77
前話未完成の状態で投稿されていたので修正入れました。失礼しました。
山脈の頂上に着いた2人と1体は、その瞬間に視界が揺らぐのを感じる。ハルトにはどこか懐かしさを覚えるが、決して好ましいとは言えない感覚。それは認識阻害のフィルターが解除されたときに似ていた。
「さっそくお出ましか」
本能のままに戦うため、思考力が多少低下している代わりに動きに迷いが無い。そんな神獣を模した存在の強襲を受ける。ただの冒険家なら一瞬で決着がついたかもしれないが、今回のメンバーは敵の攻撃を読んでいた。
「奇襲とは容赦ないですね。まあ、襲われるのを知っている私たちもあなたたちからすれば想定外でしょうが」
そう言って、フロアがバックからアイテムを取り出す。
「さて、後先考えない出血大サービスです。――ジェムバースト」
彼が取り出したのは小粒な宝石。それを投げつけ、軽く指を鳴らす。すると目の眩むような眩い輝きとともに様々な効果が発揮される。
黒く一帯を飲み込むような収縮に、立ち上がる火柱。落雷に石化など、多彩な攻撃を前に多くの攻撃に耐性を持つはずの神獣の躯体だが、飽和するほどの攻撃を前には弱点を突かれその身をよろけさせる。
それでも討伐まではいかないあたり、彼らが強力なことは違いないのだが、今回は相手が悪かった。
「最初は魔力の消耗を抑えるか。――ソニックアクション」
ハルトがラピッドアクションの上位スキルを使用し脚力を強化する。その直後、目にも止まらぬ速さで駆け出した彼は、態勢を崩した神獣を次々と切り裂いていった。
「得体が知れないが、やっぱり切れ味は最高だな」
そう思って剣を見ると、うっすら赤く脈打っているように見える。異常かと思い瞬きをして見返してみるとその反応は収まったが、何かの予兆に思えてしまい、不信感が強まる。
「次、来ますよ!」
とはいえ、そのことにばかり気を取られてはいられない。牽制として魔法を打ち出す特殊な銃器を使い、高速で接近してくる飛行型の進路を妨害しているアーク。その声にはっとしたハルトは、スキルが切れていないことを確認して次の敵の撃破に向かう。
しかし、予想以上に敵が多い。神獣を模した存在であるということでそんなに数はいないだろうと考えていたが、倒す速度よりもこの場にやってくる数の方が多いかもしれない。となると敵の全滅による安全確保は望めず、こちらは消耗戦を強いられる。
クロノスの居場所を探し出し、そこへ向かうしかない。そう思って周囲を見渡すと、先ほどまで登ってきた山より高く天を貫く塔が視界に映る。
「あからさますぎるが、他に当てもない。罠だろうと踏み越えていこうか」
アークとフロアに声をかけ、神獣の群れを切り裂いて進む。
目指す先は空を貫く青い塔。明らかに物理法則を無視したその建造物に彼らはなんとか辿り着く。
「何か当てはあるのかい?」
「さあな。場合によっては振り出しに戻るだろうが……」
とりあえずついてきたはいいが、ハルトに考えがあるのか尋ねたフロアはその返信に肩を落とす。しかし、ハルトは最後まで語らなかったが、ある種の確信に近い考えを持っていた。
「やっぱり」
「当たりを引けたかい?」
「まあ、中に入った後のことまでは知らないけど、ここまで来た意味はあったと思いたいところだ」
この世界の維持管理を担い、神獣すら手中に置くほどの存在が、ここまで来るほどの者に対して身を隠すとは考えづらい。
自分の元に来る資格があるか。それを試しはするだろうが、それだけだ。逃げ隠れすることなくあからさまな印を見せつける。それは人の身には傲慢に映るが、その圧倒的な能力からすれば妥当な考え方だろう。
