sideタツキ 真夏のナイトメア~設定が穴だらけのバグった創作世界で、僕はリライトする~(結)
「は? 勇者ごっこだって?」
「何言ってる訳? 別にわたし達、勇者ごっこなんてしてないんだけど! 勘違いしないでくれる?」
「そうだ。僕は単純に村人になった、生徒や行方不明になったミオを助けに来ただけだ」
「越智君……」
「あとはリンネの願いを全部叶える為だ! こんなバグだらけの世界を楽しんでいる訳ないだろ!」
「そうよ!」
思わず僕とカンナは言い返してしまったが、リンネは怯えているせいか、僕の背後に隠れたままだ。
そうだ。僕らはこんなバグだらけの世界で、勇者ごっこをするために来た訳じゃない。
『だって、やってる事がそのまんまじゃないか。それにタツキ』
「何?」
だけど、イトウはにんまりと笑いながらもこう言い放ってきたのだ。
『その、『ミオ』ていう人、とっくにぼくの配下になってますよ。さぁ、どうします?』
「配下。だと!?」
すると、彼の背後にある穴から、黒いローブを纏った少年らしき人物が現れたのだ。
「ちょっと熊野君!? こんな禍々しい奴の味方に付くとか正気!?」
「……」
「ねぇ! 人の話聞いてんの!?」
「……」
しかし、カンナの反応にも応じず、無言のままだ。何を考えている!?
「熊野君……。そんな……」
リンネはというと、僕の背中で声を震わせながら怯えていたのだ。
「……」
でも、可笑しいな。敵ならさっさと僕らを攻撃すればいいのに。黒いローブの人は、イトウの斜め後ろにいるだけで、何も行動を起こさない。
『ほら! ぼくがプログラムとして組んだのです! あとはリンネ。貴女さえ、こちらに付けば良いだけです。良かったね。リンネ。君は一人じゃない!』
「……」
『どうしました? 君が望んだ世界ですよ? 何を躊躇っているんですか? ほら。早く。みんなを『囲って』しまいましょう!』
「……違う!」
しかし、彼女は声を震わせながら叫ぶように否定していたのだ。
『何が違う?』
「……これだったら、貴方のやってる事、お母さんとおんなじなの!」
『おか、あ、さ、ん?』
イトウはこの時だけ何故か一瞬、口ごもっていたが、リンネの言葉が効いているのか?
引き続き、静かにやり取りを聞くことにした。
ローブの人はというと、相変わらず何もせずにフード越しからこちらを見つめているが、何故か口元が軽く緩んでいる。まさか、AIとリンネとのやり取りを聞いて笑っているのか?
そうだったらアイツ、随分と余裕だな。
「貴女のため。貴女のため。て言っておきながら、みんなの言葉を無視してこんな事までやって! 生きてる人間まで巻き添いにして!」
『巻き添いだなんて。違いますよ。単なる『救済』です』
「は? これで救済?」
何を言っているんだ。コイツは。
救世主気取りか?
静かに聞いていたが、イトウのあまりの言動に、怒りに満ち溢れていた僕は、こう怒鳴り声をあげたのだ。
「笑わせんな! これは僕達を異世界という『牢獄』に閉じ込めただけだろ!」
「そーだそーだ! 龍樹の言う通りよ! 今度ばかりはわたし、貴方に怒り心頭なんだから!」
「カンナ……」
「あったりまえでしょ! わたしだって、こんな世界、好き好んで来た訳じゃないの!」
「カンナさん……」
「だけどね! 八雲さんが一生懸命書いたこの世界の物語を、貴方が自分都合で上書きしてめちゃくちゃにしたのが一番許さないの! 何が勇者ごっこよ! そんな事したいなら、生きてる人間まで巻き込まないで!」
「……」
ホントそうだ。
カンナが思いっきり正論を言ってくれたおかげで、少しは楽になれたかもしれない。
『はぁ……。こんなにも話が通じないなんて。今更現実に戻って、何になると言うのです?』
「帰ってテスト勉強をするの! ただでさえ、龍樹より点数低いのに! それが高校生として、当たり前の事! しちゃいけない?」
『テストなんて、人生において必要ですか?』
「テストは高校生活において、必要な通過点なんだ。それによって将来が決まるわけだからね」
