

「あぁ。ごめんね。外、暑かったでしょ?」

「ハハハ! 確カニ! 日本、アツイネ!」

「そうなんだよ~。暑すぎて、クーラー、ガンガンかけちゃったんだ!」

「……」


 しかし、彼は一瞬、黙り込むと、何故か自身が着ていた半袖パーカーを脱いで、スマートにアタシの両肩に掛けてきたのだ。


「うぇええっ!?」

「デモ、ソノ格好、寒ソウダ」

「あ。いや……」


 確かにアタシ、上は緑色のオフショルダーを着ていたから両肩、出しているのよね。


 正直、色々と暑いけど、彼が喋る日本語は何処かぎこちないのに、前より自然っぽくなっているっていうか、少し聞き取りやすくなった?


 きっと、ミオ君からも日本語やら、日常生活のあれこれを、教えて貰っていたりして……。


「チャント、飲ミ物モ、飲ンデ!」


 すると、彼は病院の購買で買ってきたのだろうか、ビニール袋から小さなペットボトルの飲み物を取り出し、アタシに渡してきたのだ。しかも、烏龍茶だ。


「あ! う、うん……、これって……」

「今ノ、オ気ニ入リ」

「そうなの!?」

「コレ飲ムト、油コイノ、無クナル」

「そっか……、ありがとう!」


 確かにそうかもしれない。て感心しつつ、一口飲む。冷たい。もしかして、買ってきてからこっちに来たのかな。


 そう思うと……。あー。どうしよう。今、色んな意味で暑いんだけど……、あ。


「じゃ。お昼、食べてないと思って……、これ」

「!?」


 ふと、アタシは運転席に置いてあった牛丼屋のレジ袋から一つ、手付かずのパックに入った牛丼とコールスローを取り出すと、プラスチック製の先割れスプーンと共に、彼に渡したのだ。


 実はみんなに隠れて牛丼を2つ、食べようとしていたの。アタシ。あはは。


「イイン……、デスカ!?」

「……いいよ!?」

「ワァオ! 一度、食ベテ、ミタカッタ!」

「あ。そうなの!?」


 すると、彼は驚きと嬉しさが混じった表情でコクリと頷くと、子供のように勢いよく蓋を開け、先割れスプーンで豪快に食べ始めたのだ。


「!!」


 彼はあまりの美味しさに言葉を失ったらしく、無我夢中で食べ進めていた。


「やれやれ……」


 ナイトもまた、リルドみたいに肉になると、食い付きが凄くなるんだから。二人揃って犬かよ。


 なので、アタシは若干呆れつつも、彼と共に牛丼を食べ進めることにした。


「んんんっ! うまぁぁぁあっ!」


 だけど、車内で食べる牛丼は、何処か格別だ。

 濃いタレとそのタレに染み込んだ玉ねぎが、味をマイルドにさせていて、あまりくどくない。付属のコールスローとも相性が良くて、美味しい!


 ああ。最高に美味(うま)いわぁ。


「……ん?」


 ふと、彼の横を見ると、何故か紅しょうがだけ、綺麗に分けていたのだ。


「……ね。ナイト」

「ナン、デスカ!?」


 彼は驚きながらも聞いていたが、頬にご飯粒をつけているのよ。余程美味しかったのね。それが何だか、小さな子供に見えるんだけど……。


「その赤いの、紅しょうがって言うんだよ」

「ベニ、ショウガ、デスカ?」

「そ! それと一緒に食べると、もっと、美味しくなるよ!」

「……食ベテ、ミル!」

「食べてみて」


 そう言うと、彼は紅しょうがの色が無くなるほど混ぜ、タレで染みた肉と共に頬張っていた。


「!!」


 相当美味しかったせいか、また翡翠色の目を輝かせながら、先割れスプーンを持つ手が止まらない。

 美味しすぎると箸を持つ手が止まらない。とはよく聞くけど、彼にとって、かなりの衝撃が走ったのね。

 その姿がとても可愛くて、愛おしく感じる自分がいる。


 だけど、それと同時に、この日常が彼にとって、どれだけ『貴重な物』だったのだろう。と、改めて思ってしまう。


 実は彼が来日前までいたルーマニアという国について、密かに調べてはいたけど、表向きは『ドラキュラの城がある』とか、そういう観光スポット的なのしか載っていなかったのよね。