それを察していたハルトは、賭けに勝ったことに安堵する気持ちを覚えるが、すぐに気を引き締めて中に入る。これだけ高い塔なのだ。入口の大きさから、神獣の複製体はその多くが入ってこれないが、だからと言ってこの中に入って何も起きないという保証はなかった。
入ってすぐ、数十段の階段を駆け上がると、そこは洋画で見る舞踏会の行われる広間のような、そんな印象を受ける空間だった。
後を追ってくる複製体もばったりと絶えた後でのその場所。何か出てくるのではないかと警戒する。できれば直ぐにクロノスが現れてくれたなら都合が良いのだが、そこまで都合のいい展開にはならないらしい。
突然足元が揺れ、独特の感覚に見舞われる。振り返ると入ってきた場所がふさがっていく。より正しく言うなら、彼らが立っている広間、それ自体がせりあがり始めた。現代風に言えばエレベーターのように塔を登り始めたわけだ。
「このまま頂上まで、とはいかないらしい」
しかし、揺れに慣れ、ふらつくこともなく立てるようになった頃、上昇速度が緩やかになり、一瞬の浮遊感の後、昇降機は停止する。そして、目の前には他の壁とは明らかに違う、いかにも扉という様相の壁面が正面に現れる。
「っ、横に避けろ!」
頭が割れるように痛み、直感に囁かれるままに叫ぶ。同時に自分もその扉の直線状を避けるように横に跳んだ。
直後、扉ごと焼き切る熱戦が照射され、空気が焼けたオゾンの独特の臭いが立ち込める。
「さすがにこれは地を這う複製体どもとは格が違いそうですね」
「少々危険でしたが、想定の範囲内です」
残り1人と1体も彼の指示が間に合ったらしい。
自我こそないが、おそらくはハデスと同格の神獣。赤い鱗を持つ竜のような外見をしたそれを前に、ハルトは面倒だと言わんばかりにため息を吐く。
「この塔、随分と高かったが、連戦かな……」
とはいえ、やるしかないことは分かっている。連戦なら、長引いて体力を消耗する方がまずい。
「確かにその熱線は脅威だ。まともに受けられる防御力はこちらにない。でも、火力ならこちらも負けてない」
そう告げ、ハルトは剣を構える。
「――心装励起・紫電一閃」
ハデスは確かに強大な敵だったが、その力は遠距離攻撃や死者の魂を扱うという力。防御には地中から呼び起こした骨の壁を使うなど、本体の防御力は低めであり、それゆえに今の素体に慣れていなかった頃のハルトでも大きなダメージを与えることができた。
それに対し、目の前の竜は鱗の強度には自信があるといった様子。しかし、ハルトも当時より今の素体への順応度が上がっている。同じ技でも練度が違っていた。
バチッという乾いた破裂音が鳴り、その一瞬でハルトは竜の背後に立つ。それは次の攻撃の前に敵の背後を取ったかに見えた。
しかし、そう見えただけで実際にはすでに攻撃は終わっている。そのことに気づかず振り返ろうとした竜は、そうして体を捻った瞬間に自分の体がすでに斬られていることに気づく。
切断面から半身がずり落ちていく。首から上が地面に落ちる。その前に、それは光となって消えていった。
「大技を使った様子だが、消耗は?」
「戦闘が長引くよりは軽い消耗のはずだ」
尋ねてきたフロアにそう返事を返すと、フロアはインベントリから小瓶を取り出してハルトに投げ渡す。
「回復薬だ。効力が十分かつ副作用がない使用上限は、一時間に3つまでだから、先に飲んでおくと良い」
「助かる」
「まあ、こっちは活躍できてないからサポートだけでもね」
「……」
何もできなかったアークが落ち込んだ様子を見せるが、次の敵を警戒するハルトはそれに気づかずスルーする。
その後、先ほどの神獣の複製体を倒したためか、再び昇降機が上がり始める。
次の敵は何か。警戒しつつ、この警戒が無駄になってほしいと思うハルトだった。