「越智君に、椎羅さん……」
「リンネ。カンナ。いい事思いついたんだけど……」
「は? こんな土壇場でよく思いつくね。何?」
なので、耳元でヒソヒソとある作戦を伝える事にした。
これだったら、アイツも……。
「はぁ。恥ずかしいけど、八雲さん、思いっきりやろっか!」
「は……、はい。とっても恥ずかしいのですが……」
「さて……」
『おやおや? もう諦めたのですか?』
なので、僕の目の前で余裕ぶっているイトウにバレない様、今の現状を、ブログに書き込んでみた。
ちなみに、僕が書き終えたら、リンネ、カンナの順に僕のスマホをバトンタッチする。というリレー形式だ。こうすれば僕のHP消費も1回で済む。という訳だ。上手くいくか分からないけど。
「書き込み終わったよ」
「は、はい!」
僕は、彼にバレない様、小声でリンネに伝えると、自身のスマホを渡し、書き込みを続ける。
「ええっと、椎羅さん。はい。大丈夫かな。こんな感じにしてみたけど……」
「お!? いいじゃーん! おっけ。あとは任せとけっ!」
リンネは書き終えた後、申し訳なさそうにカンナに渡すと、彼女は意気揚々に打ち込み始めたのだ。
それにしても、驚いたなぁ。
まさかリレー形式で物語を進めることになるとは。
しかも、こんなので大丈夫なのだろうか。いささか不安だが、ダメ元でやってみるしかない。
『何をコソコソと。まぁ、この結果が覆る確率は、99.9パーセント、有り得ないでしょうね』
「……ぶはっ!」
『何を笑っているんだ!? おかしい事か?』
ふと、何故か斜め後ろにいたローブの人が思いっきり吹き出していたのだ。
「可笑しいも何も、100パーセントじゃないんだ。て思って!」
『んなっ!?』
「レガ・ル!」
『何を言って……。うがっ!』
そして、相手の発言を奪うかのように、呪文を唱えると突然、背後から青い鎖らしき魔法が解き放たれ、彼を拘束し始めたのだ。
おいおい。確かに『全属性扱える』とブログに書いてあったけど、拘束魔法まで使えるとは書いてなかった様な。一体どうなってる!?
「は!? えええっ!?」
「一体これは……」
「越智君。何が起きて……」
そのせいか呆気に取られてしまったが、もしかして、あの余裕な笑みの正体はこれか?
ローブの人にとって、イトウは『敵にもならないポンコツ』てか。
「ふぅーー。演技するの、疲れたぁぁ。あ。龍樹ぃー!」
「えっ!?」
しかも、拘束魔法をかけたローブの人はケロッとした顔でフードを外すと、僕の元へ一直線に駆け寄り、こう言い始めたのだ。
「ここから出たら、コーラ奢って!」
「はぁぁああ!? 突然何だよ! ったく……」
「だーって、ヒガンさんと龍樹を合わせた様なポンコツと相手してたら、頭疲れちゃってさ! ポンコツはこれ以上いらないって!」
「あ。いや……」
正体はミオだったのだ。一体どこに行ってたのかと思ってたら、まさかイトウ側のスパイをしていたとは。
「ていうか熊野君さぁ……」
「あ! カンナさん! あの時はごめん! そうしないと、あの中途半端なポンコツ、何しでかすか分かんなかったからさぁ! 許してっ!」
「あのね……。全く……」
カンナも呆れ気味でやれやれと言った感じだ。それはともかく、無事で良かった。
「あ。八雲さん。お久しぶり!」
「熊野君。その、わたし……」
「あー。あの事なら気にしないでいいって!」
「え?」
リンネは申し訳なさそうにしていたが、彼は気にする素振りも無く、彼女に言っていた。
そういえばリンネが虐められていたのを、ミオが庇ったんだっけ。
ふと、タミコさんに依頼する前の出来事を思い出していた。
「あの時はそうでもしないと、自分が許さなかったんだよね」
「えっ……」
「見て見ぬふりが出来なかった。ただそれだけだよ」
「それだけで……、でも、わざわざ貴方が傷つくような事をしなくても! わたしだけ、傷つけば解決できたのに!」
「……」
「だって、わたしだけ……、わたしだけ標的になれば、みんなは的にならない。それで解決だ。て思っていたのに……。それなのに! 何で!? ねぇ! ぅぅうう!」