 だから、最初に会った時に彼が話してくれた、目玉を抉って片目が義眼になる様な、過酷な環境下に置かれていたとは思えない程に……。


 裏の情報が、あまりにも無さすぎたのが、かえって不気味よ。情報統制されている? とも疑う程にね。


「……ゴチソウ、サマ!」

「美味しかった? ってか、早っ!」


 思い耽っていたら、彼はいつの間にかコールスローまで、ペロリと完食していた様だ。


「ハヤッ?」

「あははぁ! 早いねっ! て意味だよ!」

「食ベルノ、ハヤカッタ、デスカ?」

「ううん。アタシが遅いだけよ」

「ソカ……」

「いやいや! そんなに落ち込まないでいいからねっ!?」

「ジャ……、待ッテル」

「えっ!?」


 なので、アタシも急いで食べようとするが、なんだろう。彼の視線が何故かこっちを向いているのよ。恥ずかしすぎてどうしよう。

 もしかして、あれだけじゃ、足りなかったのかな。今度会う時は、牛丼を大盛りにしておこう。


「……」

「……」


 好きな曲が響く車内で暫くの間、アタシと彼の間に沈黙が流れる。何を話そうか。時間を見ると、残り30分と言った所だろう。


「……あの、さ」

「……ドウシタ?」


 牛丼とコールスローをやっと食べ終えたアタシは片付けながらも、ある話を切り出してみることにした。


「実は任務中、ちょっと気になる事があってね」

「キニナルコト、デスカ?」

「そう。ポケトーク、貸してもらえる?」

「ワカッタ。長クナル、話ダナ」

「その通り」

「パーカー、右ポケット、入ッテル」

「あ。そっか……」


 そういえば、彼に寒そうだ。と言われて緑色のパーカーをかけられているんだった。

 でも何だろう。服から仄かに香る、シトラス系の爽やかな匂いが、妙に心地いい。


「えっと……、ムルつ、メスくっ!」

「!!」

「これで発音、合ってるかな。うーん……。何か違う気がするんだけど。ポケトークぅ。これで合ってるかな?」

「……」


 しかし、アタシがぎこちなくお礼の言葉を言いながら、ポケトークに話しかけていたら、何故か彼の顔が真っ赤になっていたのだ。

 どうしたんだろう。まさか、熱中症になっちゃった!?


「だだだ、大丈夫!?」

「……平気。ダ。アハハハ!」

「もぅ。じゃあ、改めて……」


 なので、心配になったアタシはさり気なく、冷房の温度を少しだけ下げると、話の続きをする事にした。


「実は、ベローエの女信者に会ったんだけど、その人、何故かお腹が膨れていたのよ」

「……」

「だから、敢えて手加減したんだけど、どうも引っかかってね……」

「ヒッカカル?」

「そうそう。ミオ君から、何か聞いてる? 例えば、『ベローエの掟』について」

「……ナルホド」


 すると、彼は先程の穏やかな表情から一変し、真剣な仕事モードへと変わったのだ。

 そういう所、実はリルドもそうなる事があるのよね。双子あるあるかしら。


「……アルトシタラ、『ヒトミゴクウ』ダナ」

「ぅうええっ!?」


 すると、まさかの言葉が片言で返ってきたのだ。


 ヒトミゴクウって、あの『人身御供』!?

 ミオ君、一体彼に何を教えた訳!?


「彼カラ聞イタノハ……」

「あ。はい。ポケトーク」

multumesc(ムルツメスク)


 そして、彼はサラッと母国語で言うと、ポケトークに吹き込み、こう返してきたのだ。



【Implică în principal exploatarea sexuală. Femeile nasc copii cu liderul cultului, iar bărbații sunt declarați incapabili sexual.】

(主な内容は性的搾取である。女性は教祖との間に子供を産み、男性は性的に無能力者と宣告される)



「……は?」


 しかし、内容があまりにも恐ろしかったため、暫く固まってしまったのだ。

 つまりこれ、中国で昔あった『宦官制度』と一緒じゃないの!

 ということは……。色々と考えたくないけど、ミオ君達がいるデットプールの人達は、こんな状況を乗り越えていたのね。


 よく逃げられた。と言ったところかな。


「ソレト……」


 しかし、彼は再度、ポケトークに吹きかけると、こんな言葉が返ってきたのだ。



【Totuși, sacrificiul uman există și în România, deși nu în sensul exploatării sexuale.】

(しかし、ルーマニアにも人身供犠は存在するが、性的搾取という意味合いではない)



「そう、なんだ……。じゃあ、ルーマニアには、どんなのがあるの?」


 アタシは興味本位と怖さを混じりつつ、恐る恐る彼に聞くと、ポケトーク経由で、こう答えてきたのだ。



【Sunt două lucruri de luat în considerare în legătură cu această chestiune, dar, din moment ce nu avem mult timp, vă voi spune doar unul.】

(この件に関して考慮すべき点が2つありますが、時間があまりないので、1つだけお伝えします)



「あ。そう、だね……」


 時間を見ると、残り15分だ。何を話してくれるのだろうか。もう一つも聞きたい所だけど、また会った時のお楽しみね。


「じゃあ、教えて」

「……ワカッタ」


 なので、彼は時間を気にしつつ、ポケトークで吹き込むと、とある職人と、それを建てた建造物の話を語ってくれたのだ。



【Povestea lui Manole, arhitectul care apare în „Mănăstirea Argeșeană”.】

(『アルジェシュ修道院』に登場する建築家、マノレの物語)


