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 最近はやけに睡眠時間が長い。アークには新しい素体に慣れるまでは疲労の蓄積が早いという説明をされたが、それにしても寝すぎていると自分でも感じている。

 それに加えて、よく思い出せないが妙な夢を見ている気がした。憑かれるのには慣れているし、思考を読まれるのもそれほど気にしなくなってきたが、それでも何も感じないということではない。原因が分からない体調不良には不快感を覚えてしまう。


 とはいえ、同行者2人に解決できないとなればこちらとしてはお手上げだ。この世界で長い時を生きてきたフロアと、ゼウスの遺物が分からないというのなら、その辺の町の診療所で何とかなるとは思えない。


「能力の調子はどうだい?」

「アビリティもスキルも格段に強力になってる。プレイヤーとしてステータスをパンドラの連中に可視化されていた頃なら数値化できたんだろうが、これはその機能の無い素体だから、評価は主観的かつ感覚的なものに過ぎないが」


 そう言って周りに誰もいないことを確認し、その辺の木を一本、圧縮した魔力を弾けさせることで砕いて見せる。


「ただの力業でそれは随分と規格外だな」

「あんまり人外になりたいわけでもないんだが、そんな我儘でできることをしないのも俺の心情に反するところだから、複雑な気分だよ」

「強くなるのは悪いことじゃない。ただ、威力の加減を自在にできるようになっておいた方がいいかもしれないな。なんにせよ、あまり気にしすぎることはないだろうな」


 そんな軽いやり取りをしていたところに、アークがやってくる。


「攻撃の威力の数値化をご所望ですか?」

「別に必要ってことでもない。そもそもあの数値だって参考になるかわからないものだった。本物のゲームなら数値が上の奴が勝つ単純な話だが、この世界で威力は評価項目の一つに過ぎないんだから」


 高い威力に驕って、命中精度や攻撃範囲が落ちる可能性がある。数値を追い求め、実戦に向かない方向で強化を続けることもあり得る。自分を惑わすものは増やしたくなかった。


「そうですか」


 頼って欲しいアークとしては、何もできることが無かったことに対して残念そうな態度をとるが、それに気づいたのは残念ながらフロアだけで、そのフロアも別段彼女に便宜を図る理由もなく、ハルトは何も気づかずその話を終えた。


~~~~


 世界の端に着く道は平坦ではない。うっかり世界の真実に近づくものが出ないように、いくつかの難所が存在する。

 とはいえ、侵入を阻む最初のエリアは、足を踏み入れたところで大して問題は無い。ただただ深い森という環境。一般キャラクターでは食料や水が尽きるのが先になるくらいには踏破に時間がかかるようになっている。


 そんな森を抜けた先にあるのは、高い壁のようにせり立つ山々。高度が上がればただ登るだけでも体力を消耗するほどの極寒の環境。人工物かと思うくらいに鋭く、風を凌げるくぼみもろくに見当たらない環境は、魔法という超常的な力があっても過酷であり、長い森を抜けてきた冒険家精神を持つ者たちは、ほとんどその山脈に阻まれる。


 その山の頂上に登り、世界を見下ろすときになってようやく、ハルト達が目指す世界の端を目にすることができる。


 だが、仮にそれを目にすることができたとして、その光景を記憶したままに帰還が叶うわけではない。

 世界の外側、その真実を知る者を抹殺するために用意された存在、神獣から意思を消し、戦闘本能のみを持たせた脅威、抹殺者と呼ばれる脅威を退けなければならない。


 とはいったものの、接触したのがキャラクターであれば見たものすべての記憶を消して帰されるだけであり、世界の果てを見るという偉業を成し遂げるほどの者が消されることはない。



 しかし、今回の場合は違う。記憶を消されるのは困るし、そもそもキャラクターではないハルトを生かして帰してくれるのかも怪しい。


 アークとフロアの協力もあり、これまでの進行で体力を消耗しているといったことはないが、この先の戦いに不安を感じないのかと問われれば、感じていると答えるだろう。


「今の我々の戦力であれば何とかなるかと」

「情報はあっても実際に戦いを見たことはないか」

「はい。そのため確実なことは言えません」


 そろそろこの旅の終わり、山の頂上が見えてくる。

 アークも、あくまでゼウスが保有する情報の一つとして概要を知っているだけであり、世界の端の光景を記録しているわけではないという。


「ここまで来てこの提案をするのはおかしな話かもしれませんが、ご主人様さえよろしければ、この脅威に立ち向かう必要なんてないのです」


 そんなハルトの不安を感じたからだろうか。アークはそれとなくここで退き返すかどうかを問う。しかし、彼はその言葉に首を横に振った。


「確かに俺がこの世界に取り残されたプレイヤーに対して何かする義理はないかもしれない。だが、ログアウトできない状況から解放されることを望んでいるのは、誰かのためなんかじゃないんだ。俺自身がこの騒動の現況に対して文句を言ってやらないと、落ち着いて眠っていることもできないんだよ」


 ずっと頭の片隅に、誰かが用意した環境で生かされていることが脳裏をちらつくのは気持ち悪い。所詮現実というのはそういうもので、誰かに生かされていることは別段おかしな話ではないかもしれないが、そういうことを考えるのは哲学者のやることで、ふと脳裏を過る内容としては重苦しくて仕方がない。

 だからハルトはクロノスに会い、この世界に残るか、元居た現実世界に戻るかを自分で選べるようにしたいと願っている。


「わかりました。これ以上は何も言いません」

「面倒ごとに付き合わせてしまってすまないが、見放さないでくれるとありがたい」

「私からご主人様を見捨てることはありません! たとえ、命を懸けてでも……命は、無い、ですが……」

「自己犠牲は勘弁してくれ。罪悪感がある。それと、少なくとも俺はあんたが命を持っていてもおかしくないと思ってる。自分で考え、何かを感じることができるなら、それは生きていて、命を持っていると言ってもいいと思ってる。あくまで俺個人の考え方で、強要はしないが」


 今まで、ただ命令を与え、恩恵を与るばかりでろくな話をしてこなかった。そんな関係の1人と1体だったが、この先勝てるかわからない脅威に立ち向かう直前、多少は分かり合うことができただろうか。

 おそらく、報われたことに対する喜びがこれなのだろうと、そう思いながら、アークは軽く笑う。


「それでは、この旅の最後の行程を始めましょう」

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