彼女は今まで溜め込んでいたモノを吐き出すかの様に、溢れた思いを目の前の彼にぶつけていたのだ。
「……ごめんね。八雲さん」
「いや。違うっ! 熊野君は何も悪くないって!」
「いや。その。ボクは君が虐められていたの、『とっくに知っていた』んだ」
「えっ?」
「だから、もっと早くに助けられた。なのに、ボクは庇っただけしかできなかった。フォローの言葉もたくさんかけられたのに……」
「……」
「それと、彼らの標的として、ボクが『いじめられっ子』になれば、君を守れる。そう考えただけだよ」
「……」
「まぁ、その結果、龍樹やカンナさんが助けてくれて、今に至るんだよね。実は今は『副会長』として、逆にみんなに支えられながら、今に至っている。ほんっと……」
しかし、彼も今まで溜めていた思いがあったらしく、彼の澄んだ瞳からは、一筋の涙が零れていた。
「ボクの方がみんなより、何十倍もポンコツだ! それなのに、ボクはみんなの事を内心『ポンコツ』だと思って見下していた。それなのに!」
「は!? 何言ってんの!? 熊野君はポンコツじゃないって!」
「カンナさん……」
「あんた程、冷静で努力家で、しっかり者の人はいないって!」
「だって……」
「ほら。ツブヤキでアルバイトを頑張ってるでしょ! お兄ちゃんから聞いたよ! 真面目に頑張って働いていて、偉いね! て褒めていたし!」
「えっ……」
「それと、龍樹は記憶力が凄い癖に、肝心な所は抜けてるポンコツでしょ?」
「ちょっ!? カンナ! 何で急に!?」
「みんな誰しも、欠点がある。AIじゃないの。だから、完璧にこなそうとしなくても、いいんじゃない?」
「だけど、それは、ぅええっ!?」
思わず彼を抱きしめてしまった。
あの時、リルドさんが、僕にしてくれた時の様に。
「……」
「えっ!? あっ!? 龍樹ぃ!? ちょっと!?」
「……」
でも、どう声をかければいいか分からず、ずっと抱きしめたままでいた。
どうしよう、どう言って慰めれば良いんだ?
カンナが気にかけて、フォローしてくれたと言うのに。
そんな事も分からないなんて。
本当に僕は、ポンコツのままだ。
「ふぁあ!? どどど、どうしよう!? ななな、何ですかぁ!? この展開はっ! ししし、椎羅さぁぁん!」
「どうもこうもしないって。いっつもあんな感じなんだよねー。生徒会の中で。全く……」
「ぅえええ!? は、ははは、初めて、知りました。まさか『死んだ後』に知るとは思ってなかったので……」
「八雲さん……」
カンナはというと、こっちを見ては呆れて溜息をついていたが、もう、慣れているだろうな。リンネは初めて見る光景のせいか、顔を真っ赤にして、あたふたしている。
「おまっ! なに、してん、だよ! バカっ! 変人! ポンコツ! 苦しっ! 動けないっ!」
「僕はポンコツでもいい」
「は?」
「だから、また、いつもの口調で叱ってくれよ。な?」
「……」
「僕はどうも、ミオがいないと駄目みたいだ。いつまでも、一緒にいような!」
「……はぁ」
だけど、今はこうして会えただけでも、とても心が満たされて、嬉しい気分だ。
早く現実へ戻って、コーラを買わないと。な。
「あー! もぅ! 分かった! 分かった! 分かったから! とりま、離れてよ! カンナさん達の前なのに! これは流石に恥ずかしいって!」
「あ……。ご、ごめん!」
しかし、ミオは何故か顔を真っ赤にしながらも僕に楯突いてきたので、思わず謝りながら少し距離をとってしまった。
「ま。いいよ。ポンコツ呼びはその……、『永遠』に変わらないからっ!」
「ふっ」
「何、鼻で笑ってんのさ!」
「ん? 何度でもポンコツと言って弄れば?」
「は?」
「それが『ミオ』らしいからさ」
「おまっ! からかってんのかよ!」
「別に……」
「あー! ほんっとやだっ! こんのイカれドマゾポンコツがっ!」
「あはははははっ! そーやって、何度でも言ってればいいさ!」
そうそう。そうやって戸惑うミオも内心嫌いじゃないんだよな。どんな人よりもからかいがいがあってさ。何だか不思議だなぁ。