【Într-o anumită epocă, au existat meșteri, printre care și Manole, care au încercat să construiască Mănăstirea Argeș. Însă zidurile pe care le construiseră ziua se prăbușeau noaptea, punându-i într-o situație dificilă.】

(かつて、マノレをはじめとする職人たちがアルジェシュ修道院の建設を試みた。しかし、彼らが昼間に築いた壁は夜になると崩れ落ち、困難な状況に陥った)


【Atunci Manole, arhitectul șef, a primit un mesaj divin: „Prima femeie care va veni a doua zi dimineață va fi îngropată în zid (sacrificată ca ofrandă umană)”.】

(すると、主任建築家のマノレは神からの啓示を受けた。「翌朝最初にやって来た女性は壁の中に埋められるだろう(生贄として)。」)


「……」


 アタシはその内容に愕然としてしまったが、神という存在は、いつどの時代でも、残酷な事を言うんだね。と。


 更に結末を知りたかったので、静かに彼の話に耳を傾ける事にした。



【Prima care a apărut însă a fost iubita sa soție, Ana. Manole, îndurerat, a tencuit-o în zid pentru a finaliza clădirea.】

(しかし、最初に現れたのは、彼の愛する妻アナだった。悲しみに暮れるマノレは、彼女を壁に貼り付けて建物を完成させた)



「そんなっ!」


 思わず感情がのめり込んでしまったが、こうして修道院が完成してしまった。という事なのか。何とも恐ろしい人身御供の話だったけど、これ、御伽噺よね? 現代の話ではないよね?


「ト、言ウ話デス。コレハ昔話デス」

「あぁ。良かったぁ……」


 思わず胸を撫で下ろしたけど、昔話にしては、とても恐ろしすぎない!?

 まるでグリム童話の初版を聞かされているような感覚がしたんだけど。


「コレトハ、違ウ話モアル」

「そうなんだ」

「デモソレハ、マタ、会ッタ時二デモ……」

「うん。楽しみにしているね」

「ソレト……」


 しかし、彼はアタシの両肩にかけていたパーカーを剥がすように、はらりと脱がすと、自身の元へと戻してはこう聞いてきたのだ。


「アレ、何テ言ウンダ? マタ、食ベタイ」

「ええっと、『牛丼』て言うんだよ」

「ギュウ、ドン! アハハ! アリガ、トウ!」

「えっと……」

「La revedere!」


 そして、彼は処理落ちしてしまったアタシを置いて行く様に、はらりと手を振ると、助手席から降りて行ってしまったのだ。


「……」


 暫く静寂な空気が、車内を包み込んだが、助手席から香る、シトラスの匂いが忘れられない。


 彼のあの無邪気で眩しい笑顔を見ていると、何処か乖離している自分がいる。

 あの笑顔の裏側で、来日するまでの間に何人も惨殺していたとは、どうにも思えないのよ。

 でも、最初に見た戦い方が、確かに殺り慣れている殺し屋の様にも見えるのがまた……。


「……はぁ」


 熱中症になってしまったのは、彼ではなく、アタシかもしれない。

 火照りすぎた身体を冷やそうと、烏龍茶を飲み干した時だった。


「……おい」

「あ。二人共、おかえり~」

「ったく。お前大丈夫か?」

「ななな、何がぁ!?」

「メンコさん、顔が赤いから、熱中症になったのかと……」


 しかし、病院から戻ってきたリルドとタミコちゃんに心配されてしまったのだ。


「いやいやいや! ねねね、熱中症にはなってないよ!?」

「なーんか怪しいな。お前」

「は、はぁあ!?」

「うん。それに……」

「あー……、ええっと……。とりあえず、サーフェスに戻ろっか!」

『……』


 だけど、後部座席に乗ってきた二人から、何故か無言の圧力がかかってきたのだ。


 アタシ、何もしてないからね!?


「……そういえばよ」


 すると、リルドが開口一番、こう話し出してきたのだ。


「階段付近でナイトに会ったんだけどさ、すっげー嬉しそうな顔をしながら、自身のパーカーの襟元付近を、嗅いでたんだよな」

『はぁぁああ!?』


 そのせいか、思わず大声を発してしまったが、隣で聞いていたタミコちゃんも同じタイミングだったのは、とても驚いたけど。


「あいつ、日本に来てから変態になったのか?」

「ちょっと! それは流石にないと思うんだけど!」

「おーい。ちゃんと前向いて運転しろよメンコ。事故ったら俺らもお陀仏だからな」

「わわわわ、分かったわよ! だからその! ああ、アタシには一切、話しかけないでっ!」

「はいよー」

「リルド。それは本当の話?」

「あー。だから瞬時で分かったんだよな。車内で何かあったな。これ。て」

「……はぁ」


 今度、彼と会う時は、このイチャコラ組が別任務でいない時にしよう。


 そう心の中で誓ったアタシであったが、それにしても、ナイトが話してくれた『職人マノレの話』と、『ベローエの掟』何かと『似ている』気がするのよね。気のせいであって欲しいけど……。

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