「うぅ! そーいう余裕っぽく言うの、めーっちゃむっかつくんだけど!」
「あはは! あ。そーだ!」
「え? 急に何?」
ふと、思い出した僕は自身のスマートフォンを彼に渡すとこうお願いしてみたのだ。
「最後の締め、『ミオらしく』頼むよ」
「は? どういう意味?」
「あ。また肝心なこと言うの、忘れた。ええっと……」
なので、カンナの時同様、彼にここから抜け出すには、リンネの願いである『みんなと共に、この物語の完結』をする事と、『AI彼氏であるイトウを止める』事だと言うこと。
しかも現実世界では、サーフェスの皆さんが、元凶を調べている所。という事も、彼に話しておいた。
「そういう事かぁ。だからヒガンさんやフグトラさんも調べていた訳か」
「え!? そっちも動いてたって事?」
「そうだね。マスターには粗方伝えていたけど……」
「なーるほど! だーからコデックス・セラ何とかの事をマスター、知ってたんだ!」
「うん。え!? マスター、そこまで喋ってたの!?」
彼はスマホを両手に持ちながらも目をまん丸くしていたが、影で動いていたのは一人じゃなかったんだ。僕は少し一安心した。
「当ったり前でしょ! わたしもここに入る前、タミコさんやメンコさんと会って話してたんだよ! 熊野君と全く連絡取れなくて困ってた事も話していたし……」
「あー……。それはタミコさんに申し訳ない事をしたかも……」
「まぁ。僕の場合は『年上の友人』として、二人に連絡してからここに来たからね」
「は? わざわざタミコさん達に連絡してから入ったの!? ばっかじゃないの!?」
「えっ!? 何でこの流れで怒られる!?」
「勝手にそんな事したら、余計に心配かけちゃうでしょ! どんだけ周りに迷惑かけたい訳よ!」
なので、思わず本当の事を言ったら、何故かカンナに頭を叩かれてしまった。
「はぁー。龍樹はそういう所、バカ真面目すぎるって。わざわざ『今からみんなを救う為に、曰く付きのブログにログインするね!』てカッコつけて報告するか? 普通……」
「あは……。そうしないと心配するかと思って……」
「はぁ。とりま、打ち終えたけど、これ、渡しておくよ」
「あ。ありがと……。じゃ。リライト!」
打ち込み終えた彼からスマホを渡されたので、僕はお決まりの呪文を躊躇なくかけた。
もう慣れちゃったな。こういった動作。
スマホは青白い光と共に、元に戻ったが、完結した事によって、現実世界で、何か変わっただろうか。
「じゃあ。わたしは皆さんに、あの呪文をかけますね」
「そっか……」
何だか寂しくなるけど、これでリンネの願いは一応叶えられた。て事だよな?
ん? 一個忘れている様な……。
「リンネさん。その、今まで、ありがとう」
「……いえいえ。無事、わたしが作った物語は、皆さんのおかげで完結できました」
「そうだね。お疲れ様」
「ありがとうございます。なので、もう現世に未練は、ありません」
「そんな……」
「では、かけますね。トレゼシュ……」
さて。もう帰ろうか。
さよなら。リンネ。
と思っていた時だった。
『ふっ。ふふふっ。ふふっ。ふははははは!』
まだ終わっていなかった。
ミオの背後で突然、不気味で無機質な笑い声が聞こえたきたのだ。
なので、4人共一斉に振り向いたが、イトウの体の一部は、既に黒いモヤに覆われていて、気味が悪かった。
『ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ……』
イトウは既にバグっていて、可笑しい状態になっている。こうなったらもう、話はまともに通じない。か。
『さぁぁああ! リンネぇぇ! ぼくと帰ろう! ねぇ! リンネリンネリンネリンネリンネリンネリンネリンネリンネリンネリンネリンネリンネリンネリンネリンネ……』
「ひぃぃぃぃいいい!」
彼女は血の気が引いた様に、僕の背中で怯えていたが、自分が作ったキャラが、こんなに自我を持って暴走しまくっていたら、流石に怖いだろうな。
『すみません。貴方。すみません』
「……は?」
すると、突然彼が黒いモヤを周囲に撒き散らしながら僕にこう話しかけてきたのだ。
『こここ、これは、これは、どどど、どういうつもり、でで、ですか?』
「どう。て言われても。僕がやった事は、単純に村人になった生徒を助けに来ただけだ。後は仲間を迎えに来ただけで、何もしていないけど?」
『ななな、何で! 何でそんな事を、したたたた! リリリ、リンネが! かかか、悲しむ!』
「はぁー。イトウ君」
『悲しむ。悲しむ悲しむ……』
「こんな事やって、リンネは喜ぶと思う?」
『喜んでいいい、いる。から、今がががが、ある!』
「はぁ……」
どう聞いても、話にならないな。
一方的に押し付けて。まるでミオに対する、昔の僕を見ている様で。
でも、バグりながらも、性善説を語っているうちは、無理か。
――ブーッ。ブーッ。
スマホのバイブが鳴った。
現実世界にいる彼女からだ。
『ありがとう。とても素敵な物語だったよ。イトウや黒幕に関しては、私達に任せて。早くこっちに帰っておいで』
良かった。読んでくれたんだ。
まぁいい。あとはタミコさん達に任せようと思う。
イトウを操作しているのは、ここではなく、現実世界の『誰か』だろうし。
そして、そろそろこの世界にも『お別れ』をしなくては……。
『おお、お前らは、この世界ををを、めちゃくちゃに、したたた。だだだ、だから、ゆゆゆ、許さなななななな!』
しかし、イトウはエラーがかった姿になりながらも、立派な片手剣を右手に持ち、僕やミオに向かって襲いかかってきたのだ。
「危ないっ!」
――グサッ
「……は?」
しかし、僕の目の前には、リンネが自分自身を盾にしていたが、彼女の脇腹には、真っ赤な血が滲んでいたのだ。
「リンネさん!?」
「八雲さん! どうして!?」
咄嗟に動けなかったカンナや僕に庇われたミオが動転していたが、彼女は僕らに顔を向けると、軽く微笑み、こう発言したのだ。
「……いいの。これで」
「そんな事ないって! なんで!」
「……」
しかし、刺された脇腹から血が流れていく事に、彼女の体は徐々に半透明になっていく。
だが、彼女はイトウから僕らを守ろうと、身を挺してずっと立ち続けている。
僕のスキルで彼女を助けようとしたが、繋いでリライトした際、他人が新規作成をして書き込んだら、HPが同じく減るらしい。お陰で僕のHPは0だ。
この諸刃の剣みたいなクソスキルめ。肝心な時に役立たないとか、終わってるだろ。
本当にこの世界は、『悪夢の中』だったと、改めて再認識されてしまうのが、とても、とてもとても、悔しい。
「……わたしはね、その……、現実世界……では……、『死んで』いる……、んだ」
「そんな!? ボクはてっきりまだ学校に来れないかと……」
「……ごめんね。熊野君。何も告げずに、勝手に、死んじゃって」
「なんで。なんでよ! 八雲さん!」
「……」
「何で勝手に死んだんだよ! なぁ! また一緒に『異世界の話』をして盛り上がろう! て。図書室で約束したのにさぁ! なぁぁあ!」
「……」
彼があんなに大声を出して、感情ぐちゃぐちゃで泣いた姿は、初めて見た気がする。
いつも僕や仲が良い従業員の前では『ポンコツ』と言って毒舌を吐きまくっていたのに。
しかも、僕の隣にいたカンナも、釣られて泣きそうになっていた。
「……。……でも、最後だけ、最後だけ。これだけ、言わせて……、欲しいな」
「何っ!? なに!? 早く何か言ってよ! ねぇ!」
「……」
彼女は振り返り様に、こちらを見ながら微笑んでいた。
体全体が、徐々に薄れ、声もノイズのようにかすれていく中、彼女はこう告げてきたのだ。
「わたし……、八雲……、リ、ンネ、は……、熊野……、くんの、こと……、心から……、好き、で……、し……、た……」
「……え?」
「トレゼ……、シュテ……、テ……、ラ……、リア……、リター……、テ!」
最後の力を振り絞りながら、か細い声で呪文をかけた後、僕らは青白い光と共に、意識を失ってしまったのだ。
…………。
…………。
――真夏の夜の大冒険、これにて終焉。




